超重要な経済種でありながら、養殖方法が確立されていなかったイカ。しかしついにその技術が実現されるかもしれません。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
アオリイカの画期的養殖技術が開発
沖縄県恩納村にある沖縄科学技術大学院大学が今月2日、高級食材として知られるアオリイカの、商業化を念頭に置いた養殖技術を世界で初めて開発したと発表しました。
当大学では2017年よりアオリイカの養殖研究を始め、今年までの5年間で5万匹以上のアオリイカ稚イカの孵化に成功。今年4月には、孵化から繁殖までを10世代にわたって繰り返す累代飼育に成功したといいます。これは世界初のことだそうです。

研究では、イカの成長に合わせて、水温や水質などを調整した16個もの水槽を用意。その結果、既存の研究では数%にとどまっていた、稚イカの孵化後90日生存率が90%超まで上昇し、これによって養殖実現への道がひらけました。
今後は、県内の漁協関係者や行政と協力し、養殖技術の商業化に取り組む予定だそうです。
実は難しいイカの養殖
イカには大きく分けて「海中回遊するタイプ」と「海底であまり動かずにいるタイプ」の2つがあります。今回養殖が成功したアオリイカは「ツツイカ類」というグループのイカの一種で、この2タイプでは前者にあたります。
ツツイカ類のイカは、魚で言うとマグロやサバなどの回遊魚のように、海中を広く泳ぎ回りながら暮らしています。そして彼らは急いで泳ぐとき、水管から水を噴射して「後方に」進みます。そのため、水槽やいけす内で飼育しようとするとすぐに壁にぶつかって死んでしまうのです。

このため、これまでの養殖技術では「広く長い水槽」「ドーナツ型の水槽」などが必要となり、巨大なコストがかかってしまっていました。ツツイカ類が我々にとって非常に重要な食用魚介類であるのに、養殖がなされてこなかったのはこのためです。
イカは再び庶民の手に戻るか
日本人にとって最も身近な魚介類のひとつであるイカ。平成の中頃まで、日本で最も消費されている魚介類は「スルメイカ」だったことも、その印象を裏付けます。
しかし平成の後期になると、海流の変化や海洋温暖化、そして乱獲などによりスルメイカの漁獲量が減少。つられるように他のイカ類も資源量が減っていき、現在日本近海のイカ資源量は、80年代と比べ1割ほどまで減少したと見られています。

その結果、イカの価格は種類を問わず高騰。需要を満たすために南米などから大量に輸入されているのですが、それでも庶民にとって縁遠い食材となりつつあるのが現状です。
今回養殖技術が開発されたアオリイカが含まれるツツイカ類には、スルメイカやヤリイカなど、身近な惣菜用イカも多く含まれます。今回の技術はアオリイカ用に設定されたものだということですが、生態の共通点から他のツツイカ類にも応用ができる部分もあると思われます。ぜひ他のイカの養殖にも活用され、養殖イカの存在が一般的なものとなってくれればいいなと思います。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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