問題外来種として昨今問題となっているジャンボタニシですが、その影に隠れて消えつつある「名前が紛らわしい在来種」がいることをご存知でしょうか。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
ジャンボタニシとオオタニシ
ここ数年、一般的にも広く知られるようになった問題外来生物といえばジャンボタニシ。水田に侵入し、稲を蚕食してコメの収穫量を大きく下げてしまうことから、各地で必死の駆除が行われています。

ジャンボタニシは名前の通り「大きなタニシ」という意味でつけられた通称で、標準和名はスクミリンゴガイ(一部地域ではラプラタリンゴガイ)といいます。我が国では淡水性の貝を広く「タニシ」と呼ぶ文化があり、大型の淡水性巻き貝であったためにこの通称が広まりました。
在来種のオオタニシ
しかし実は我が国には、もともと「大きなタニシ」も在来種として存在していました。ため池や湖沼に生息する「オオタニシ」がそれです。
ジャンボタニシとの違い
オオタニシは日本に生息する淡水性巻き貝の中では最大種で、殻高が7cmに至るものもあります。我が国で最も一般的なタニシと言えるヒメタニシが2cm程度なので、その大きさはインパクトがあります。

オオタニシはタニシ科タニシ属に含まれる正真正銘のタニシであるのに対し、ジャンボタニシことスクミリンゴガイはリンゴガイ科に含まれており、目レベルで異なるため近縁種とも言えません。ただしタニシとは「田螺」つまり田んぼの巻き貝という意味なので、原義的にいえばジャンボタニシもタニシであるとは言えます。
外見的にも、オオタニシは殻の上部がきれいな円錐型のシルエットですが、ジャンボタニシは殻口が大きく膨らむ独特の形状をしています。
こんなに美味しいのに絶滅危惧種
ジャンボタニシは食用として日本に移入されましたが、調理の手間の割には美味しいとは言い切れず、カタツムリ感のある見た目の気持ち悪さもあって定着はしませんでした。
一方でオオタニシは他のタニシ同様、生息域では古くから食用にされてきました。田んぼや沼の貝を食べると聞くとぎょっとする人も多いでしょうが、タニシ科の貝は煮込むと強烈に濃厚なだしが取れ、海の貝に全く劣らず美味なのです。

しかしジャンボタニシが爆増中な一方、オオタニシはすごい勢いで生息数を減らしており、今や絶滅危惧種です。というのもジャンボタニシはある程度の水温が保たれた淡水さえあればどこでも生きていけるのに対し、オオタニシはある程度水質の良い止水域でないと生息できず、減反政策などで各地のため池が潰されていく中で生息域を失ってしまったのです。
稲作文化を守ることは、このオオタニシのような「淡水貝の食文化」をも守ることでもあるのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>