富山湾の春を代表する海の幸・ホタルイカ。ここのところ歴史的な不漁が続き、心配されていましたが、2020年は豊漁が予想されています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
富山湾の「ホタルイカ身投げ」

「春を伝える海の幸」は全国各地にありますが、富山湾ではホタルイカがそのような存在であるとされています。本来は水深200~700mに棲息する深海性のイカであるホタルイカですが、春先の産卵期になると接岸します。
接岸後、そのまま浜辺に打ち寄せられる現象を「ホタルイカの身投げ」といい、打ち上げられる瞬間に青白く光る様子は非常に幻想的で観光名物となっています。ちなみにこのような現象が起こるのは富山湾だけで、「富山湾のホタルイカ群遊海面」として特別天然記念物にも指定されています。
過去2年はホタルイカ不漁
接岸したホタルイカは沿岸の定置網漁で漁獲されます。富山湾のホタルイカはサイズが大きく、生きたまま水揚げされることもあって鮮度も抜群。沿岸では古くから春の味覚として愛されてきており、近年では刺身用にパックされた個体も全国的に流通し人気を博しています。

しかしそんなホタルイカですが、実はここ2年は不漁が続いていました。
もともとホタルイカがこの時期に接岸する理由ははっきりとはわかっておらず、好不漁の波がある漁獲物ではあります。しかしとくにこの2年の不漁は歴史的なものであり、解禁日の漁獲が2018年は6kg、2019年に至ってはたったの1.5kgという衝撃的なものでした。通年でも2018年は平年の3分の1強である685tにとどまり、2019年はより少なかったと見られています。(富山県農林水産総合技術センター水産研究所「ホタルイカ漁況予報」,「年報」)
2020年は好漁の気配
そのため漁師の中では「根本的に減少しているのではないか」「富山湾への回遊量が減っているのではないか」という不安の声があったのですが、今年は蓋を開けてみると、最初の12日で過去10年の3月平均漁獲量を超える好漁。関係者はひとまず胸をなでおろしていると思われます。
好漁の理由はやはりはっきりとはわかっていませんが、富山湾におけるホタルイカの漁獲は、前年冬の水温と関連性があることが経験的に知られています。簡単に言うと寒冬の翌年は不漁、暖冬の翌年は豊漁という法則があり、2018年春は低水温だったため2019年の漁獲が少なく、一方で2019年春は記録的な高水温だったために2020年の漁獲は多くなると予想されています。
目玉の処理で食味アップ
というわけで今年のホタルイカは豊漁が予想されており、価格も手頃になるものと考えられます。すでに首都圏でも店頭に並び始めていますが、サイズも大きくとても美味しそうです。
鮮度落ちが早いホタルイカ、都心で売られているものは基本的に一度茹でられたものが多くなっています。こちらはそのままヌタにしたり、あるいは炒めてパスタの具材にしたりするととても美味ですが、調理の際にひとつコツがあります。それは「目玉を除去する」こと。ホタルイカは大きい個体でも全体が柔らかく、まるごと美味しく食べられるのですが、加熱された目玉だけは硬く、舌に触ります。ほんの些細なことに思えますが、これによって大きく食味が変わるので、ぜひそうしてみてください。

生食は寄生虫に注意
また、産地では生のホタルイカも流通しており、とても人気があります。最もおすすめの料理はしゃぶしゃぶで、とろけるような味わいと新鮮な肝のコクが味わえます。
ただ、ホタルイカには旋尾線虫という寄生虫が寄生していることがあり、生きたまま人体内に入ると腸閉塞、皮膚爬行症、眼球移行症などの恐ろしい症状を発症してしまうことがあります。そのためしゃぶしゃぶはしっかりと火を通して食べるようにしてください。同様の理由で生食も基本的にはするべきではありません(市販の刺身用ホタルイカは、冷凍などで殺虫処理をしているので安全です)。
美味しい春の味覚・ホタルイカ。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>