中村憲剛×佐藤寿人
第5回「日本サッカー向上委員会」@後編
1980年生まれの中村憲剛と、1982年生まれの佐藤寿人。2020年シーズンかぎりでユニフォームを脱いだふたりのレジェンドは、現役時代から仲がいい。
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久保建英(左)や堂安律(右)はA代表でも主力となれるか
---- 日本代表がワールドカップでベスト16の壁を越えるという成功体験を得るためには、どうしたらいいのでしょうか。
中村 もちろん何かの拍子というのは、先達がやって来たことの積み上げの先にあることだと思います。今回の五輪でも期待感は上がっているなかで、ある程度成果を見せられたのは、これまでの積み上げが大きかったと思います。
これでつながっていくと、五輪やワールドカップでも予選を突破するのは当たり前になる。つまり、日常の基準値を上げていくしかないのかなと思います。
佐藤 この世界は、魔法があるようでないじゃないですか。もちろん、戦術的なアプローチでセンセーショナルを生み出す名将が現れることもありますけど、現実的に現場でやっていることは、当たり前のことの質をいかに高く求めていくかということ。そういうところをまずはやり続けることが大事になってくるんだと思います。
もちろん、検証するのは必要なこと。
悔しさを味わった選手自身も、いろんなことを感じとっていると思いますし、メディアに携わっている自分たちも含めて追求していかないといけないし、活発な議論をしていかなければいけないと思います。やっぱり、サッカー先進国と言われる国は、そういった歴史の積み重ねが、今のその国を作っていると思う。そういう意味では、まだまだ日本は経験が足りないと思いますね。
中村 今回の五輪を協会がどう検証して、総括するかに注目したいですね。
---- 決勝トーナメントはグループリーグとは異なり、一発勝負をモノにしないといけないわけですよね。そこで勝てるチームと勝てないチームとでは、やはり何か決定的な差がある気がします。
中村 寿人のいた広島もそうだし、タイトルを獲る前のフロンターレもカップ戦はあまり得意ではなかったですよね。ロマンというか、ただ勝つのではなく、どうやって勝つのかという部分を僕たちのチームは求めていたところがあったと思います。そこがまず先にあって、トーナメントでもそのやり方を押し通す。
でも、結果的にある種、現実的なチームに負けるということはよくありました、ロマンを追い求めるのであれば、スペインくらい突き抜けなければいけないと思うんですよ。
日本代表に関して言えば、これからどこに向かっていくのか。そこは興味がある部分ですね。今回の五輪チームのように、ボールを持ちたいサッカーで行くのか。南アフリカワールドカップの岡田(武史)さんの時のように、しっかりとした守備をベースに全員でハードワークを徹底して勝つやり方を目指すのか。
ただ、それでもベスト16の壁は越えられなかったですから。ひとつ言えるのは、ここまでの日本は監督のやり方に左右される部分が大きいということ。もちろん、どこの国もそういう側面はあるのですが、そうではなく、国としてどういうスタイルを目指すのか。そこをそろそろ決めるべき時期に来ているのかなと思います。
佐藤 今、ジャパンズウェイという言葉がありますけど、それが現場サイドにどこまで届いているのかと思うんですよね。まだまだ明確なっていないなかで、困惑している指導者も多くいると思います。
中村 たしかに「日本のスタイルとは?」と聞かれても、答えづらいですよね。今回の五輪では、プレーモデルをはっきりと提示するスペイン、メキシコには(決勝トーナメントで)勝利できなかった。
国際大会を戦ううえで、ある程度準備の仕方はわかってきたし、グループリーグを勝ち上がる術もわかってきたと思う。でも、ここからさらに先に進んでいくことは、難しいことだと思います。
---- そうしたなかで、9月2日からカタールワールドカップのアジア最終予選が始まります。もはや、アジアを突破することは当然となってきたなかで、結果以外に日本代表に期待することはありますか。
佐藤 いやいや、当たり前じゃないですよ。
中村 たしかに、勝って当たり前というフェーズに来ているのは間違いないと思いますけど、何が起こるのかわからないのが最終予選ですから。今回はコロナ禍でもありますし、招集できるメンバーも変わってくるはず。海外組が日本に帰ってくることもリスクになると思いますから。
佐藤 中立地での開催もありますからね。
中村 そう。だから例年に以上に難しくなるのは間違いないでしょう。ただ、それでも当たり前のように突破してほしいですけどね。代表のOBとしては。
佐藤 そんなに簡単に言うなよ、と思ってましたよね。
中村 引退したから、言う(笑)。
佐藤 悪いOBですね(笑)。
---- そういった風潮は、やはりプレッシャーになりますか?
中村 なると思いますよ。しかも、今回は最終予選を経験している選手が意外と少ないんじゃないですかね(※メンバー発表前の8月23日に対談)。コロナ禍でお客さんが入らないと思いますけど、やっぱり最終予選は独特な空気感がありますから。
---- 最終予選は、やはり特別だと?
中村 相手の覚悟が違うんですよ。本当にまず全力で守備から入ってきますから。前回も初戦でUAEに負けてますしね。相手は日本を最大限、リスペクトしてくる。本気で大人が11人で守ったら、やっぱり簡単ではないですよ。
極論すれば、向こうは勝ち点1以上でいいわけなんです。とくに日本のホームでは、そこまで割り切っている。さすがにJリーグではそういう相手はいないですし、海外組にしても、そこまであからさまな相手は経験がないはず。
そういった相手の守備網を、いかに潜り抜けていくか。難しい試合になることは間違いないでしょう。当たり前のように勝ってほしいと思いつつも、経験した身からすると、何が起きるかわからないのが最終予選なんです。
佐藤 一体感を持ってやってほしいですよね。スタートから出る選手が中心となりますけど、招集されても出られない選手もいる。当然、代表に選ばれる選手はそれぞれのクラブで中心となってやっていているわけですけど、試合に出られなければ、葛藤を抱える選手もいるはずです。
それでも、これまでの最終予選を振り返ると、いろんなシーンで思い浮かぶのは、ひとつのゴールや勝利で、チーム全員が心の底から喜んでいるところ。そうやって一体感を持って戦うことが、勝ち抜くためには必要なことだと思います。
あとはやはり、オリンピックで悔しい想いをした選手たちに、ひとりでも多く最終予選で戦う姿を見せてほしいですね。
中村 そうね。やっぱり、五輪によってサッカーの熱がまた盛り上がってきてると思うので、この熱を冷ましてはいけないと思うんですよ。選手たちはそこまで深く考えなくていいけど、代表が結果を残すと、わかりやすくサッカー熱は高まるというのは、昔から感じるところ。代表が結果を出せば、当然、Jリーグの盛り上がりにもつながる。海外組が増えたとはいえ、そこは切っても切り離せないものですから。
コロナ禍もあって、なかなかチームがひとつにまとまるのが難しい状況ではあると思いますが、やはり一体感を持てるかが一番大事なこと。寿人も言ったように、五輪に出場した選手がどこまで食い込んで来られるかも、最終予選の注目ポイント。
意外と少ないかもしれないですけど、森保さんが兼任監督であることのメリットも出てくると思います。ラージグループがすでに作られているわけなので、融合しやすい状況にはあると思います。
---- 注目選手はいますか?
中村 久保(建英)、堂安(律)、冨安(健洋)はすでにA代表に入っている選手。今回の五輪を経て入ってきそうなのは、(田中)碧と谷(晃生)ですかね(※田中は9月の代表メンバーには招集されず)。
とりわけ谷は、大きな発見だったかなと思います。GKがなかなか決まらない観点からすると、ここから先10年を預けられるGKが出たかもしれないと、個人的には思っています。20歳で国際大会を経験したので、これから一気に伸びていく可能性もある。
もちろん谷だけじゃなく、今回の五輪に出た選手がA代表にどれだけ入ってこられるか。来年に向けて、競争はどんどん激しくなると思いますね。
(第6回につづく)
【profile】
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。久留米高校から中央大学に進学し、2003年にテスト生として参加していた川崎フロンターレに入団。2020年に現役を引退するまで移籍することなく18年間チームひと筋でプレーし、川崎に3度のJ1優勝(2017年、2018年、2020年)をもたらすなど黄金時代を築く。2016年にはJリーグ最優秀選手賞を受賞。日本代表・通算68試合6得点。ポジション=MF。身長175cm、体重65kg。
佐藤寿人(さとう・ひさと)
1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重71kg。