井上浩樹が語る次戦

 WBOアジアパシフィック・スーパーライト級王者で、井上尚弥のいとこ・井上浩樹が、2月22日に後楽園ホールで行なわれる「OPBF東洋太平洋・WBOアジアパシフィック・スーパーライト級王座統一戦」に臨む。

 相手は、井上のプロキャリアに唯一黒星を付けた永田大士。

2020年7月に日本同級タイトル戦で永田に7回負傷TKO負けを喫し、王座から陥落した井上は一度引退した。しかし2023年2月に現役復帰を果たすと、復帰1戦目を2回TKOで勝利し、同年8月のWBOアジアパシフィック同級王座決定戦も10回TKOで勝利。かつて自らが巻いていたベルトを再び手にした。

 そして迎える、永田との統一戦。昨年8月の試合での劇的な勝利も振り返ってもらいながら、永田戦への思いを聞いた。

井上尚弥・拓真との試合後のカップラーメンも「解禁しようかと」...の画像はこちら >>

【「尚弥の声は自然と耳に入ってくる」】

――まずは前戦、劇的な10回TKO勝利での王座返り咲き、おめでとうございます!

「ありがとうございます! ホントに必死でした」

――8回にダウン寸前まで追い込まれてからの逆転劇でしたね。

「そうですね。

一度引退する前の自分なら、絶対に負けていたと思います。復帰を決めてから、気持ちの部分もそうですし、ボクシングに対する向き合い方や練習の仕方など、いろんな面で成長できたおかげだと思います」

――10ラウンドにダウンを奪った、右ボディからの右のショートフックが強烈でしたね。

「ダウンを奪った場面は、相手が右ボディを警戒していて、効いているのもわかりました。だから右ボディをもう1回打ったところで、『同じような軌道で上にフックを打ったら当たるんじゃないか』と思ったら、ドンピシャで当たって倒れてくれた。

 ただ、それまではパンチが効いているかよくわからなくて。『自分はパンチがないのかな?』と思ったりもしました。

でも、『テレンス・クロフォード(現WBAスーパー・WBC・WBOスーパー世界ウェルター級統一王者)だったら倒せるだろう』と、クロフォードになったつもりで戦いました」

――リングサイドでは井上尚弥選手、井上拓真選手も見守っていました。試合後、どんな声をかけられました?

「『マジで負けるかと思った』と(笑)。『全員が思ってたよ』と言っていましたね」

――試合中は、尚弥選手も声をかけていましたね。

「尚弥の声は高いからなのか、試合中もよく聞こえるんです。スパーリングでもそうですけど、真吾(尚弥・拓真選手の父親)さんや尚弥の声は、自分の中で"聞かなきゃいけない声"になっていて、自然と耳に入ってくるんですよね」

【一度引退する前と復帰後の変化「今は苦しい思いをしたい」】

――対戦相手のアブドゥラスル・イスモリロフ(ウズベキスタン)はどんな選手でしたか?

「ウズベキスタンは『アマチュアボクシングの最強国』と言っても過言でないので、やはり強かった。新しくついてくれた鈴木(康弘)トレーナーは、ロンドン五輪のウェルター級日本代表でしたが、『ウズベキスタンの選手と3回戦ったことがあるけど、1回も勝ったことがない』と。その"敵討ち"と言ったら変ですが、一緒に勝とうという思いはありましたね」

――鈴木トレーナーがついてから、練習にどんな変化がありましたか?

「以前は、楽なほうに逃げてしまいがちでした。

疲れたくない、苦しい思いをしたくないと。今は逆に、どんどん疲れたいというか、苦しい思いをしたくなっています。自分を追い込むことで、不安な部分がどんどん無くなっていく感覚です」

――2戦目も苦しいところからの逆転勝利。見ている側は大興奮の試合でした。

「激闘になって『感動した』『面白かった』と言ってもらえるのは、プロとしてすごくうれしいです。一方で、ボクサーとしての評価は上げられなかったかもしれないと思っていて。

正直に言うと、もっと圧倒して、すんなり勝ちたかったです。でも、全部ひっくるめていい経験ができたとは思いましたね」

――SNSなどでは、尚弥選手のように相手を圧倒するパーフェクトな試合も魅力的だし、浩樹選手のように一度辞めてから這い上がってくる姿も応援したい、といった声も多く見られました。

「本当ですか! それはうれしいですね。プロである以上、試合を見て何かを感じてもらえるのが1番だと思うので。以前の僕は、どちらかというとリスクを避けるボクシングスタイルだったので、『感動した』などと言われることがあまりなかったんです。復帰2戦目でそういう反響があったのは本当にうれしい。

『倒す』という気持ちを前面に出すことができたと思います」

――入場曲は、「Poppin'Party」(人気マンガ・アニメ『BanG Dream!(バンドリ!)』の作中に登場するバンド)の『Breakthrough!』。試合のテーマにもBreakthrough、「打開」を掲げていましたが、それを体現した試合だったのでは?

「そうですね。一応、有言実行だったとは思います。"うまいボクシング"が通用しなかった時の選択肢も増えましたし、自分の殻をひとつ破れたんじゃないかと」

――約3年ぶりに戻ってきたWBOアジアパシフィック王座のベルト。その重みはいかがですか?

「僕は、あまりベルトにこだわりが無いんです。とにかく、『強い選手に勝てた』のが1番。

ベルトは『賞状をもらえた』みたいな感じです」

【「どんな内容であれ、勝ちたい」】

――次戦について伺えたらと思います。1月6日には尚弥選手が、自身のX(旧Twitter)で「今日からロードワーク開始 拓真氏と浩樹氏のサポートに努めます」と投稿していました。次戦に向けてサポートしてくれているんですか?

「サポート......されてるのかな?(笑)。 でも、一緒に走ったり、練習したりはしています。スパーリングの時もすごくアドバイスをしてくれますし......ちゃんとサポートしてもらってますね(笑)」

――同じサウスポー同士、永田選手との試合は統一戦であるとともに、リベンジマッチでもあります。

「自分の中では『統一戦』という認識はないんです。とにかく、永田選手に勝ちたい。今はそれしか考えていません。この試合でしっかり勝てたら、その後は上に行きたいですね」

――1回目の試合(2020年7月)から約3年7カ月ぶりの試合となります。特別な思いがありますか?

「どんな内容であれ、勝ちたい。これまでは、試合が決まったら『圧倒したい』『KOで勝ちたい』と思っていたんですが、永田選手は僕のボクシング人生をいろんな意味で変えてくれた選手。この試合に関しては、さまざまな感情がありますね。

 永田選手に負けて一度ボクシングを辞めたことで、逆にボクシングと向き合うことができた。応援してくれる人、仲間も増えました。だから永田選手には感謝しているんです。その"恩返し"のような思いをぶつけたいです」

――ちなみに、以前は恒例だったという、試合後に尚弥選手や拓真選手と食べるカップラーメンは今も禁止中ですか?

「昨年は1年間、カップラーメンを辞めていました。でも、今年は解禁しようかと」

――2月24日には拓真選手、5月6日には尚弥選手もタイトルマッチが予定されていますが、その後などですかね?

「そうですね。お願いしてみようと思います(笑)」

【プロフィール】
■井上浩樹(いのうえ・こうき)

1992年5月11日生まれ、神奈川県座間市出身。身長178cm。いとこの井上尚弥・拓真と共に、2人の父である真吾さんの指導で小3からボクシングを始める。アマチュア戦績は130戦112勝(60KO)18敗で通算5冠。2015年12月に大橋ジムでプロデビュー。2019年4月に日本スーパーライト級王座、同年12月にWBOアジアパシフィック同級王座を獲得。2020年7月に日本同級タイトル戦で7回負傷TKO負けを喫し、引退を表明したが、2023年2月に復帰。同年8月にはWBOアジアパシフィック・スーパーライト級王座決定戦に勝利した。18戦17勝(14KO)1敗。左ボクサーファイター。アニメやゲームが好きで、自他ともに認める「オタクボクサー」。

◆試合情報

【OPBF東洋太平洋・WBOアジアパシフィック・スーパーライト級王座統一戦】
(2月22日@東京・後楽園ホール「フェニックスバトル110」)

WBOアジアパシフィック・スーパーライト級王者
井上浩樹(大橋)18戦17勝13KO 1敗 

VS

OPBF東洋太平洋スーパーライト級王者
永田大士(三迫)23戦18勝6KO 3敗2分