コパ・アメリカが現在の形となってからの40年で、ブラジル代表はベネズエラと25回対戦し、通算で89ゴールを決めている。単純計算すると、ブラジルは1試合につき平均3.56ゴールを挙げたことになる。

反対にベネズエラがブラジルから奪ったゴール数は8。10分の1にも満たない。力の差は歴然としていた。2008年に一度だけ、親善試合でブラジルが負けたことがあったが、それが唯一の例外で、あとは21勝3引き分けだった。

 しかし、どうやら世界は変わってしまったようだ。

 コパ・アメリカのグループステージ第2戦。
サルバドールで行なわれたブラジル対ベネズエラは、すべてにおいてブラジルが有利だった。5万人のサポーターはそのほとんどがブラジルを応援し、スタジアムはお祭りのような陽気な雰囲気だった。

 そこには、ふだん自国では見ることができないヨーロッパのビッグクラブで活躍するスター選手が勢ぞろいしていた。ネイマールこそ暴行問題とケガでいなかったが、それでもダニエウ・アウベス、フィリペ・コウチーニョ、ガブリエル・ジェズス、アルトゥール、アリソン……スターには事欠かない。セレソンのサッカーを楽しむには最高の雰囲気だった。

 しかし99分間の試合で、ブラジルの億万長者のプレーヤーたちは、ベネズエラから1ゴールも奪うことができなかった。


コパ・アメリカのブラジル代表にレジェンドが大激怒。「屈辱的だ...の画像はこちら >>

ゴールが決まったかと思われたがVAR判定で覆されたフィリペ・コウチーニョ photo by Reuters/AFLO

 批判的な都市部のサポーターと違って、サルバドールのサポーターは、どんな時でもセレソンに温かい拍手を送ることで有名だ。しかしその彼らが、後半15分になんと自国の代表に対してブーイングを浴びせた。あまりのふがいなさに耐えられなくなったのだろう。

 結果は0-0。ブラジルはそれでもどうにか得失点差でグループ首位をキープしてはいるが、次戦では勝ち点が同じのペルーと対戦しなければならない。もしこの試合に負け、もうひとつの試合でベネズエラが勝てば、ブラジルは自国開催のコパ・アメリカで、グループステージで敗退することになる。
こんな状況は屈辱以外の何ものでもない。

 ベネズエラ戦でブラジルは、ロベルト・フィルミーノ、コウチーニョ、ガブリエル・ジェズスがそれぞれ1ゴールを決めた。しかしひとつはオフサイド、あとの2つはVAR判定により取り消された。どれも納得のいくジャッジだった。審判にだけでなく、ビデオにもブラジルは平凡なチームであることを証明されてしまったわけだ。

 たったひとり、途中交代で入った若者だけがブラジルを魅了した。

23歳のFW、エベルトンのおかげで、ブラジルは最後の15分、どうにか攻撃力を取り戻した。

 初戦で黒星を喫したアルゼンチンは散々叩かれたが、今のブラジルはアルゼンチンと似たり寄ったりだ。国民から責められ、非難され、メディアは失態の原因を分析し、元選手たちは厳しい見解を述べ、なにより信頼を失った。

 いや、もしかしたらアルゼンチンよりひどいかもしれない。初戦で彼らが敗れたのは、ここまでコパ・アメリカで一番の強さを見せているコロンビアだ。だが、ブラジルは参加国中最弱と言われているボリビアにひどい内容と苦労の末に勝利し、やはり格下のベネズエラからはゴールを奪えなかったのだから。


 ベネズエラが堅い守りで出てくることは最初から予想できていたはずだ。それに対してブラジルはほとんど無策だった。ペナルティエリアの外からいくつかクロスを上げたが、シュートはいつも的外れのところに飛んでいった。

 ブラジルのチッチ監督はさぞかし頭が痛いことだろう。チッチはロシアW杯前に監督に就任すると、冷静さと卓越したプレーのビジョンで、たちまちブラジル人の心をつかんだ。しかし、今の彼には恐れしかないように見える。


 試合を見終わったペレはひと言、こう感想を漏らした。

「なんて屈辱的なことだ」

 元ブラジル代表で、フラメンゴや鹿島アントラーズのスター選手でもあったジョルジーニョも驚きを隠せないようだ。

「こんな弱いブラジルなど信じられない。選手たちは優秀だが、いつも何かを恐れていた。いったいブラジルに何が起こったのか、私にはわからない。とにかく一日も早く状況が変わることを願う。こんなブラジルを見るのは耐えられない」

 1970年のW杯優勝メンバーで、日本でも監督経験があるエメルソン・レオンも言う。

「もうこれ以上、セレソン(ブラジル代表)の試合は見たくない。こんな試合を見せられたら、ブラジル人もチームへの愛が冷めてしまうだろう。総額5億ユーロ(約600億円)はするだろう選手たちが1点も取れないなんて、あってはならないことだ。こんなチームをどうして応援できよう?」

 ブラジルの過去の5回のW杯優勝時には、必ず何人かの一流選手がいた。1958年にはペレ、ジト、ジウマール。1962年にはペレ、ガリンシャ、ババ。1970年にはペレ、カルロス・アルベルト、リベリーノ、ジャイルジーニョ。1994年にはロマーリオ、ベベット、ドゥンガ、カフー。2002年にはロナウド、ロナウジーニョ、リバウド、ロベルト・カルロス……。では今のセレソンには誰がいる? 

 有名選手には事欠かない。しかし彼らが本当に一流なのかどうか、今回の試合を見る限り、はなはだ疑問だ。残念だが今のブラジルは、もうかつてのブラジルではないことを認めなければならない。

 次の試合でブラジルは、ホームでペルー相手にガチンコ勝負をしなければならない。これまで一度もブラジルの敵であったことのないチーム相手に、だ。そうでなければブラジルはコパ・アメリカに残れない。これが屈辱以外のなんであると言うのだろう……。