北の海には「婆の手」というとても美味しくなさそうな、しかし実際にはとても美味しい海産物があります。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
亀の手ならぬ「婆の手」
我が国には、とても美味しそうには思えない呼び名をされていながらも、実はとても美味しいというものがいくつかあります。魚貝類のなかでいえば「カメノテ」がそれにあたるでしょう。

カメノテはその名の通り亀の手のような見た目をしており、岩の隙間に群生します。かつてはゲテモノ的扱いを受けていましたが、あまりにも良い出汁が出ることから近年では高級食材と化しています。
そんなカメノテの名前は今やよく知られているのですが、これにちょっとだけ名前の似た「婆の手」なる食材が存在するのは果たしてご存知でしょうか。
あの高級食用貝の仲間
婆の手は「ババノテガイ」という呼ばれ方をされることもある、二枚貝の一種です。標準和名はエゾギンチャクガイといい、確かに白い巾着袋の上部をキュッと縛ったような見た目をしています。

この貝はイタヤガイ科というグループに含まれるのですが、この仲間にはあの高級二枚貝ホタテガイが含まれます。殻の左右が微妙に異なっている点や、黒い靭帯で2枚の殻が接続されている点はとてもよく似ています。
殻を開くとひとつの巨大な貝柱が目立つところもそっくりです。
どんな味?
婆の手はホタテガイにとてもよく似ていますがホタテガイほど大きくはなりません。知名度と需要が低いため、価格もひとつ100~数100円程度と非常に安いです。
しかしその味はというと、ホタテガイに全く引けをとりません。特に新鮮な貝柱はホタテガイのような水分の多さがなく、プリッとして強い弾力があります。

甘みこそホタテガイに軍配が上がりますが、旨味の強さは婆の手のほうが上のように思います。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>