釣りでたまに釣れることのあるサカナの中にキタマクラというものがいます。毒があるから食べてはいけないというのは有名ですが、実は皮膚にも毒が存在するのです。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

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キタマクラとは

皆さんは『キタマクラ』というサカナをご存じでしょうか?

キタマクラはスズキ系・フグ目・フグ科・キタマクラ属に属する魚で日本近海で比較的良く見かけ、魚釣りをする人にとってはエサ取りのサカナとして知られています。

生息地域は関東地方より南の沿岸部と言われていますが、近年の地球温暖化の影響で生息域は少しずつ北方に広がってきていると考えられています。

体長は約10㎝前後のものが多く最大でも15cm程度にしかならない小型のサカナです。体色は背側は茶褐色、腹側は白色で、胸ビレから尾ビレにかけて2本の黒っぽい縦帯が入っているのが特徴です。

食性は雑食であり、強靭な歯を使って小魚や甲殻類、貝類、海藻、ヒトデなどさまざまなものを捕食します。この強靭な歯によって、釣り糸が噛み切られてしまうため、釣り人からはあまり好かれてはいません。

「食べたら死ぬ」で知られる『キタマクラ』は素手で触ることもダメ?
毒々しいキタマクラ(出典:PhotoAC)

美味なハギとの見間違えに注意

キタマクラは見た目のシルエットやとび出た口などの形態的な特徴から、カワハギと間違われることが多いようです。

中でもウマヅラハギは非常によく似ており、「ウマヅラハギだと思って食べてしまったものが実はキタマクラで危うく本当に北枕になってしまうところだった」なんて事例も存在するようです。

しかし、キタマクラとカワハギでは大きく違う特徴がいくつかあります。

・カワハギの皮膚がザラザラなのに対し、キタマクラはヌルっとした粘液で覆われている
・体の形はカワハギの方が体高が高く、キタマクラは比較的体高が低い

他にも模様などは全く異なるので、危険を回避するため事前に覚えておくといいかもしれません。

「食べたら死ぬ」で知られる『キタマクラ』は素手で触ることもダメ?
ウマヅラハギは特に似ている(出典:PhotoAC)

キタマクラは「北枕」

なぜ名前がキタマクラなのかというと、これには彼らが持つ毒が深く関係しています。

日本では亡くなった方を横たえる際、北枕にする慣習があり、キタマクラを食べることで同じ状態になってしまうという連想からこの名がつけられたと考えられています。

キタマクラは毒のあるサカナとして有名なフグの仲間なので、体にテトロドトキシンという強力な神経毒を持っています。この毒は非常に強力なため、「キタマクラを食べると死んで北枕になってしまうぞ」という戒めの意味が込められているのです。

「テトロドトキシン」とは

キタマクラが体内に持っている毒は、フグ毒でも有名な【テトロドトキシン】という毒です。この毒は非常に強力なもので、とても厄介な性質を持っています。

なんとなく「毒は加熱すれば大丈夫」なイメージがありますが、テトロドトキシンは300℃以上に加熱しても分解されません。

また、私たち人間が口から摂取すると約2-3mgで致死量となってしまいます。これはよくサスペンスドラマで登場する青酸カリの850倍の強さなのです。神経毒の為、微量でも手足のしびれ、濃度によっては呼吸器系のマヒや全身マヒが起きてしまいます。

更にこの毒には特効薬が無く、体内に侵入してしまうと、胃洗浄や下剤などで強制的に体の外に排出しなければなりません。

テトロドトキシンは非常に厄介な性質を持っているのです。

しかし、この毒はもともと彼らが生まれながらにして持っていたものではなく、食べた貝や海藻、小魚などが持っていたものが、キタマクラにどんどん蓄積していったものだと考えられています。この毒生成のメカニズムはフグでも同じで、高級食材のトラフグの養殖ではエサを徹底的に管理することで、無毒の個体が生み出されるようになっています。

粘液にも毒がある?

フグの毒は基本的には内臓や肝臓などに高濃度に貯蓄されています。そのため、食べる際はフグ調理の免許を持っている人が捌き、毒のある部分をしっかりと排除することで美味しく食べることが出来ます。

しかし、キタマクラの場合は内臓の他に、皮膚を覆う粘液にも毒が含まれています。そのため、直接素手で触ったあとに手が口に当たったり、目をこすったり、傷口に粘液が触れてしまうと、そこから体内に毒が侵入してしまいます。

前述のようにほんの微量でも体内に侵入しただけで大問題です。

釣れても素手では触らないようにし、どうしても触れなければならない場合はビニール手袋などをして触るようにしてください。

食べることは可能?

キタマクラはフグの仲間であるのに食べても美味しくないサカナとしても知られています。

フグは高級食材として刺身やテッサ、ひれ酒などにして好んで食べられますが、キタマクラの場合は苦労して毒を取り除いてもまったく美味しくありません。

一部のマニアックな人たちからは刺し身にするとおいしいという話もありますが、身は水っぽく、フライなどにしても美味しいとは言えないそうです。

また、サカナ自体が小ぶりなため、労力のわりに可食部が少なく、さらに美味しくないとなってはほとんどの人が食べようとはしないのも納得でしょう。

飼育する人もいる

一方で、日本よりも南国に住むキタマクラは観賞魚の世界では人気者です。体はドット模様でヒレも黄色く色鮮やかなため、比較的高値で取引されています。

キンチャクフグと呼ばれるキタマクラの仲間は種類も多く、水族館の南国エリアなどで見ることが出来るでしょう。

「食べたら死ぬ」で知られる『キタマクラ』は素手で触ることもダメ?
観賞魚としては人気が高い(出典:PhotoAC)

釣れたら優しく海へ

日本の釣り場で見かけるキタマクラは毒性が強く、釣り糸を切ってしまったりと厄介者として扱われています。

しかし、もし釣れたとしても素手では触らないようにして優しく海に返してあげて下さい。

人間にとってはあまり利益の無いサカナだとしてもひとつの命です。同じ地球の住民として、極力丁寧に扱ってあげるべきでしょう。

<近藤 俊/サカナ研究所>

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