水族館で人気のナポレオンフィッシュ。大きく美しい体は皆の視線を集めます。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
ナポレオンフィッシュとは
ナポレオンフィッシュはベラ科モチノウオ属の魚で、和名では「メガネモチノウオ」と言います。眼の後ろに黒い線があることからこの名が付いたと言われています。
日本にも生息しており、和歌山県でも発見されたことはありますが、基本的に屋久島以南の暖かい海に生息しています。
世界的にはインド洋や太平洋の熱帯など、多くの地域で見ることができます。
ではなぜナポレオンフィッシュと呼ばれるのかというと、その由来は頭にある大きなこぶがフランスの英雄ナポレオンの被っている帽子に似ていたからだと言われています。
ナポレオンフィッシュはベラ科のサカナの中でも最大級に大きくなり、オスの成魚は2m近くにもなります。
これまで見つかった最大の個体は体長229cm、体重191kgという記録も残っています。
この大きさや勇ましい顔はまさに「海の皇帝」と呼ぶにふさわしいサカナと言えるでしょう。
ただし、2mという大型個体は非常に稀で、一般的には1m前後くらいのものがほとんどになります。

性別が変化するサカナ
ベラ科のサカナの特徴の一つに、成長する過程で性別が変化する(性転換)というものがあります。
ナポレオンフィッシュも同様で、生まれてきたときはすべてがメスですが、繁殖の際、群れの中で一番大型の個体が1匹だけオスに性転換し、群れのメスたちと交配し、繁殖を行います。
そして、オスが死んだり、群れを去ったりすると、次に大きかった個体がオスになります。
「弱く縄張りが作れない未成熟な時期にはメスとして卵を産み、強く大きく成長すると縄張りを持って繁殖をする」非常に効率の良い繁殖方法と言えるでしょう。
大きなこぶはオスだけ?
ナポレオンフィッシュの特徴でもあるこの帽子に似た大きなコブは、実はすべてのナポレオンフィッシュが持っているわけではありません。
すべて個体にこぶはありますが、そこまで大きくはなく、トレードマークのような大きなコブを持つのは成熟したオスだけなのです。
そして、コブが大きく目立つ個体は、その大きさに比例して長寿であり、前述した229cmのナポレオンフィッシュは、32年生きたと記録に残っています。
正確な寿命はなかなか算出しにくいのですが、様々な施設の記録などから平均寿命は20年~30年くらいだと言われています。
美味しいせいで激減
ナポレオンフィッシュが生息する南の海では、彼らは非常に美味しいサカナとしても有名です。
沖縄では、「ヒロサー」などという名前で呼ばれ、漁師たちに格好の食材として獲られてきました。
香港ではナポレオンフィッシュは「蘇眉(そうめい)」と呼ばれ、高級食材として扱われています。
食べると寿命が延びると言い伝えがあったため、台湾や東南アジア諸国で乱獲、密漁が頻発し、その生息数は激減してしまいました。
絶滅の危機?
ナポレオンフィッシュは見た目の面白さや味がよいという理由により乱獲され、また地球温暖化などの影響で生息するサンゴ礁が減少したことから、ここ30年ほどの間に数が激減してしまいました。
そのため2004年には絶滅危惧種に加えられ、現在は捕獲も制限されていますが、密漁も後を絶たず、各地で生態調査や保護活動が強化されています。
近年では世界的に人工的な繁殖にも成功し、日本でも沖縄県などで養殖が始まっています。
少しずつではありますが、生息数は確実に回復傾向にあり、今後の成果に大きな期待が寄せられています。
水族館のアイドル
全長2mに達することもあるナポレオンフィッシュは厚い唇と大きな口、色鮮やかな体色や模様は水族館でも圧倒的な存在感で人気者です。
野生では、少し気の強い一面もありますが、飼育されている個体は性格が穏やかで人懐っこい性格をしているものが多いです。
エサの時間になるとダイバーに自ら近付き、手からエサをもらったり、頭のこぶを撫でてもらって喜ぶ姿が観察されています。

<近藤 俊/サカナ研究所>