「海のミルク」とも言われ、老若男女に人気のある人気の貝・牡蠣。生でも、焼いても絶品な牡蠣ですが、常に食中毒のリスクが付きまとう点がネックの食材です。
(アイキャッチ画像提供:株式会社ゼネラル・オイスター)
「あたらない牡蠣」の養殖に成功
牡蠣の種苗生産・養殖、卸販売、オイスターバーの運営などを展開する株式会社ゼネラル・オイスターのグループ会社である株式会社ジーオー・ファームが、沖縄県久米島で海洋深層水を活用した牡蠣の完全陸上養殖に世界で初めて成功※1し、ノロウイルスフリーの”あたらないカキ※2『エイスシーオイスター2.0』として発表しました。
※1 海洋深層水を活用した牡蠣の完全陸上養殖、及び、完全陸上養殖によって成貝まで生育したことが世界初。
※2 「あたらないカキ」とは、人に害を与えるウイルス、細菌類、貝毒などの病因を含まない海洋深層水を使用した、完全陸上養殖の環境下で生育された牡蠣で、喫食者の体調・免疫反応による体調変化は除外。外部検査機関におけるノロウイルス検査実施済み。
陸上養殖研究開発の背景
2006年のノロウイルスの流行以降、貝類、なかでも「牡蠣」は食中毒感染のリスクが高い食品として嫌煙されることが多くなりました。ノロウイルスは感染力を長期間保持できることも特徴です。感染者の糞便などにより排出されたノロウイルスが下水処理場で完全に浄化されないまま河川へ排出され、海域に流れ込み、それを牡蠣が体内に取り込み、汚染された牡蠣を人が食べるという循環の間、感染力を維持し続けています。
これまで牡蠣のノロウイルス汚染を排除するため、浄化方法や様々な研究、取り組みが行われてきました。生食用牡蠣について、出荷前に紫外線照射水などによる浄化を20時間程度行う方法が主流ですが、この方法では牡蠣の中腸腺に蓄積・濃縮されたウイルスの多くは除去されるものの、完全な除去は困難であるとの見解が示されています※3。つまり、この浄化方法では、餌とともに牡蠣が体内に取り込んだノロウイルスを完全に取り除くことは出来ず、ノロウイルスに汚染された牡蠣が市場に流通してしまいます。
※3引用文献
誌名:食品衛生学雑誌 ISSN:00156426 発行元:日本食品衛生学会 著者名:国立感染症研究所西尾治氏、他 巻/号:46巻6号 掲載ページ:p.235-245 発行年月:2005年12月
安心安全への取り組み
ゼネラル・オイスターでは、独自で牡蠣の安全性を高める研究開発を行っています。
牡蠣は海水を大量に取り込む
牡蠣は餌である海水中の植物性プランクトンを取り込もうと、1時間に約20L、1日約400Lもの海水を吸い、吐き出しています。牡蠣は海をきれいに浄化する貝類といわれるほど、海水の状況により牡蠣自体も影響が及びます。
海洋深層水に着目
一般的には、牡蠣が取り込む海水を紫外線で殺菌して牡蠣の体内を浄化する紫外線殺菌海水を用いた方法が取られていますが、より高い安全性を求めて当社は海洋深層水に注目しました。海洋深層水とは、太陽光が届かず、表層の海水と混ざらない水深200m以深の海水のことで、極めて清浄性の高い海水です※4。清浄な海洋深層水を確実に牡蠣の体に廻らせることで牡蠣は浄化されるのです。
※4 海洋深層水の清浄性にて立証「海洋深層水研究(Deep Ocean Water Research)」,3(2),91-1002002 髙橋正征氏・池谷透氏著
特許技術を用いた牡蠣の浄化
当社は、この浄化メソッドを確立し、2014年7月に富山県入善町に浄化センターを設立。特許技術を用いて海洋深層水による牡蠣の浄化を行っています。

日本全国から仕入れた牡蠣を、海洋深層水をかけ流しにした畜養プールで48時間以上浄化。細菌数、大腸菌(E.coli)最確数、 腸炎ビブリオ最確数を、自社で設けた安全基準の数値まで低下させます。

48時間以上かけて浄化することにより、限りなく安全な牡蠣に仕上げています。ここで浄化した牡蠣を「8TH SEA OYSTER 1.0」として年間約600万個以上を直営レストランや公式通販サイトをはじめ、ホテルや飲食店に販売しています。
「8TH SEA OYSTER 1.0」 監修:公益財団法人日本科学協会会長、東京大学名誉教授、高知大学名誉教授 髙橋正征氏、前 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任准教授 博士(農学)、現 玉川大学学術研究所 特任教授 倉橋みどり氏
独自の安全基準で徹底リスク回避
当社では、食品衛生法に定められた基準よりも厳しい自社基準に従った検査体制を確立し、年間2,000検体以上のノロウイルス検査を実施するなど、牡蠣のリスクを限りなく低減することに取り組み、ノロウイルスが検出されないロットのみを流通しています。ノロウイルス自社検査の具体的な結果として、2022年度には検査数2,121件実施し、検出数は162検体※5、7.6%の陽性率です。

※5 食品衛生法で定められた生食用牡蠣の規格基準は細菌に関する3種のみで、ノロウイルスは自主検査です。ゼネラル・オイスターのノロウイルス自社基準は国が定める10.0コピー未満を陰性、10.0コピー以上を陽性という基準に対して、リアルタイムPCR法により0.1コピーでも検出されたロットは流通しません。そのため、検出数162検体は自社基準による0.1コピー以上検出された検体数です。
食中毒のリスクゼロを可能にした方法
牡蠣の食中毒リスクを無くすためには、牡蠣を汚染しているウイルスの完全な除去方法、あるいはウイルスを殺滅する浄化方法の開発、もしくはウイルス汚染のない環境での牡蠣の飼育が必要とされてきました。

そこでゼネラル・オイスターでは、ノロウイルスの存在しない環境で牡蠣を完全陸上養殖する事業会社として、GOファームを沖縄県久米島に設立し、2014年2月より実証実験に取り組みました。
完全陸上養殖への「壁」
完全陸上養殖には「壁」がありました。
牡蠣の餌「植物プランクトン」の培養
完全にノロウイルスが存在しない海水として、海洋深層水を養殖海水に使用することにしました。

しかし、課題となったのは、海洋深層水には人に害を与えるウイルス・細菌が存在しない代わりに、牡蠣の餌となる微細藻類※6(植物プランクトン)も存在しないことでした。
研究機関やメーカーとの共同研究
GOファームはまず、海洋深層水の清浄性と富栄養性※7を活用した微細藻類の大量培養技術や無菌培養技術の研究を進めました。2013年、東京⼤学⽣物⽣産⼯学研究センターとの共同研究で、海洋深層⽔を活⽤した微細藻類の⼤量安定培養技術を確立しました。また、藻類の波長に応じた独自のLEDの開発もメーカーと行い、現在特許を共同出願中です。

※6 藻類のうち1ミリメートルから1マイクロメートルほどの大きさである植物プランクトン。微細藻類は光合成で有機物を生産して、水圏の生態系における食物連鎖の基盤を担っており、上位の栄養段階の生物に栄養を供給している。
※7 沖縄県久米島の海洋深層水の水深は612m。光も届かず、植物プランクトン等による光合成が行なわれないため、栄養塩が消費されない結果、ケイ酸態ケイ素、リン酸態リン、硝酸態窒素などが多く含まれています。
世界初!牡蠣の完全陸上養殖に成功
国内外で陸上での種苗採卵や、稚貝と呼ばれる1~3cm程度までの生育は行われていますが、その後は海域に移動し生育されています。これは、稚貝以降の成貝までの生育に必要な大量の餌となる、微細藻類の培養が困難なことが大きな要因だからです。

GOファームでは、微細藻類の大量安定培養技術、及び完全陸上で成貝まで成育させる飼育技術を確立したことにより、この度、ノロウイルスフリーの「あたらないカキ」の養殖が実現しました。
これにより、これまでリスクが高いとされていた牡蠣に、確実な安全性をもたらすことができました。※8今後、この「あたらないカキ」を「8TH SEA OYSTER 2.0」と名付けて、ブランド化を図ります。既に本技術は牡蠣の陸上養殖方法として特許を取得しています。(特許第6267810)また、海外においても台湾、中国、米国の3か国にて取得済み、1か国は出願審査中です。
※8 外部検査機関における自主ノロウイルス検査実施済
今後の展開
今後はIoT技術などを駆使した量産化施設の建設を想定しています。量産化に向けたファーストステップは、年間数十万個、その後のセカンドステップでは年間数百万個の生産を想定しています。現在も世界中で、リスクの高い牡蠣の取扱いを敬遠するホテルや百貨店、レストランなどが多数あります。職業上、牡蠣の喫食を控えなければならない方も多くいます。

ノロウイルスフリーの完全陸上養殖の「あたらないカキ」「8TH SEA OYSTER 2.0」の流通により、オイスターの生食文化を守っていきます。今後、「あたらないカキ」「8TH SEA OYSTER 2.0」の登場で、新たな食の楽しみが世界中に拡大しそうですね。
会社概要
2000年創業、2016年より株式会社ゼネラル・オイスターへ商号変更しました。
全国に26店舗のオイスターバーを展開し、陸上養殖実験施設(沖縄県)、浄化施設(富山県)、加工工場(岩手県)等で事業を推進。牡蠣ビジネスの6次産業化を確立し、一貫して安全性の高い高品質の牡蠣を提供しています。未来の牡蠣、先端をいく安全性を追究し続けています。
社名:株式会社ゼネラル・オイスター
代表者:代表取締役社長 吉田秀則
所在地:東京都中央区日本橋茅場町2丁目13番13号 JRE茅場町二丁目ビル7階
設立:2000年4月3日
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<河野陸/TSURINEWS編集部>
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