筆者は、かつて海から徒歩30秒ほどの場所で暮らしていました。そこからほんの少し移動すれば、アマモ場や干潟、漁港などもあります。

元々海の生きものが好きな人ですから、そんな海のそばに一人で暮らしたら、その暮らしは“海まみれ”で大変なことになります。海と生きもの、水槽に囲まれていたかつての筆者の生活を記していきます。

(アイキャッチ画像提供:みのり)

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仕事が終わったら海で遊ぶ

仕事が終わり家に着き、ようやくの自由時間。本を読んだりゲームをしたり映画やドラマを観たりと、至福のひとときを過ごせます。

海のすぐ側に住んでいた筆者の場合、その自由時間の中にもうひとつ選択肢が増えます。「海で遊ぶ」ことです。

どれだけ仕事で疲れていても、“海は別腹”。帰宅後すぐに、ライト、捕獲用の網やバケツ、マリンブーツやギョサンを履いて、海へ飛び出します。

徒歩10分圏内にアマモ場

筆者の家の近くの海は砂泥が広がっている海、いわゆる干潟でした。

さらに非常に豊かな海域だったため、干潟には多くのアマモやコアマモが群生する「アマモ場」が形成されていました。

生き物好きが海から徒歩30秒の場所に住んでみたら部屋中が水槽だらけになった
生き物好きが海から徒歩30秒の場所に住んでみたら部屋中が水槽だらけになった
様々な生き物が潜むアマモ場(提供:みのり)

アマモ場は海のゆりかごとも呼ばれる場所で、様々な生き物たちの憩いの場です。

ボラやクロダイなどはほぼ通年で見られ、アマモの間にはサンゴタツやヨウジウオなども隠れています。

生き物好きが海から徒歩30秒の場所に住んでみたら部屋中が水槽だらけになった
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サンゴタツ(提供:みのり)

砂地にはコチの仲間やウシノシタなども潜んでいます。

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砂地にも魚が潜む(提供:みのり)

また時期によってはオオワレカラやウミサボテン、カブトクラゲの大群なども見られ、とにかく一年中飽きることの無い場所でした。

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カブトクラゲ(提供:みのり)

干潟の頂点捕食者アカエイ

そんな干潟・アマモ場の頂点捕食者はアカエイです。干潟にはアカエイが潜んでいた跡も沢山見られました。

アカエイは尻尾に毒棘を持っており、非常に危険です。踏みつけてしまわぬよう、干潟を移動する時は必ずすり足で移動していました。

アカエイを踏むことはありませんでしたが、1m以上もあるツバクロエイをサンダルで軽く蹴ってしまったことがあります。お互い特にケガもなかったので良かったですが、その日ばかりは巨大なツバクロエイに驚きすぎて探索のやる気をなくしてしまいました。

漁港で<流れ藻>採集

干潟のみならず、漁業も盛んな地域だったため、たくさんの港がありました。こうした港には、「流れ藻」と呼ばれるものが流れてきます。

生き物好きが海から徒歩30秒の場所に住んでみたら部屋中が水槽だらけになった
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流れ藻に隠れる魚たち(提供:みのり)

流れ藻は、ホンダワラなどの海藻が波などで海底から剥がれ、海面を漂う状態になったものです。ここには様々な生き物が潜んでいます。

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マツダイ(提供:みのり)

アマモ場でも見られるサンゴタツやヨウジウオ、トビウオの幼魚などもたくさん潜んでいます。レアな魚ではシイラの子どもやマツダイの子どもなども見ることができました。

生き物好きが海から徒歩30秒の場所に住んでみたら部屋中が水槽だらけになった
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シイラの幼魚(提供:みのり)

中でも、特に筆者イチオシの流れ藻生物はハナオコゼです。

生き物好きが海から徒歩30秒の場所に住んでみたら部屋中が水槽だらけになった
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ハナオコゼ(提供:みのり)

カエルアンコウに近い仲間の魚で、特徴的なヒレを用いて流れ藻に掴まるようにして潜みます。

同じように流れ藻に隠れる他の魚などを狙っているのです。

本来、流れ藻で見られる生き物としては少しレアな方ですが、結構な確率でこのハナオコゼを観察することができました。これも家の目の前が海だからこその特権です。

ハナオコゼを飼育してみた

そしてこのハナオコゼを2匹ほど飼育してみたこともあります。

生き物好きが海から徒歩30秒の場所に住んでみたら部屋中が水槽だらけになった
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擬草にしがみつくハナオコゼ(提供:みのり)

冷凍アミエビなどをハナオコゼの前で生きた魚のようにヒラヒラさせると、目にも止まらぬはやさで食いつきます。生き餌を食べる魚の餌付けは難しいイメージがありましたが、ハナオコゼたちは意外とすんなり冷凍餌を受け入れてくれました。

ハナオコゼたちはしばらく飼育した後、大学や水族館に寄贈しました。

六畳の部屋に水槽だらけ

目の前が海で、これだけたくさんの生き物に毎日会える環境です。ハナオコゼに限らず、様々な生き物を飼育してみたいという気持ちが抑えられるはずもありません。ドンドン増えていき、気づいたらごちゃごちゃで大変なことになっていました。

生き物好きが海から徒歩30秒の場所に住んでみたら部屋中が水槽だらけになった
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増えすぎた水槽(提供:みのり)

自分の生活スペースを圧迫しても、飼育チャレンジはやめられません。六畳の部屋はどんどん狭くなっていきましたが、筆者自身の幸福度はどんどん増していきました。

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飼育していたヒラスズキ(提供:みのり)

海のそばの生活の落とし穴

如何にも楽しそうな(実際に楽しい)海のそばの生活という風に書きましたが、最後にデメリットもしっかりご紹介します。

まず当たり前ですがこれだけ水槽を置くと湿気がすごいです。換気と温度をするため、年中エアコンは止められません。

そのせいで電気代はどうしてもかかってしまいます。

また人によってはポンプや水の音が気になり、寝る時に気になってしまうこともあるかもしれません。

生き物好きが海から徒歩30秒の場所に住んでみたら部屋中が水槽だらけになった
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恐らくミナミイスズミの幼魚、流れ藻から採集(提供:みのり)

また筆者の水槽の増やし方や置き方は、ほぼ生き物そのものを観察・飼育することに特化した水槽です。オシャレなアクアリウムなどではありません。

そのため、正直見た目は良くありません。友人はもちろん、気になる異性の子なんかも、中々呼びづらくなってしまいます。

生き物好きが海から徒歩30秒の場所に住んでみたら部屋中が水槽だらけになった
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ヒメイカは観察して逃がしました(提供:みのり)

塩害や災害時の危険にも注意が必要

家の周辺は潮風が吹いているため、常にどこもかしこも塩でベタついています。また塩により、外に自転車などを置いているとあっという間に錆びてしまいます。

よく言えば潮の香りを楽しめますが、悪く言えば塩害があるとも言えます。

また災害時には危険が伴いやすいという点も注意が必要です。筆者は引越し前にハザードマップを確認し、災害時の安全性や避難場所等もしっかり確認しましたが、ここを怠ると場所によっては危ないかもしれません。

海は楽しいですが、同時に危険な存在であることも理解するべきです。

憧れだけで海のそばの物件を選ばず、災害時の対策や安全性は最大限重視しましょう。

こうした問題点も理解した上であれば、海のそばの暮らしは非常に面白いです。四方を海に囲まれた日本は、それだけたくさんの海沿いの家があるはずです。

もし、海の近くに引っ越すことになったら、色んな海の生き物たちを探してみてくださいね。

<みのり/サカナトライター>

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