新型コロナウイルス感染防止のため、花見の自粛が呼びかけられています。そこで、今年は花の桜の代わりに「魚の桜」を見て春の訪れを祝うというのはいかがでしょうか。
(アイキャッチ画像出典:PhotoAC)
日本人は桜が大好き

今年も桜が咲く季節になりました。東京ではいち早く開花宣言が出され、追随するように各地から開花の便りが届いています。その春を感じさせる薄ピンクの色合いは、卒業や入学、就職などの時期とも重なって、おめでたいイメージの象徴になっています。
日本人の桜好きは世界的にも有名。昨年最も我々を熱狂させた存在であるラグビー日本代表「ブレイブ・ブロッサムズ」もその名に負っていますが、我が国では様々なものの名前に桜がつけられています。ということで、サカナ研究所では今回、「桜を名前に冠する魚たち」について調べてみることにしました。和名に冠するものや、春にだけそう呼ばれるものなど、様々な魚が見つかりましたのでまとめていきます。
桜を和名に冠する魚介
「桜」とつけられた魚の中で最も代表的なものは何か。一般的な知名度で言えばおそらくそれはサクラマスではないでしょうか。
サクラマス

サクラマスは「渓流の女王」として知られるヤマメという魚の降海型(湖や河川で生まれ、海に下って成長する個体)で、東日本に棲息しています。全国的な魚ではないのですが、その味の良さから高級食用魚として珍重されており、北日本では寿司ネタとして高い人気を誇ります。名前の由来は「桜の開花期に川を遡上するため」や「産卵期に桜色の婚姻色が出るため」などいくつかありますが、いずれにしても「桜」のイメージを強く持つ魚だと言えるでしょう。
サクラダイ
そのサクラマスと同じように「桜」の名を冠しながら、知名度では遥かに及ばない魚がサクラダイ。

「桜」と「鯛」なのに全くメジャーでないのは、同音異字の魚がいること(後述)と、食用に流通することがないというのが理由でしょう。タイとつきますがタイ科ではなくハタ科に属し、最大で全長15cm程度の小魚で、釣りも含め利用されることはまずありません。ただ小魚ながらも身が締まって歯ごたえがあり、旨味もあるので丁寧に調理すれば美味しい魚です。
サクラエビ
そしてこれは魚ではないのですが、このテーマにおいてサクラエビの存在を無視するわけにはいかないでしょう。

桜色の小さなこのエビは、全国的に名前が知られていますが、実は深海生物。日本で漁獲があるのは、国内有数の深海として知られる駿河湾のみとなっています。とても美味しいエビで刺身やかき揚げなどで賞味されますが、2018年より不漁が続いており、現在も原因の調査が続けられています。
季節によって「桜」とよばれるサカナ
魚によっては、春の時期だけ桜〇〇と呼ばれるものもいます。このうち最も有名なもののひとつに「桜鯛」があります。
桜鯛

こちらは前章で触れた「サクラダイ」とは全く別の魚、正真正銘のマダイです。もとより輝くような赤い体色が美しいマダイですが、産卵期を控えた春先のオスはそこに薄ピンクの斑点が乗り、まるで桜吹雪が散っているようなカラーリングになります。日本で最も尊ばれる魚が、桜の時期にこのような色合いになるというのはまさに奇跡としか言いようがありません。
ウグイ
海の「桜」マダイに対して、川の「桜」といえばそう、ウグイですね!

おっ今「聞いたことねーぞ」という声が聞こえてきましたね。確かにそもそもマイナーな魚たちが多い淡水魚の中でも、中くらいの知名度(個人の感想です)であるウグイ。写真を見てもピンとこない人が多いかもしれません。しかし、春に産卵期を迎えるウグイの婚姻色は非常に美しく、誰の目にも鮮やかに映るはずです。

この赤い色合いと桜の季節を合わせて「桜ウグイ」なんておしゃれに呼ぶ地域もあります。
桜魚
さて、「桜鯛」「桜ウグイ」と異なり、色合いは地味ながらも「桜魚」なんておしゃれに呼ばれる魚たちがいます。有名なのはワカサギ、そしてアユの子です。

彼らはいずれも春先になると漁獲が増え、流通量が増えるため、そのように呼ばれます。蕎麦屋の店頭に「稚鮎入りました」なんて張り紙が登場すると、酒飲みの心でも桜が満開になるのです。「花より団子」という言葉を体現するような魚たちですね。
愛でてよし食べてよしな「桜」たち
せっかくの開花宣言も、おりからの外出自粛により嬉しさ半減の今年。しかし、外出禁止でもこれらの魚を楽しむことはもちろん可能です! サクラダイや桜ウグイは流通にさして乗らないために入手はやや困難ですが、それ以外の魚は桜前線に呼応するように鮮魚店の店頭に並んでいきます。鮮魚店で「花見」というのもまたひとつ乙なものかもしれません。
目で楽しんだあとはもちろん、美味しく調理して心ゆくまで「桜」を楽しみ、ついでに健康になって各種ウイルスに負けない体を目指しましょう!
<脇本 哲朗/サカナ研究所>