富樫勇樹に海外メディアから質問が集中 東アジアスーパーリーグ...の画像はこちら >>

【東アジアの頂点まであと1勝】

 日本、韓国、フィリピン、台湾の優勝チームなど合計8チームが争う、東アジアスーパーリーグ(EASL)。その優勝決定トーナメント、「EASL Final Four 2024」がフィリピン・セブにあるフープスドームで開催された。3月8日には、1度も黒星を喫することなく準決勝まで進出したBリーグ代表の千葉ジェッツが、台湾P.リーグ+代表のニュータイペイキングスを激闘の末、92-84で破って決勝進出を決めた。

 6日にBリーグの試合を行ない、ニュータイペイとの試合に中1日という強行日程で臨んだ千葉は、苦戦を強いられるも持ちこたえ、終盤の勝負強さで相手をうっちゃる形となった。

 10日夜、千葉は韓国KBLのソウルSKナイツとの試合で優勝をかけて相まみえる。

 2016年に創設されたEASLは、これまで異なるリーグ名で集中開催式の大会を開いていたが、今回は初めてシーズンを通して開催。その初年度をこのファイナルフォーで終えようとしている。千葉は「初代王者」の称号まで、あと1勝となった。

【元NBA選手も富樫を警戒】

 そんななかで目を引いたのが、千葉に勝利を呼び込んだ、彼らの誇る絶対的スターに対する観客の高い注目度だ。

 トガシ――。

 ファイナルフォーの開幕前日の記者会見。出席した出場チームの選手らは一様に千葉のエースである富樫勇樹の名前を挙げた。

 日本人の名前は往々にして、外国人にとって覚えるのが難しいこともあって、代わりに背番号で指し示すことも少なくないが、彼らは背番号の「2番」ではなく「富樫」の名字を口にしたのだ。

 EASLの目玉選手のひとり、ニュータイペイの元NBA選手であるジェレミー・リンの弟で、同チーム所属のジョセフ・リンは、千葉との対戦にあたって「とりわけ気をつけることは何か」と問われると、「富樫さ」と笑顔をたたえながら即座に話し始めた。

「彼はEASLのグループリーグ、台北富邦ブレーブスとの試合(2023年10月18日、延長の末に千葉が85−82で勝利)の最後に、勝負を決定づけるシュートを決めて、その試合では38点も得点しているし、日本代表でも長年活躍しているよね。だから彼はジェッツの『蛇の頭』。

われわれとしても彼を抑える方策を見つけなければならない。それができなかったら彼にやりたいようにされてしまう」

『蛇の頭』とは軍隊や戦争などに関連した会話等で用いられる英語のフレーズ。敵方のリーダーなどを指す言葉で、そこさえ攻略すれば、あとは倒すのは簡単だという意味。多少大げさに表現するならば、富樫が千葉というチームそのものなのだと相手からは見られているということになる。

 この後、兄ジェレミーに対して、「ジョセフが富樫を『蛇の頭』と話していたが、あなたも同じ意見か」と問うと、弟とよく似た笑顔で「僕だけじゃなくてチーム全体がそう考えているはずだよ」と話した。

富樫勇樹に海外メディアから質問が集中 東アジアスーパーリーグで見たBリーグ人気
富樫勇樹(千葉ジェッツ)のプレーに海外のファンから感嘆のため息がもれる photo by ©EASL

 身長を含めた体の大きさが物を言う側面のあるバスケットボールで、167cmの富樫が身長の不利をものともせずリングへのドライブから、あるいはさまざまな技を駆使してねじ込む3Pシュートで得点を決める姿が、彼を日本屈指のスター選手たらしめている。

彼のプレーの雄弁さは、どうやらアジアの周辺諸国にも及んでいるということなのだろう。

 ジョセフ・リンは身長182cm、体重69kgと自身も体躯に恵まれていないが、それよりもさらに小柄な富樫が高いレベルでプレーをしていることに、尊敬の念を抱きながらこう語った。

「僕もポイントガードとしては小柄なほうで細いから、彼がどのように感じながらプレーをしているかはよくわかるよ。彼は僕よりも身長が低いわけだけど、小さな選手は何かしら生きる手立てを考えなければならない。

 僕も彼もものすごく高く跳べるわけではないし、だからこそ他の技術を磨かなければならないわけだけど、彼はそれをとてもよくできていると思うし、彼のスピードや切り込んでいく技術などはステフィン・カリー(NBAゴールデンステイト・ウォリアーズ)のようでもあるね」

 8日の試合での富樫のパフォーマンスは、リン兄弟のそうした言葉がまるで予言だったかのようなハイレベルなものだった。富樫はリンらとマッチアップしながら序盤から気合の入ったプレーぶり。

事前の試合で利き手の右親指に突き指を負い、この日も黒いテーピングを巻いての出場となったが、ドリブルで相手を振っての3Pシュートや、マークマンに魔法をかけたかのように置き去りにするドライブインプレーを披露。地元フィリピンのファンたちから、会場に大きく響く感嘆の声を何度も浴びていた。

 ふだんの国内の試合とはまた異なるアリーナ内のどよめきは、富樫の耳にも届いていた。

「フィリピンはバスケがすごく人気の国なので、その雰囲気を本当に味わえた試合でしたし、日本と海外では応援の雰囲気も違うので、すごく楽しむことができました」(富樫)

 確かに彼のような選手は、他国になかなかいないのかもしれない。だからこそ、海外においても認知をされているのだろう。

富樫勇樹に海外メディアから質問が集中 東アジアスーパーリーグで見たBリーグ人気
バスケットボール選手としては小柄ながらも圧倒的な存在感を放つ富樫 photo by ©EASL

【海外メディアから質問が集中】

 EASL出場チームの地域では、とりわけ台湾でBリーグを中心とした日本のバスケットボールが人気のようで、台湾の関係者に話を聞くと富樫、河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)、比江島慎、田臥勇太(ともに宇都宮ブレックス)が人気であるとのことだ。

比江島を除いた3人はいずれも、身長が低い点が共通しているのは偶然ではないだろう。

 台湾にはBリーグの公式インスタグラムアカウントもあり、上記の選手らの動画は何十万もの再生数を記録していることが人気の一端を表わしている。

 また、8日のニュータイペイ戦後の会見では、日本以外のメディアから富樫へ向けて以下のような質問が次々と出た。

「厳しいスケジュールにも関わらず疲れ知らずのプレーができた秘訣は何か――」

「初めてあなたのプレーを見て本当に驚いた。なぜそれほどまでにうまくプレーできるのか――」

「フィリピンでのファンからの歓待をどう感じたか――」

 これも彼への関心の高さの証左だと言えよう。そして、これが富樫ではなく例えば河村や比江島であっても、やはり同じような状況に置かれていたのではないか。

 Bリーグの認知度が上がった大きなきっかけは、2020-21シーズンから、2名コートに立つことの許される外国籍選手にもう1名、アジアの提携国出身の選手を加えられる「アジア特別枠」が導入されたことだろう。これによって、フィリピンを中心に多くの選手たちが日本でプレーするようになったことが挙げられる。

 これを機にBリーグは国際化を視野に入れ、フィリピンや台湾では同リーグの英語版YouTubeやFacebookで配信を開始している。それでも、まだまだ十全に認知されているとは言いがたく、同リーグの国際事業関係者によれば、今後はアジア各国に赴いてイベントを開催するなどして、NBAに次ぐ世界第2位のリーグを目指していきたいと話している。

 筆者は今回のファイナルフォーで、EASLの海外開催の試合の取材を初めて経験しているが、他国ファンや関係者から向けられる富樫への注目度の高さは想像以上で、Bリーグが今後、アジアで存在感を増す可能性を感じた。