中山優馬が主演する舞台「大誘拐」~四人で大スペクタクル~が10月10日に再始動する。本作は、天藤真の小説「大誘拐」を原作とした舞台で、2024年に舞台化。

82歳の小柄な老婆が国家権力とマスコミを手玉に取り、百億円を略取した大事件を描く。今回の公演は、初演に続き、中山優馬が主演。柴田理恵風間杜夫白石加代子が再び集結し、一瞬も目が離せない大スペクタクル誘拐劇を繰り広げる。中山に再始動への意気込みや舞台出演への思いなどを聞いた。

-再始動が決まった気持ちを聞かせてください。

 めちゃくちゃうれしかったです。前回の公演中にも「もっとやりたい」とずっと思っていましたし、先輩方とお話しさせていただく中でも「再演ができたらすてきですよね」というお話をさせていただいていました。なので、いつかとは思っていたのですが、こんなにも早く実現するとは思っていなかったので、ありがたい気持ちでいっぱいです。

-初演時から手応えを感じていたのですね。

 感じていました。ただそれは自分の手応えではなく、「これはすごい作品だ」という手応えです。大ベテランの御三方がドタバタと動いている同じ板の上で一緒にお芝居をさせていただき、御三方のお芝居を見させていただいている中で、これはすごいと改めて感じました。

お客さんを自分たちの空気に巻き込んでいくんですよ。そういう意味での手応えを感じています。

-中山さんが演じる戸並健次は、犯人グループのリーダーという役柄です。健次の魅力はどんなところにあると思いますか。

 人間っぽさがあって愛に溢れた人だと思います。悪いことをして捕まり、それによって苦境に立たされるというだめなところも持ち合わせていますが、それは人間である以上、誰もが持っているところだと思います。生き抜くことが大変な時代を舞台にしていることもあり、健次はお金持ちからお金を取ることでなんとかしようというアホな選択をしてしまいますが、誘拐したおばあちゃんに愛情を感じてしまい、最終的には本当のおばあちゃんになってほしいと思うようになる。愛に飢えていて、愛に溢れている人なんだなと感じます。

-そんな健次に中山さんが共感できるところはありますか。

 健次はやんちゃをしてしまって刑務所に入っていた過去はありますが、それ以外は普通の青年です。「自分の人生はここで終わってはいけない」という思いで、前に進むために誘拐という間違えた方法を企ててしまいますが、もし、それが違う方向に向いていたら、エネルギーにあふれた生き方ができたのではないかと思います。そうしたエネルギーは、自分の仕事に対する思いにも通じるところはあります。

例えば、人生を豊かにするためにこの演劇をやりたい、この映画に出たいという欲があって前に進めるというのは理解できますね。

-中山さんが前に進む活力となるのは、そうした自分の中の欲求も大きいということですね。

 もちろん見てくださる方に元気を与えたいという思いがありますが、その根本には自分の欲があるのではないかと思います。やっていて楽しい、生きていると感じる瞬間を探して前に進んでいるような気がします。

-なるほど。そうして前に進んだ先に、どんな未来をイメージしていますか。

 先のことはあまり考えていないです。友達たちが家を建てたり、子どもが生まれたりしているのを見ると、そうした未来を自分が持ったらどうなるんだろうなと考えることはありますが、ただそれはあくまでも人生を豊かにしていく一つのファクターです。そうしたファクターを探し続けていくのだとは思いますが、こうなるために生きている、こうやって生きていきたいということを考えているわけではなく、日々、楽しいと思えたら一番です。そうした中で、この作品は楽しい演劇なので、楽しい瞬間ばかりの公演でした。演劇は、基本的には苦しいことが多いんですよ。9割は苦しみです。

でも、苦しむことが仕事ですし、苦しんだ先に楽しさが待っていることも知っています。そこにたどり着いたときに、お客さまからいただける拍手の気持ちよさも知っています。そのときに「今、生きているんだ」という思いになるのもやっぱりそれまでの苦しさがあるからこそです。だから、苦しいことは僕にとって大事なことでもありますし、1割の楽しさのために続けられているのだと思います。

-そうすると、今回のような楽しさに溢れた作品は中山さんにとってどんな位置付けなのですか。

 僕にとっての“希望”です(笑)。だって、風間杜夫と白石加代子と柴田理恵がそこにいて、そこで表現しているものが間近で見られるんですよ? 役者を超越した、その人柄で舞台上に立って、お客さんを巻き込んでとりこにするというのは、役者の境地だと思います。その人がそこで生きているエネルギーはどんな表現もかなわない。それを見ることができて、僕が目指している役者の先にこうした人たちがいるということが希望なんです。だから、すごく楽しいです。

-近年は舞台にも積極的に出演されていますが、中山さんは舞台でのお芝居の面白さ、魅力をどんなところに感じていますか。

 舞台にはチーム感を感じます。

助け合いの精神がないとできないものなので。始まったら止まれないですし、ミスをしてしまってもそれを思い返して反省する時間はないので、ある意味では“捨てる”作業をしていくのが舞台です。どうしてもミスはあるものですが、それを共演者が助けてくれる。そうやってみんなで作り上げていく感覚も楽しいですし、ライブだからこその緊張感も楽しいです。それから、途切れることなく感情を出し続けていけるというのも魅力です。その一瞬一瞬に集中していると、自分が思いもしなかった感情で終えることがあるんですよ。その日、その回ごとに違うというのも楽しさです。

 僕は、観劇をするのも好きなのですが、その人がその空間の中で動いて、泣いたり怒ったり感情をむき出しにして、そこにいる姿を目撃するのが楽しいんですよ。映画やテレビといった映像の中ではなく、その人の温度が伝わる場所であるというのは舞台ならではだと思います。

-最後に、本作を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

 ご来場くださる皆さんより僕の方が楽しみにしていると思うくらい、ワクワクしています。御三方のパワーや、生きることはこんなにもきらめきのあることなんだということを受け取れる舞台です。

まるでアトラクションに乗っているようなスピード感で進んでいくので、一緒になって楽しんで、見届けていただければと思います。どのような年代の方にも楽しんでいただけて、演劇っていいなと思っていただける作品になると思いますので、ぜひお近くにお住いの方は劇場に足を運んでいただけたらと思います。

(取材・文/嶋田真己)

 舞台「大誘拐」~四人で大スペクタクル~は、10月10日~13日に都内・シアター1010ほか、大阪、愛知、神奈川など、全国13カ所で上演。

公式サイト https://daiyukai.com/

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