魚の中には一生の間に性転換を行うものが多く知られていますが、中には1日の間に何十回も性転換を繰り返す種もいます。にんげんからするととてもミステリアスな魚の「性転換」について、その理屈や理由を紹介します。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
性転換する魚たち
瀬戸内海を代表する魚のひとつ・コブダイ。その巨体とユーモラスな見た目で広く親しまれていますが、性転換をする魚の一つとしてもよく知られています。
コブダイは1匹のオスと複数のメスでできた群れで暮らしています。生まれたときはすべてメスですが、何らかの事情で群れのオスがいなくなってしまうと、もっとも大きなメスがオスへと性転換を行うのです。

コブダイに限らず、性転換をする魚は海水・淡水問わず存在し、400種類にも及ぶと言われています。身近な魚の中ではキュウセンなどのベラ類や、クロダイなどが知られています。
性転換の仕方
魚のような高度に進化した生物で、先天的にではなく後天的に生物学上の性を変更できるというのは、一見すると不思議なことです。
実は魚類の多くは「女性ホルモン分泌量を低下させる」ことで、成体になったあとも容易に性転換することができます。これは遺伝的・先天的に生物学上の性が決まる哺乳類などとは大きく異なっています。

空気を読む?
さらに、性転換については「空気を読んで」行われると考えられています。性転換のきっかけをもたらすのは「相手の性が周囲にいない・いなくなったことを視認する」ことで、魚が自発的に女性ホルモンの分泌量を変化させ、オス/メスへと性転換を行うのです。(『魚は性を自由に換える』SYNODOS 2016.3.24)
一日に複数回性転換する種も
2016年には、性転換する魚に関するユニークな発見がありました。カリブ海などに棲むハタ科の熱帯魚「チョークバス」という魚についてのものです。
ハタ科の小型魚には日本近海にも多いサクラダイをはじめ性転換をするものがいくつか知られています。しかしこのチョークバスはなんと「20回以上」も性転換するのだそうです。

この魚は繁殖活動の際、パートナーと互いの性を入れ替えながら交配します。基本的にどんな動物でも、生殖にあたっては産卵を伴うメスの負担が大きいのですが、このチョークバスはその負担をシェアすることで、パートナーとの結び付きを強めているのだと考えられているそうです。
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<脇本 哲朗/サカナ研究所>