魚は我々ヒトにとって「食材」として、また地球の生態系を支える存在として大変重要な存在ですが、文化的な側面で言えば「モチーフ」としてもまた重要な存在であるといえます。

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「懸魚」ってどんなサカナ?

突然ですが「懸魚」ってなんて読むかわかりますか?

魚の字が使われた熟語には読み方が難しいものがいくつかありますが、この「懸魚」もそのひとつ。正解は「げぎょ」です。

懸魚とは、神社仏閣のような立派な和風建築の屋根に見られるもので、左右両側の屋根がぶつかる場所にぶら下がるように掛けられる、魚をデザインした装飾品です。

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懸魚(提供:PhotoAC)

大体の建物で懸魚は目立つところにつけられているため目に付きやすいですが、その名前とともに、その役割も殆ど知られていないと思います。じつはこれは「火事除けのお守り」なのです。

古くから我が国には「魚を模したものを屋根につけておくことで、屋根に水をかけるのと同じ意味がある」という言い伝えがあります。木造建築が多く火事に弱い我が国の建物において、懸魚は欠かせないお守りだったと言えます。

サカナは縁起が良い

さて、この懸魚に関わらず、魚をモチーフにしているものや、その「意味」にはいろいろなものがあり、調べていくと興味深いです。

たとえば、古くから日本や中国では、着物に魚の文様を用いることが多いのですが、これにも意味があります。

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魚は裕福さの象徴?(提供:PhotoAC)

中国では魚という字は「ユィ」と発音するのですが、これは「有余」(有り余る)と同じ発音になり、そのため魚は「有り余るほどの富」を連想させるものだとされているのです。そして、魚にちなんだものを身につけることで、富が有り余るほど手に入ることを願ったといいます。

さらに加えて、魚には「多くの卵を生む」ものが多いため、子孫繁栄につながるものとしても尊ばれました。これもまた、魚が縁起の良いものと考えられてきた理由です。

宗教文化で使われることも

欧州世界においては、魚はとある宗教の文化において欠かせない存在です。その宗教とは、世界で最も信者数が多いとされる「キリスト教」です。

キリスト教において「魚」は神聖な意味を持っています。宗教画には魚が描きこまれているものが多く、聖書の中のエピソードにも魚は多く登場します。なぜ魚が重要な存在になったのでしょうか。

ローマ帝国時代、キリスト教はまだマイナーな宗教の一つに過ぎず、異教として迫害を受けていました。そのため信者は信教をおおっぴらにできず、言葉や見た目に表さずとも互いが同じ宗教を信じていることを知るための方法を必要としていました。その中で用いられたのが「イクトゥス」です。

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中に文字が描かれたイクトゥス(提供:illustAC)

イクトゥスは、2本の曲線を重ねて作ったごくシンプルな魚の模様。一人の信者が1本めの曲線を描いておいたところに、別の信者がそれに合わせてもう1本の曲線を書き込んでイクトゥスを完成させると、互いがキリスト教徒だとわかるという仕組みになっています(もしキリスト教徒でない人が見ても、1本のただの曲線に過ぎずなんのことかわからない)。

ギリシャ語で「魚」を表す「イクトゥス」は、キリスト教が迫害されることの少なくなった今でも、神聖なものとされています。キリスト教において魚が重要な存在である大きな理由の一つと言えるでしょう。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>

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