東京湾など身近な海の干潟に「ボケ」という可哀想な呼び名の生き物がいます。釣りの餌として欠かせない存在ですが、一体どんな味なのでしょうか?
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
干潟の「ボケ」
一見泥でできた砂漠のように見える内湾の干潟ですが、その表面を少し掘り起こしてみると実に多様な生物に出会うことができます。アサリやハマグリ、クルマエビのような経済価値の高い生き物がいるのはもちろんですが、ちょっと違った形で経済に貢献してくれるものもいます。

そのひとつが「ボケ」。ちょっと可愛そうな名前のこの生き物、標準和名はニホンスナモグリといいます。見た目は変なザリガニのようで、片方のハサミだけが大きく、クリーム色で脆そうな作りをしています。
その名の通り砂に潜って生息する彼らは、大きくても全長8cm程度で、全身を柔らかいからに包まれており動きも俊敏ではありません。そのため魚たちにとって大変良い餌となっており、釣りエサとして安くない値段で取引されています。
似ているけどかなり違う生物
このボケことニホンスナモグリ、ぱっと見はエビの仲間のように見えますが、分類学上は異尾下目、つまりヤドカリなどと比較的近い仲間です。異尾下目の名前はヤドカリ類やタラバガニ類などが腹部に左右偏りを持つことから名付けられましたが、スナモグリ科は腹部はエビやシャコに似て左右対称になっているので、見た目上は分類がわかりにくいかもしれません。

これとよく似た生き物に、釣り人に「カメジャコ」と呼ばれるアナジャコがいます。アナジャコはニホンスナモグリを大きくして、ハサミを左右対称にしたような見た目をしていますが、アナジャコ下目というグループに分類される縁遠い生き物です。こちらも釣りエサとして珍重されています。
味はどう?
上記のアナジャコですが、こちらは釣りエサのみならず、食材としても地域的な人気を持っています。特に有明海沿岸や瀬戸内海沿岸では人気が高く、1匹辺り数百円することも。
それに対し、ニホンスナモグリは人間の食材として注目されることは全くありません。

丸ごと食べやすい揚げ物にして食べてみたところ、殻から甲殻類特有の香ばしい香りを感じ、旨味もあります。しかし内臓を中心に表現しにくい泥臭さがあり、素直に美味しいと言い切ることはできませんでした。ただタイなどではしばしば大量発生するスナモグリの仲間を集め、ニンニクやスパイスを効かせた料理で食べるそうなので、その食べ方なら美味しいかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>