コロナ禍にあって、例年とは違った状況で行なわれている今季のJリーグだが、ピッチ上で戦う選手たちの奮闘ぶりはいつもと変わらない。異例のスケジュールのなか、各チームが熾烈な戦いを見せ、はやリーグ戦は前半戦を終えようとしている。



その前半戦を振り返って、ここでは移籍組をピックアップ。今季から新たなチームに移って、躍動している選手は誰か。特筆すべき活躍を見せている選手が誰か。識者にアンケートを実施し、移籍によって最も成功を収めているのは誰なのか、ランキングづけしてみた――。

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第5位:MFレアンドロ
鹿島アントラーズ→FC東京)

text by Nakayama Atsushi

 過去3年にわたって鹿島アントラーズでプレーし、来日4年目の今季は期限付き移籍でFC東京に加入したレアンドロ。ここ2年はケガにも悩まされて当初の輝きを失いかけていたが、ここまでのパフォーマンスを見る限り、移籍は大正解だったと言って間違いない。


 リーグ戦18試合を消化した時点における個人成績は、16試合に出場して8ゴール、5アシスト。アシスト数ランキングではリーグトップタイを誇り、ゴール数にしても、来日初年度にマークしたリーグ戦11ゴールを上回るペースで量産中だ。

 そのなかで目を引くのが、直接FKで決めた3ゴール。とりわけ、第8節のサガン鳥栖戦で決めた30m弾は、レアンドロの能力の高さを改めて示した圧巻の一発だった。

 今季のFC東京は、4-3-3をベースにしながら、4-4-2、4-2-3-1、さらに逃げ切り態勢で採用する3バックなど、複数システムを使い分けているが、レアンドロの持ち場は主に左サイド。ただし、ポジションにとらわれない動きで相手のマークを巧みに外し、あらゆるエリアで攻撃の起点となれる点が最大の武器となっている。


 FWディエゴ・オリヴェイラとのコンビネーションも上々で、カウンター攻撃時も素早くボールを前に運んで起点になるなど、もはやチームに不可欠な攻撃のピースとなっている。「復活した」と言うよりも、FC東京に移籍したことで「成長を遂げた」と言うべきだろう。


J1前半戦で移籍が「大吉」のベスト5。今季、飛躍を遂げた選手は誰?
第3位:FWジュニオール・サントス
柏レイソル→横浜F・マリノス

text by Komiya Yoshiyuki

 ジュニオール・サントスは、夏の移籍で柏レイソルから横浜F・マリノスに新天地を求め、(9月18日時点で)リーグ戦で9試合出場6得点を記録している。シュートする瞬間にヘッドダウンすることで、コースを読みにくいこともあるが、足を振るパワーは非凡。相手GKにとっては、脅威だ。

 第11節の清水エスパルス戦では、自陣からドリブルをはじめ、爆走して相手2人を交わし、右足を振り切って、逆サイドに叩き込み、度肝を抜いた。
第12節のサンフレッチェ広島戦では、ファーポストから走り込んで高く跳躍すると、マーカーを弾き飛ばすように豪快なヘディングシュートを決めている。その得点シーンはパワー満点だ。

 移籍・補強という点では、他を圧倒する存在だろう。

 実は組み立てや守備でも、質の高さを見せている。広島戦の豪快ヘッドでも、その前にポストに入ってボールを展開し、動き直してエリア内に入っている。第15節の名古屋グランパス戦では、敵陣でのプレスの先駆けとなってボールを奪い返し、左サイドを味方が崩したあと、ワンタッチでゴールを決めた。
王者・横浜FMの戦い方に新たな色彩を加えた印象だろう。

 もっとも、傑出したパワーがある選手であるがゆえに、周りが頼り切ってしまうと、そのプレーは大味に見えてしまうかもしれない。対戦相手も研究し、警戒も強まっている。

 たとえば、第16節のセレッソ大阪戦、戦術的に守備が鍛えられたチームを相手にすると、存在感が薄れた。後半戦は、「ジュニオール・サントスを生かす戦い方」を整理する必要も出てきそうだ。


J1前半戦で移籍が「大吉」のベスト5。今季、飛躍を遂げた選手は誰?
第3位:DF山根視来
湘南ベルマーレ川崎フロンターレ

text by Asada Masaki

 昨季J1で4位に終わった川崎フロンターレが、今季は一転、首位を独走している。


 しかしながら、昨オフに大型補強と称されるような動きは見せていない。ともに五輪代表であるMF三苫薫とFW旗手怜央の獲得はあったものの、彼らは大卒新人。プロでの実績はなく、活躍は未知数だった。

 そんななか、川崎が他のJクラブから獲得した、実質的に唯一と言っていい移籍補強が、DF山根視来だった。

 覇権奪還を目指す川崎が求めていたのは、"ポスト・エウシーニョ"。つまりは、4バックの右サイドバックである。
その一方で、山根が湘南ベルマーレ時代に務めていたのは、3バックの右DF。必ずしも条件が合致していたわけではない。

 だが、山根は、はじめからサイドに開いて構えることが少ない3バックをこなしていたからこそ、ただライン際を上下動するだけのサイドバックにはならなかった。絞った位置で組み立てに参加しながら攻め上がっていく。そんな攻撃センスを備えていた。低い位置からビルドアップしていく川崎と山根との相性は、すこぶるよかった。

 実際、開幕当初こそ流れに乗れない場面も見られたが、ほどなく"水色"に溶け込んだ。第16節のサンフレッチェ広島戦で、MF田中碧の先制ゴールを鮮やかにアシストしたシーンを見れば、そのことはよくわかる。

 懸案だった右サイドバックの穴が埋まった川崎と、新たなポジションで自身のさらなる魅力を発揮している山根。

 お互いにとって、幸せな移籍である。


J1前半戦で移籍が「大吉」のベスト5。今季、飛躍を遂げた選手は誰?
第2位:FWレオナルド
アルビレックス新潟→浦和レッズ

text by Harayama Yuhei

 2018年にJ3のガイナーレ鳥取に加入したレオナルドは、同年に24得点を挙げて、得点王を獲得。翌年にJ2のアルビレックス新潟に移籍すると、28ゴールと量産し、またしても得点王に輝いた。

 舞台を上げても結果を出し続けるブラジル人ストライカーは、今季、浦和レッズに移籍し、J1の舞台にたどり着いている。

 もっとも結果を出しているとはいえ、J3、J2での実績に過ぎない。J1でも通用するかは、当初は懐疑的な見方もあった。ところが、開幕戦の湘南ベルマーレ戦でいきなり結果を出すと、第7節からは5試合連続ゴールを記録。第16節終了時点で9得点はチームトップで、リーグでも3位に位置している。

 得点ランクを独走するオルンガ(柏レイソル/16得点)のような身体能力があるわけではないが、特筆すべきはシュートのうまさだろう。右足でも左足でも、正確なフィニッシュを枠内に見舞い、ゴールを陥れる。なかでも、インパクトを放ったのは湘南戦のヘディングシュートで、直前で相手に当たってクロスのコースが変わりながらも、すぐさま軌道修正し、頭で合わせている。

 エリア内での反応や位置取りに優れ、得点の匂いを瞬時にかぎ分ける生粋のゴールハンターである。チームにすぐさまフィットした適応力の高さもあり、まだ23歳と若く、伸びしろが大きく残されているのも魅力の一つ。

 すでに浦和のエースの風格を漂わせているレオナルドが、オルンガにやや遅れを取っているものの、異なるステージで3年連続得点王の偉業を達成したとしても、不思議はないはずだ。


J1前半戦で移籍が「大吉」のベスト5。今季、飛躍を遂げた選手は誰?
第1位:MF坂元達裕
モンテディオ山形→セレッソ大阪)

text by Sugiyama Shigeki

 昨季5位のセレッソ大阪が今季、川崎フロンターレに次いで現在2位につける理由は何か。

 2季目となるミゲル・アンヘル・ロティーナ監督の戦術がより浸透したから。堅い守りを基盤にした大崩れしないサッカーが、完成度を高めていることは確かだろう。

 しかし、好調セレッソを語るうえで、スタメンの中にただひとりの新加入選手=坂元達裕の存在を忘れるわけにはいかない。J2モンテディオ山形から移籍してきた大卒2年目のレフティーだ。

 4-4-2の布陣を敷くセレッソにあっては、右サイドハーフ。左のサイドハーフの清武弘嗣がやや中央よりで構えるのに対し、坂元はタッチライン際にウイングっぽく開き気味に構える。自慢は高い技術。最大の武器は切れ味鋭いドリブルになる。

 ロティーナ監督の信任が厚いことは、坂元の出場時間に現れている。(17試合を消化した時点で)1324分はチームで4番目。攻撃陣では、主将で10番の清武を上回るナンバーワンの数字だ。

 後半13分の清武の同点弾と、後半41分の高木俊幸の逆転弾をそれぞれアシストした第16節の横浜F・マリノス戦。とりわけ目を奪われたのは、横浜FMの左SBティーラトンをフェイントで交わして折り返した、決勝弾のアシストだ。

 さらに言えば、交代枠5人制で行なわれている今季にあって、身長170cmの小柄なアタッカーが、後半41分までピッチに立っていることも特筆に値する(結局フル出場した)。監督の評価のほどがうかがえる。

 首位川崎との勝ち点差は5。坂元はリーグ戦後半の行方を占うキーマンといってもいい。彼を山形から引き抜いたスタッフの慧眼は讃えられるべきだろう。


J1前半戦で移籍が「大吉」のベスト5。今季、飛躍を遂げた選手は誰?

※今回のランキングは、「今季J1リーグのここまでを振り返って、他のJクラブから今季移籍してきた選手の中で、すばらしい活躍を見せている選手、移籍が成功したと考えられる選手は誰か?」というアンケートを識者5名に実施。1位~5位まで名前を挙げてもらい、1位の選手を5点、2位の選手を4点、3位の選手を3点、4位の選手を2点、5位の選手を1点というポイントをつけて集計。その合計ポイントによって、順位を決定した。

◆各識者のランキング
浅田真樹氏(スポーツライター)
1位=DF山根視来(湘南ベルマーレ→川崎フロンターレ)
2位=MF坂元達裕(モンテディオ山形→セレッソ大阪)
3位=MF仲間隼斗(ファジアーノ岡山→柏レイソル)
4位=FW石原直樹(ベガルタ仙台→湘南ベルマーレ)
5位=DF小林友希(ヴィッセル神戸→横浜FC

小宮良之氏(スポーツライター)
1位=FWジュニオール・サントス(柏レイソル→横浜F・マリノス)
2位=FWレオナルド(アルビレックス新潟→浦和レッズ)
3位=MF坂元達裕(モンテディオ山形→セレッソ大阪)
4位=MFレアンドロ(鹿島アントラーズ→FC東京)
5位=DFエドゥアルド(松本山雅FC→サガン鳥栖)

杉山茂樹氏(スポーツライター)
1位=MF坂元達裕(モンテディオ山形→セレッソ大阪)
2位=DF永戸勝也(ベガルタ仙台→鹿島アントラーズ)
3位=FWドウグラス(清水エスパルス→ヴィッセル神戸)
4位=FWジュニオール・サントス(柏レイソル→横浜F・マリノス)
5位=DF山根視来(湘南ベルマーレ→川崎フロンターレ)

中山 淳氏(サッカージャーナリスト)
1位=FWレオナルド(アルビレックス新潟→浦和レッズ)
2位=MFレアンドロ(鹿島アントラーズ→FC東京)
3位=MF稲垣 祥(サンフレッチェ広島→名古屋グランパス)
4位=MF坂元達裕(モンテディオ山形→セレッソ大阪)
5位=FWジュニオール・サントス(柏レイソル→横浜F・マリノス)

原山裕平氏(サッカーライター)
1位=DF山根視来(湘南ベルマーレ→川崎フロンターレ)
2位=FWレオナルド(アルビレックス新潟→浦和レッズ)
3位=FWジュニオール・サントス(柏レイソル→横浜F・マリノス)
4位=MF坂元達裕(モンテディオ山形→セレッソ大阪)
5位=MFレアンドロ(鹿島アントラーズ→FC東京)