「我々は700本もパスを回し、70%のボール支配率を誇り、20回以上のチャンスを作った。選手に(コンディションを含む)問題などあるはずはない! すばらしいプレーを見せてくれたと思う」
試合後の記者会見で、横浜F・マリノスのアンジェ・ポステコグルー監督はそう言って、やるせない気持ちを吐露した。
事実、横浜FMは優勢だった。ほとんど攻め続け、18本ものシュートを浴びせている。しかし、得点はたった1点に終わり、2度ゴールをこじ開けられた。
「勝ちに値するのは横浜のほうだった」
セレッソ大阪のミゲル・アンヘル・ロティーナ監督は、正直に本音を洩らしている。
横浜F・マリノス戦で決勝ゴールを決めた奥埜博亮(セレッソ大阪)
8月17日、日産スタジアム。気温は夜になっても30度を超えていた。また、ピッチの芝生は禿げ上がり、トップリーグの会場とは思えない状態。プレー条件は厳しいものだった。
リーグ戦2連敗で8位に順位を落としていたセレッソは、敵地で4位の横浜FMが誇る攻撃サッカーに押し込まれた。ただ、粘り強くポジションを取って、堅牢に守る。
逆襲に出たのは、前半12分だった。左サイドで清武弘嗣が切り返しを見せ、左サイドに侵入すると、もつれたボールも再び自分のものとし、右足でクロスを入れる。これに勤勉にポジションを取って左足で合わせたのが、奥埜博亮だった。
「奥埜は本来、中盤の選手。
FWとしてユーティリティーを発揮する奥埜は、プレーインテリジェンスを実務的に運用できる選手だろう。フォア・ザ・チームを重んじながら、適切なポジションを取って優位を作り、攻守でアドバンテージを取る。チーム一、二の走力を誇り、惜しみなく守備に走れるだけでなく、ポジションに入るタイミングがよく、味方と連係する力が高い。その能力を得点に生かしている。
実務能力の高さにおいて、奥埜は水沼宏太、藤田直之と並んでロティーナ・セレッソの象徴と言える。
ロティーナは堅実な性格の選手を好む。彼自身がバスク人で、「共闘精神」を叩き込まれてきたということもあるだろう。質実剛健。どれだけ華やかなプレーができても、持ち場を守れない選手を認めない。派手さはなくても、気の利いたプレーでポジションに適応し、味方同士で高め合えるか。
ロティーナがJ2の東京ヴェルディ時代に指導した畠中槙之輔、渡辺皓太は飛躍を遂げ、この日の対戦相手である横浜FMでプレーし、すでに日本代表にも呼ばれている。
「自分の得点力が開花しているか、それはわかりません。僕はFWとしては身長も、スピードもないので厳しい。どうしたら特徴を出せるのか、味方あっての自分なので。頭を使って、見てもらいながら、タイミングを大事に動くことを考えています」(セレッソ・奥埜)
後半、セレッソは劣勢に立たされている。
しかし、セレッソに耐え凌ぐ力があったのも事実だろう。第23節終了時点で、失点数はリーグ2番目に少ない。
<まずは守備から。ディフェンスの安定が攻撃を支える>
ロティーナの考え方は慎重にも映るが、実戦的で、戦いの土台となっている。実際、セレッソは苦戦を余儀なくされるなかで、反発力を見せた。76分、左サイドでFKを得ると、交代出場したブラジル人MFソウザの蹴ったクロスに、鋭い動きで飛び込んだ奥埜が右足先で合わせ、再びゴールネットを揺らしている。
堅実な戦いが、2-1での勝利に結びついた。
「たしかに、今日は勝っただけの試合だと思います。マリノスが、どうやったらこれだけボールをつなげられるのか、気になって見てしまいました。でも、いい試合をしても勝てない試合もありますし、大きな1勝です」(セレッソ・水沼)
前節は内容で上回りながら、サガン鳥栖に逆転負け。数々の修羅場を潜り抜けてきたロティーナは、勝負の不条理さも知っているのだろう。その懐の深さが、選手の気骨を鍛える。
試合終盤にはJ2のFC琉球から移籍したFW鈴木孝司がデビュー。ゴールゲッターの匂いのする選手だけに、スペイン人指揮官はどんな作用を与えるのか――。チームは大分トリニータを抜いて順位をひとつ上げ、7位に浮上した。