人類は他者の動作を真似して学習することができ、これは社会的学習と呼ばれます。通常、異種の動作模倣は難しいとされていますが、「Do As I Doトレーニング」によってネコやイヌ、鯨類でも可能であることが明らかになっています。

そこで麻布大学と城崎マリンワールドの研究グループは、同施設で暮らすトドを対象にヒトの動作を模倣できるかを調査しました。

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(アイキャッチ画像提供:日和山観光株式会社)

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動物における動きの模倣

我々ヒトは、他者の動作を観察して多くのことを学ぶことが可能です。

動物において他個体の動作を学習して模倣することは社会的学習と呼ばれ、この社会的学習は集団で暮らす動物では生存、繁殖に欠かせません。最近の研究ではアゴハゼの稚魚が社会的学習行動を示すことが明らかになりました。

社会的学習の中でも同種の動作ではなく、異種の動作を模範することは難しいとされている一方、Do As I Do(まねして)トレーニングという手法を用いることで、ネコやイヌ、チンパンジー、ベルーガやシャチなど一部の鯨類でヒトの動作を模倣できることがわかっています。

このようにヒトの動作そのものを模倣する能力は限られた動物のみで報告されているのです。

城崎マリンワールドのトド「ハマ」

城崎マリンワールドで暮らすメスのトド「ハマ」は、これまでに50以上の動作を覚え飼育員の指示で実行できることがしられています。

驚くべき「トド」の能力が明らかに 人間の動作を模倣することができる?
驚くべき「トド」の能力が明らかに 人間の動作を模倣することができる?
研究の対象となったトドのハマ(メス)(提供:日和山観光株式会社)

このことから「ハマ」が抽象的な概念学習能力があることが示唆されてきたものの、どの程度の社会的学習能力を持っているのかは謎に包まれていました。

こうした中、麻布大学獣医学部動物応用科学科と城崎マリンワールドからなる研究チームは、「ハマ」を対象にDo As I Doトレーニングを実施。トドがヒトの動作を模倣できるのか調査が行われました。

この研究成果は『Animal Cognition』に掲載されています(論文タイトル:Do as I do imitation in a steller sea lion Eumetopias jubatus.)。

驚くべきトドの模倣能力

調査では最初に3種類の簡単な動作を使い、「トレーナーの動きを真似して」というルールを「ハマ」に学習させています(同時的Do As I Do模倣)。はじめはジェスチャーなどのヒントを使って練習を重ねていき、最終的にヒントなしでも同じ動作ができるようになったそうです。

次にトレーニングした3つの動作以外にも応用できるのか確かめるため、Do As I Doでトレーニングしていない動作を用いた検証が行われました。検証の結果、「ハマ」はDo As I Doトレーニング済の3つの動作以外に、Do As I Doでトレーニングされていない7つの動作のうち6つの動作に対しても模倣的な行動選択をしています。

つまり、Do As I Doでトレーニングしたことがない動作をヒトが行った場合でも、「ハマ」はこれまでに学習した動作から似た動作を選択し模倣することがわかったのです。さらに、驚くべきことにこれまで学習したことがない2種類の動作についても「ハマ」は模倣することができたといいます。

真の模倣にも成功

今回の研究では非同時的Do As I Do模倣のトレーニングも行われました。

このトレーニングでは、ヒトの動作に続けて「GO」という音声指示を与えた後に動作を真似するように教育。「ハマ」はこの非同時的Do As I Do模倣のトレーニングに成功しています。

さらに飼育員の動作のあと、「ハマ」とその飼育員を視覚的に見えない状態にしても「ハマ」の模倣成績は良好だったそうです。

これら条件下では、トレーナーの動作が終わった後に模倣することから、動作を一度見た後に脳内でイメージ、保持、再現する能力が求められます。この能力はヒトが行う模倣に近いことから「真の模倣」と呼ばれているようです。

高い社会的学習能力を有するトド

これまで高次の能力とされてきた模倣ですが、今回の研究トドがにより、高い社会的学習能力を有していること、ヒトから多くの情報を学習していることが明らかになりました。

この研究成果は飼育下の鰭脚類(ききゃくるい)がヒトの動作を模倣することが実験的に示された世界で初めての報告となっています。

<サカナト編集部>

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