ニュウドウカジカは北太平洋の冷たい深海底に生息する魚です。これまであまり注目されてこなかったものの、2013年にはある理由から大きな注目を集めるようになりました。
(アイキャッチ画像提供:椎名まさと)
『ニュウドウカジカ』ってどんな魚?
ニュウドウカジカ(学名Psychrolutes phrictus)はスズキ目・カジカ亜目・ウラナイカジカ科・ウラナイカジカ属の魚で、水深400m以深の深海に生息する深海魚です。
分布域は北太平洋に広く見られ、日本では茨城県以北の太平洋岸、北海道オホーツク海岸、東シナ海です。一方海外ではオホーツク海、ベーリング海に広くすみ、北米太平洋岸にまで見られます。
ニュウドウカジカは海底においては灰褐色~茶褐色の体をしており、目立つ模様はありません。体には小さな皮弁が多数見られるのが特徴です。背鰭は1基で、棘条部と軟条部がつながっています。下顎先端には2個の感覚孔があり、これによってよく似たトサカジカと見分けることができます。

ウラナイカジカ科とは
ニュウドウカジカは名前に「カジカ」とついているのですが、カジカ科ではなく、ウラナイカジカ科という別の科の魚になります。
ウラナイカジカ科の魚は、少なくとも標準和名がついているものは日本に11種が知られています。体がやわらかいものが多く、カジカ科の多くの種と識別できます。
以下、日本で見られるウラナイカジカ科の魚の代表的なものをご紹介します。
アカドンコ(Ebinaia vermiculata)
昔は「エビナカジカ」とも呼ばれていました。紫褐色の体をしており、ピンク色にも見えるのでこの名前がついたものと思われます。
主な分布域は北海道から千葉県銚子沖にかけてで、この個体も銚子で漁獲されたものです。なお、「ドンコ」の名がありますが、ハゼ亜目のドンコとは関係ありません。唐揚げにして美味でした。

ボウズカジカ(Ebinaia brephocephala)
ボウズカジカは北は鹿島灘、南は鹿児島県野間池沖にまで分布しています。北日本に多いウラナイカジカ科魚類としては南のほうにまで分布している種です。写真の個体も高知県足摺岬沖の水深270mの深海から、底曳網漁業によって漁獲されたものになります。
この個体は残念ながら標本にしてしまったので、食することはできませんでした。アカドンコに酷似していますが胸鰭軟条数が少ないこと、頭部に皮弁がないことで識別できます。

ガンコ(Dasycottus setiger)
北はオホーツク海から南は山陰地方に分布する深海性のウラナイカジカ属魚類で、頭部の背面に角状の突起があることでほかの多くのウラナイカジカ科魚類と見分けられます。
底曳網漁業によって多く漁獲されています。全長30cmを超え、多く漁獲されるため最近は市場にもたまに出るようになりました。唐揚げや鍋物、汁物にして食べると美味で、卵も食されます。

コブシカジカ(Malacocottus zonurus)
コブシカジカは一見、アカドンコやニュウドウカジカなどに似ていますが、背鰭は棘状部と軟条部に分けられているのが特徴です。
頭部は小さな粒状の鱗に覆われているのが特徴です。水深2000m以浅の深海に生息するほか、カレイ刺し網などにかかることもあり、このコブシカジカもカレイ刺し網で漁獲されたものです。

ニュウドウカジカの顔
ニュウドウカジカの顔で特徴的なのは両眼間隔の垂れ下がった鼻のようなものですが、これは陸上にあげてからしか見られません。というのもニュウドウカジカの皮膚は柔軟であり、陸上に揚げられたことで皮膚がたるんでしまったものとされます。

ニュウドウカジカは2013年まではさほど注目されている種ではありませんでしたが、この年には英国「醜い生物保存協会」のマスコットキャラクターとなり、知名度がアップしたのでした。
この際に使用された写真も、大きな鼻が特徴ですが、両眼感覚の柔軟な皮膚が垂れてしまったようです。
しかしながらこの際に紹介された「ブロブフィッシュ」という魚は付記された学名(Psychrolutes marcidus)や産地(オーストラリアやニュージーランド)を見るとニュウドウカジカではなく、別種のホテイカジカであるように思われます。しかしこの種は日本には生息しておらず、日本に生息するニュウドウカジカと混同してしまったようです。
ホテイカジカはニュウドウカジカ同様、ウラナイカジカ属の魚ではありますが、オーストラリアやニュージーランドの海域に生息する魚で、ニュウドウカジカでは頭部に多数の皮弁があるのに対し、ホテイカジカではほとんどないとされています。
なお、ウラナイカジカ科の魚は太平洋・大西洋・インド洋にひろく分布しています。チリ・アルゼンチンのパタゴニアに生息する種に「パタゴニアホテイウオ」なる和名を有する種がいますが、ホテイウオ(ダンゴウオ科)との関係はありません。
ニュウドウカジカは食べられる?
このように独特の顔が特徴のニュウドウカジカではありますが、食用にもなります。そして意外と美味しい魚でもあります。

筆者はこれまでに2回ほどニュウドウカジカを入手しており、これを揚げ物にして食べたところ、極めて美味でした。胃や肝も茹でて食べたのですが、これも非常に美味しいものでした。

しかしながら「北海道の魚類 全種図鑑」などでは、残念なことに「ほとんど利用されていない」などと記述されています。
本種が多く漁獲される底曳網漁業は海底の環境や生物に大きな負荷がかかる漁法であるため、漁期の制限や、網の目の大きさの制限などがありますが、それでも利用されない魚が大量に海に投棄されるのは見るに堪えないところです。そして底曳網で漁獲された魚は、海にもどされても多くが海底に辿りつけても弱って死んでしまうのです。
であれば利用されない魚であっても、死んでしまうのであれば持ち帰って市場で販売するのがベストではないかと思います。
我が家にやってきたニュウドウカジカ
筆者の家には2015年、このニュウドウカジカがやって来たことがあります。北海道の羅臼町に滞在していた私の友人から頂いたものでした。
このときの個体は全重6.1キロ、全長も67センチもあり、分厚い縦扁した体をしているニュウドウカジカは先述のように皮膚も柔軟で抑えることも難しいことから、側面から撮影することが困難で断念しました。

そのため、各部位を観察しながら、背面からの撮影となったのでした。その後は唐揚げや煮物などにして美味しく食したのでした。
このほか、ニュウドウカジカを「抱っこ」した写真も撮影しており、それは、本サイト「サカナト」のプロフィール写真にも使っているほどお気に入りの写真となっています。
参考文献
尼岡邦夫・松浦啓一・稲田伊史・武田正倫・畑中 寛・岡田啓介編.1990.ニュージーランド海域の水族.深海丸により採集された魚類・頭足類・甲殻類.海洋水産資源開発センター,東京.411 pp.
尼岡邦夫・仲谷一宏・矢部 衞.2020. 北海道の魚類 全種図鑑.北海道新聞社,札幌.590pp.
目黒昌利・本村浩之. 2011. 鹿児島県野間池沖から得られたボウズカジカ Ebinania brephocephala (カサゴ目:ウラナイカジカ科)の記録.Nature
of Kagoshima 37: 27~29.
https://journal.kagoshima-nature.org/037-006/
ナショナルジオグラフィック ブロブフィッシュhttps://www.nationalgeographic.com/animals/fish/facts/blobfish
CNN.co.jp 世界で最も醜い動物は?
https://www.cnn.co.jp/fringe/35037240.html
<サカナトライター:椎名まさと>