現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 久保建英はアヤックス戦で1得点1アシストを記録し、ヨーロッパリーグでのホーム初勝利に貢献。次のベティス戦でも今季4度目のマッチMVPに輝く活躍を見せるなど、ここにきて好調を維持している。

それでもチームは今季極度の得点力不足に陥っている。

 今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、得点力不足の原因と改善策について言及してもらった。

久保建英は「ベストな状態を取り戻した」がレアル・ソシエダは得...の画像はこちら >>

【久保はベストな状態を取り戻した】

 カトリック諸国で11月は「死者の月」と呼ばれ、その最初の2日間を「死者の日(亡くなった聖人と信者の魂に祈りを捧げる日)」として祝う伝統がある。カトリック教会は煉獄(天国と地獄の間にある生前の罪を償うための場所)の死者や霊魂のために祈る月と定めている。

 シーズン開幕から調子が上がらなかったレアル・ソシエダは、生死の境でもがき苦しみながらも、わずかに残された命の灯火を守りながら「死者の月」を迎えた。11月の試合日程を見てみると、代表ウィークを挟みつつ、セビージャ、ヴィクトリア・プルゼニ、バルセロナ、ホベ・エスパニョール、アスレティック・ビルバオ、アヤックスという、強豪との対戦を含むタフな戦いに臨まなければならず、命運がここで尽きるかもしれないと思われていた。

 近年、ギプスコア県(県都はレアル・ソシエダの本拠地サン・セバスティアン)では無神論者や無信仰者が増加し、教会の力は失われている。変わって、今やこの地域で最も大きな存在となっているラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)は息絶えることなく、「死者の月」に見事な復活を遂げた。

 その旗振り役を務めたのは久保建英だった。バルセロナ戦やアヤックス戦で見せたように、イマノル・アルグアシル監督が起用できる選手のうち最も決定的な役割を果たせる存在であり、必要とされたときに攻撃をリードするためのベストな状態を取り戻した。

 久保は大きな才能を持ち合わせているが、時折見せる不安定さやアタッキングサードで決定的な力を発揮できないことにより、そのパフォーマンスを疑問視する声もあった。重要な試合でスタメンの座を失うなど、不本意なシーズンのスタートとなったが、今や彼がレギュラーであることに疑いの余地はない。

【バルセロナ戦、アヤックス戦はターニングポイント】

 ホームでの強豪との2試合、バルセロナ戦とアヤックス戦での勝利は、チームにとってターニングポイントとなる重要な意味を持つものとなった。

 バルセロナ戦は立場が逆転し、まるでラ・レアルがラ・リーガ首位チームのようだった。

この日のラ・レアルはバルサ相手に90分間躍動し、1-0というスコアでは物足りなく感じられる試合内容だった。久保は得点もアシストもできなかったが、相手に抑えられることなく、違いを生み出し、チームで最も際立つ選手となった。さらに守備でも懸命に走り、積極的にプレスをかけた。

 アヤックス戦は、これまでのヨーロッパリーグ(EL)でのパフォーマンスを考慮すると困難を極めると思われたが、前半から非常に拮抗した展開となった。そして後半に入ると久保のパフォーマンスのおかげでチームは変貌する。

 久保は試合を重ねるごとに右サイドでホン・アランブルとのコンビネーションに磨きをかけており、勝つために必要なタイミングを的確に見極め、ペナルティエリア内からクロスを入れて、アンデル・バレネチェアにゴールをプレゼントした。さらに終盤、右サイドからダイアゴナルのドリブルで中に切り込んでいき、スーパープレーで今大会の初得点を記録した。

 スタンディングオベーションのなかでピッチを後にした久保は、「観衆からのこの拍手をずっと必要としていた」と素直な気持ちを語っていた。チームの要であるスビメンディから、「タケはチームのなかで最も違いを生み出せる選手であり、本当に重要だ」と称賛を受けた。

 久保は11月、ラ・レアルで2得点1アシストを記録したが、そのすべてが重要な局面でのものであり、著しい成長を遂げている。

 調子を上げていたラ・レアルにとって、ホームでのベティス戦(2-0)は今季最も穏やかな試合のひとつとなり、これまでの悪い流れを完全に断ちきった。シュート1本で前半のうちに2点(オウンゴールとPK)を奪い、早々に試合を決めたことで、その後はテンポを下げてゲームをコントロールすることができた。

 ミッドウィーク開催のヨーロッパリーグで尽力した久保は前半、ミケル・オヤルサバルのPK獲得の起点になったものの、何度もファウルを受け、相手と対峙するシチュエーションを楽しめずに目立てなかった。さらに後半はチームがより力をセーブし、ベティスが主導権を握ったことで、ほとんどボールに触れることなく試合を終えていた。

【ラ・レアルの得点力不足の正体】

 こうしたなか、ラ・レアルの"得点力不足"は何カ月も前から誰もが知る悩ましい問題だ。

 DFロビン・ル・ノルマン(現アトレティコ・マドリード)とMFミケル・メリーノ(現アーセナル)の退団後、ディフェンスに重点を置いて堅守を手に入れた代償として、イマノルは監督就任以来チームの特徴であった攻撃的なサッカーを"忘却"している。

 攻撃はアウトサイドに偏り、チャンスメークの責任はすべてふたりのウイングに委ねられている。久保とバレネチェアはともに優れたドリブラーだが、多くの試合でDFふたりと対峙せざるを得ない。しかし、その守備網を毎回突破することなど不可能だ。ラ・レアルはこうなった場合、インサイドで攻撃をうまく組み立てられていないため、攻め手を失うことが多々ある。

 中盤のルカ・スチッチとブライス・メンデスはお互いを理解しているようには見えず、多くの場合、マルティン・スビメンディがボールを運び、攻撃に参加してチャンスを生み出している。

 第15節終了時でラ・リーガの総得点数で下にいるのはバジャドリードとヘタフェのみ。この下位に沈む2チームと中位のラ・レアルを比較すべきではないが、これまでどれだけ得点力不足だったのかがわかるだろう。

 アレクサンデル・イサク(現ニューカッスル)とアレクサンデル・セルロート(現アトレティコ・マドリード)の退団以降、チームはシーズン15ゴールを保証できるストライカーを欠いている。CFの代役を務めたオヤルサバルは昨季いい数字を残したが、今季は十分なパフォーマンスを発揮できていない。

 高額の移籍金で加入したオーリ・オスカルソンはエースストライカーの役目を担うはずだったが、ここまでは得点よりもチャンスメークに秀でており、現在、ふくらはぎの負傷で欠場中。ウマル・サディクは数少ない出場時間を生かせていない。

【CF以外の選手がもっと得点に絡む必要がある】

 その点で久保やバレネチェア、メンデス、スチッチが、もっと得点に絡む必要がある。ラ・リーガでは久保がオヤルサバルに並ぶ3ゴールでチーム得点王だが、メンデスとスチッチは1ゴールのみ、バレネチェアはまだゴールがない。シェラルド・ベッカーも1ゴールしか決めていない。メリーノは2列目から走り込んでゴールを奪うことができる選手だっただけに、彼を失ったことは大きな痛手となっている。

 チームにおいて重要な役割を担うウイングは正確なクロスを上げることができるが、フィニッシャーにうまく合うことはほとんどない。この状況を解消するためには、アヤックス戦で久保のクロスをバレネチェアがファーポストで合わせたように、攻撃により多くの人数をかけ、ボックス内でゴールを決める必要がある。

 それでも、まだ完全に爆発しているわけではないものの、ラ・レアルは11月以降、得点面で成果を出し始めており、もはや4試合連続無得点という事態に陥った開幕当初の面影は消えた。ここ1カ月の公式戦7試合で13ゴールを記録。そのうち5ゴールは5部のホベ・エスパニョールから奪ったものだが、これまで得点力不足に悩んできたチームが多くの得点を挙げたことは評価に値する。

 そしてシーズン最高の瞬間を迎えている今、久保とともにラ・リーガでの目標に少しでも近づき、ELと国王杯で次ラウンドに進むために重要な局面に入り始めている。

(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)

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