大陸と地続きになったことがない海洋島は独自の生態系を持ちますが、外来種や環境変化に脆弱です。鳥類群集は本土からの移入や人間活動で変化してきましたが、その両者を統合的に調べた研究はありませんでした。
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海洋島の独自生態系
海洋島は、過去に一度も陸と地続きになったことがない島のことです。

海洋島では独自の生態系が形成されており、その島や周辺の島々でしか見られない固有種も少なくありません。このような海洋島の生態系は生物多様性を保全する上で極めて重要とされますが、外来種の移入や環境変化に対して非常に脆弱であることも知られています。
生物群集を変える要因
近年は人間活動により海洋島を含む島の生物群集が変化しており、特に人為的な捕食者の導入と環境の改変が深刻な影響を与えていることが多くの実証研究で示されてきました。また、人間活動だけではなく、本土から海を越えて生物が移入される自然による現象も島の生物群集を変化させます。
ところが、これまでの研究では人為的な影響にのみ焦点を当てており、本土からの移入について十分に検討されていませんでした。
そこで、筑波大学、国立環境研究所、千葉大学、静岡大学、東邦大学からなる研究グループは、伊豆諸島の10島(大島、利島、新島、式根島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島、八丈小島、青ヶ島)を対象に過去と近年の鳥類群集を文献調査と現地調査を実施。1970~1973年のデータと2016~2021年のデータを比較して分析が行われました。
この研究成果は『Journal of Animal Ecology』に掲載されています(Ongoing collapse of avifauna in temperate oceanic islands close to the mainland in theAnthropocene.)。
鳥類分布と群集構造の変化
研究では、まず各鳥種類の分布の変化が、種の生態的特性や本土での分布動態とどのように関連しているか統計モデルにより検証。次に、島ごとの鳥類群集について種数、くちばしの形状や食べる餌など種間の生態的な機能の違い、進化的な系統関係から、その群衆構造の評価が行われました。
この際、群集を構成する種間の機能、系統がランダムに構築された群集と比較して似通っているかどうかを調査し、環境フィルタリングや競合排除の影響もこの研究で検証されています。
さらに、島のイタチの導入の有無や農地の面積の増加など、人為的な環境改変が群集構造の変化に与える影響も検証されました。
生物群集の劣化と波及
検証の結果では、シジュウカラやハクセキレイなど、一腹卵数(1回の営巣で巣内に産む卵の数)が多い種や本土で分布を拡大させた種が、伊豆諸島においても分布を拡大していることが判明します。
しかし、ほぼ全島で鳥類の種数が減少しており、鳥類群集の多様性が低下していることが明らかに。

一方、これらの生物群集の変化は、環境の改変やイタチの導入との関係は見出されていません。先行研究では人為的に導入されたイタチが島に生息する動物の個体数を大きく減少させ、生態系に悪影響を与えることが示されてきました。

それにもかかわらず、島ごとの解析では鳥類群集の変化に対するイタチの導入の影響が関係が見出されなかった背景として、イタチによる鳥類群集の劣化は導入された島だけではなく、複数の島を移動する鳥類の減少を通して近隣の島に影響を及ぼした結果、島しょ全域で鳥類群集の劣化を引き起こした可能性が考えられています。
島しょ域全体での保全策
今回の研究では、伊豆諸島全体で鳥類群集が劣化していることが明らかになりました。
また、イタチが導入された島で直接的な捕食や餌資源の減少に由来する鳥類群集の劣化が、近隣の島にまで影響し、島しょ全域で鳥類群集の劣化が起きた可能性も示されています。
これらの研究成果から島しょ域における生物多様性の保全には個々の島だけだはなく、島しょ域全体で保全策を考える必要があると指摘しています。
<サカナト編集部>