夏の夜の海に出かけてみれば、海中に乱舞する美しい幽霊を見ることができる。その名はタチウオ。
(アイキャッチ画像提供:週刊つりニュース中部版 浅井達志)
伊勢湾の陸っぱりタチウオ
タチウオはその神出鬼没さゆえ、「幽霊魚」と呼ばれる魚だ。伊勢湾では沖釣りのターゲットとして人気だが、もちろん岸からでも狙える。そこで今回は、手軽に楽しめる陸っぱりのタチウオについて解説しよう。
伊勢湾の特徴
私がホームグラウンドとしている伊勢湾周辺は、大阪湾や駿河湾などと違って、タチウオの接岸が安定しない。全く釣れない年があるかと思えば、長期にわたって釣れ続く年もあるなど、まるでパターンが読めないのだ。
しかも、陸っぱりではマイナーなターゲットなので、その情報は予想以上に少ない。実績ポイントは名古屋港や四日市港といった湾奥から、南知多、鳥羽、尾鷲周辺の各漁港まで広範囲に及ぶが、なにしろ相手は幽霊魚。どこに出没するのかは、その時のタイミング次第だ。
2020年も好釣果が期待
そんななか知多半島では一昨年、晩夏から晩秋にかけて大きな群れが接岸した。昨年は鳥羽方面でも、同じ時期に広い範囲で接岸。尾鷲周辺でも夏から真冬までと、私が把握しているだけでも、ここ数年は好釣果が続いている。神出鬼没な魚だけに、出先でバッタリ遭遇できる可能性もまた大いにある訳だ。
これは湾奥も同様で、昨年末から本記事を執筆している現在まで、名古屋港や四日市港などで小型ながらも断続的に姿が確認されている。黒潮の蛇行など諸条件が昨年とよく似ていることを考えれば、今シーズンも期待できそうな雰囲気だ。

ただし、シーズン初期は小型が中心。陸っぱりの場合、このエリアのアベレージサイズは、せいぜい指2本前後だろう。とは言え、ゲーム性の高さは親譲り。いや、それ以上と言ってもいい。しかも、調理法によっては丸ごと食べられるというオマケ付きだ。
タチウオのポイント
タチウオの狙いめのポイントは常夜灯周り。活性が高いときなら、水面でギラッと光る姿を確認できることも多い。そうでない場合でも、何度もアタリが出るのにフッキングしない、ワームがボロボロになる、突然のラインブレイク、などといった症状が出るときには、その存在を疑ってみる必要がある。
ライトタチウオタックル
一度接岸すればしばらく楽しめるが、群れがいなければ手も足も出ない。そんな魚なのでアジやメッキ、根魚などといった他のターゲットと併せて狙う、というスタイルが正解だろう。

流用タックルでOK
当然タックルもメバルやアジ用の流用で十分。とはいえ極細のエステルラインは、さすがに不安要素が大きい。快適に狙うなら0.2~0.6号程度のPEラインに6~10lbのフロロカーボンラインリーダーをセットしておきたい。スペアスプールを用意し、状況に応じて使い分けるといいだろう。
リーダーの工夫
ここで注意したいのがタチウオの歯。指でもラインでも、軽く触れただけでカミソリのようにサクッと切れてしまう。太めのリーダーを使用する手もあるが、私は通常のリーダーの先端部をダブルラインにしている。その際、2重になった部分の1本を微妙にたるませておくのが裏技だ。テンションのかかっていないラインは切られにくいので、万一の際の保険となる。

チチワを作ってパロマーノットで結束すれば、強くて簡単で余りイトも出ない。また、スナップも積極的に使用したい。これは作業性の向上だけではなく、ルアーとリーダーとの距離を稼ぐための必須アイテムでもある。
フッキング率を左右する「ルアー」
さて、問題はルアー。メバルやアジ狙いでタチウオの猛攻に遭った経験のある人なら分かってもらえると思うが、とにかくハリに乗らないのだ。その原因は、両者の捕食形態の違い。メバルやアジがエサを吸い込むのに対し、タチウオはかみ付いて捕食する。そのため、フックの部分を食わせないとフッキングしない。これはワームを使っている場合に特に顕著なのだが、対策は次の通り。
プラグとメタルジグ
1つは、プラグやメタルジグに変更することだ。特にプラグはトリプルフックが2個装着されているものが多く、どこをかんでもフッキングする確率が高い。ミノーやバイブレーションなど、反応のあるレンジによって使い分けるといいだろう。

アシストフックを使用
そしてもう1つは、ジグヘッドにアシストフックを装着すること。下側にもアイの付いたジグヘッドなら、トリプルフックが使える。その際、フックの位置がワームの中央からやや後ろ寄りになるよう、スプリットリングの数やスナップなどで調整するといい。3本のハリのうちの1本をワームに刺し、いい位置で固定しておこう。

ただし、トリプルフックは外す際の手返しが悪い。そんなときは、引き釣りで使うような小型のタチウオテンヤを流用する手もある。要はフックが下向きで、シャンクの長いジグヘッドだ。とはいえ、相手が指2本以下になると市販品では少し大きすぎる感もある。器用な人なら自作してみるのもいいだろう。
グローカラーは外せない
プラグでもジグでもワームでも、とにかくカラーはグロー系が圧倒的に強い。色に関して無頓着な私も、これだけは絶対に外せない。食いが渋くなってきたときにルアーを光らせるとアタリが復活することも多いので、忘れずに用意したい。
ライトタチウオの釣り方
さて、いよいよ釣り方について解説しよう。
タダ巻き→ワインドが正解
タチウオ=ワインド、と思っている人が意外に多い。確かにダートアクションは効果的だが、トリッキーなアクションはミスバイトも誘発する。それはラインブレイクの原因にもなるため、まずはタダ巻きで誘い、反応を見てからワインドに移行するのが正解だ。

レンジ(タナ)
タチウオはレンジにシビアなので、まずはカウントダウンしながらカーブフォールで上から下まで探る。食い上げのアタリも多いので、フォール中はサオ先に神経を集中し、ラインテンションの変化に気を配りたい。底まで落としてアタリがなければ、次はゆっくりと巻き上げながら水面まで探っていく。この場合はアタリも明確に出るので問題ないだろう。
いずれもアタリがあれば即アワセ。かみ付き型の捕食をする魚が向こうアワセでヒットすることは極めてまれなので、積極的なアワセが必要だ。
ヒットを重ね、レンジが特定できればカウントダウンからのスイミングで一定のレンジを探っていく。
アクション
ストレートなアクションではアタリが出ない、あるいはアタリは出るが食い込まない、といった場合には、時折小刻みなシェイクを入れてみよう。その直後にヒットすることが多いので、気は抜かないように。

それでも食わなければワインドの出番。タチウオ用に市販されているワインド用ジグヘッドは指2本クラスには大きすぎるので、ライトゲーム用のものを流用することになる。アシストフックなどを活用することが、ヒット率を上げるコツだ。
アクションは、スナップを効かせたジャークとテンションオフ。これをリズミカルに繰り返すことでルアーをダートさせる。ここで大切なのは、テンションを抜きすぎないこと。無駄なラインスラックは感度を鈍らせるだけでなく、切られる原因にもなる。
タチウオの「フカセ釣り」
xタチウオは典型的なフィッシュイーターなのでルアーに対する反応は抜群だが、エサ釣りもまた味わい深い。電気ウキやテンヤの引き釣りも面白いが、ここでお勧めしたいのはフカセ釣りだ。

タックル
タックルは、これまた何でもアリ。常夜灯周りならタチウオは足元の明暗部に群れていることが多いので、状況によってはノベザオでも狙える。
仕掛けは5号程度のハリスに市販のタチウオ用のハリ(ストレート形状のワームフックでもOK)を結び、チモトから5cmほどをビニールチューブやゴム管でカバー。
エサ
エサはキビナゴやサンマの切り身などが定番。投入したら、フォールするケミホタルの光を目で追っていく。光が見えなくなったらフワッと誘い上げ、再びフォールの繰り返し。
アタリはケミホタルの動きで見るが、捕食シーンが丸見えのことも多い。こちらはルアーと違って早アワセ厳禁。しっかり食わせてからアワセを入れよう。相手の動きが手に取るように分かることもあって、やってみると予想以上に面白い。最初はアワセのタイミングに悩まされるが、慣れてしまえば誰にでも楽しめる。
注意点
タチウオ釣りで最も注意が必要なのは、ハリを外すとき。というのも前述した通り、鋭い歯を持っているからだ。不用意に手を口元に持っていくとかまれる危険性がある。ハリを外すためのプライヤーなどは、事前に準備しておきたい。

タチウオはどう猛なイメージだが、意外にもデリケートな魚だ。ウロコがないため、手でつかんだり地面に置いたりするだけで致命傷となる。リリースするなら魚体には一切触れず、水面上でハリを外してあげたい。その場合、バーブレスフックは必需品だ。
食味も抜群
キープする場合は、氷でしっかり冷やして持ち帰るのがおいしく食べるコツ。鮮度落ちが早い魚なので、特に夏場は注意したい。指2本以下の新子はブツ切りにして素揚げや唐揚げ、南蛮漬けなどにすると骨ごと食べられて予想以上にうまい。この味にハマってしまうアングラーも実は多いのだ。
それでも良型が釣りたい、という場合は晩秋まで待つか、関西や静岡方面に出かけるのが正解だろう。しかし、手軽で繊細なライトタチウオもまた面白いもの。この夏、どこかで遭遇することがあれば、ぜひチャレンジしてみよう。
<週刊つりニュース中部版 浅井達志/TSURINEWS編>
この記事は『週刊つりニュース中部版』2020年8月22日号に掲載された記事を再編集したものになります。