現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 久保建英が先発復帰したレアル・ソシエダだったが、アウェーのオサスナ戦に敗れなんとラ・リーガ3連敗。久保も得点やアシストなど、なかなか数字が伸びない状況だ。

 今回はスペイン紙『アス』およびラジオ局『カデナ・セル』でレアル・ソシエダの番記者を務めるロベルト・ラマホ氏に、今冬の久保の移籍騒動やスタッツが伸びない原因について言及してもらった。

【移籍騒動 現地とのギャップ】

 久保建英のようにメディアで大きく取り上げられる選手は、どうやって自分のプレーに集中しているのか、私はいつも不思議に思っている。彼は母国で、試合だけでなく現地での生活など細部に渡って注目されているスターだ。

久保建英の移籍の噂に何ひとつ真実はなかったとスペイン人記者「...の画像はこちら >>
 献身的な姿勢、華麗なプレー、そして人前でのフレンドリーな話し方は、ここサン・セバスティアンでも好意的に受け止められており、常に話題となっている。そして今、ヨーロッパで最も移籍が噂される選手のひとりになりつつあるが、先日終了したばかりの冬の移籍市場において、彼の身には何も起こらなかった。

 久保の周囲はいつも騒がしく、レアル・ソシエダから退団するというニュースは後を絶たない。ここ数カ月で報じられた情報をすべて鵜呑みにすれば、リバプール、アーセナル、アトレティコ・マドリードのいずれかですでにプレーしているはずだ。しかしまったく何もなかった。

 久保はシーズンのこの時期にラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)を離れることなど考えていない。そしてクラブも久保を売りに出すつもりはないと発言し、獲得を狙うクラブのあらゆる試みを阻止したため、いかなるオファーも届かなかったのだ。

 実際に、今冬の移籍市場で久保に関して報じられた内容に、何ひとつ真実はない。すべての情報は、常に信憑性が疑問視されているウェブメディアに掲載されただけだった。

 私はサン・セバスティアンの外で、その騒ぎが大きかったことに驚かされた。

というのも、ここではすべてが非常に穏やかだったからだ。クラブも、久保本人も、とても落ち着いているのが私たちにも伝わっていたので、緊張が走ることはまったくなかった。だから彼が先月、公の場に現れた時でさえ、海外からのオファーや去就に関する質問は一度も出なかったのだ。

 この冬の移籍市場で彼の移籍は一度も疑われておらず、現時点では今夏もその可能性はない。彼はラ・レアルで自分がいかに重要な存在であるかを、十分にわかっている。自分には価値があり、愛されていると感じている。クラブのプロジェクトにもかかわっているため、退団することなど考えていない。

 また、ラ・レアルは今のところ、非常に野心的な選手であり、できる限り高いレベルでのプレーを望む久保に対し、ヨーロッパの舞台を提供できている。

【得点やアシストが少ない理由】

 欧州カップ戦出場権を今季獲得できなかった場合、久保の動向を見守る必要があるだろう。というのも私はこの夏、いいオファーが届くと思っているからだ。しかし、ラ・レアルが今提供しているものを継続できるのであれば、彼がここを去る決断を下すのは容易ではないだろう。

 久保が以前、お金がすべてではなく、スポーツ面が自分の望むものに達していないとし、年俸2000万ユーロ(約32億円)というサウジアラビアからのビッグオファーを断ったことを忘れてはならない。いずれにしても、久保が今夏いいオファーを受けるためには、今年に入ってから見せてきたパフォーマンスを維持する必要がある。

 サン・セバスティアンで彼は攻撃の大きな武器であり、決定機を生み出す能力が非常に高い選手だと認められている。だが、不思議なことにスタッツが伴っていない。私は本来の実力に対して、得点やアシストが少ないと思っている。

 彼にもその責任の一端はある。もっと多くのゴールやアシストを記録したいのであれば、今以上に尽力しなければならない。しかし、正直なところ、チームメイトが久保の成績アップに貢献できていないことが大きな問題だと思う。

 実際、ラ・レアルは全体の得点数が非常に少ない。ラ・リーガで最下位のバジャドリード(15得点)や14位のヘタフェ(17得点)に次ぎ、3番目に得点の少ないチームになっている(18得点)。これは非常に憂慮すべきデータだ。

 ミケル・オヤルサバルは実力を発揮できておらず、オーリ・オスカルソンはエースストライカーになるために、あらゆるチャンスを生かすことを学ばなければならない。そしてアンデル・バレネチェア、セルヒオ・ゴメス、ブライス・メンデス、ルカ・スチッチは、得点面で期待されたほどの貢献をしていない。

 一方、久保はあまり調子が上がらない日もあるだろうが、どの試合でも味方の決定機を演出している。

【特に必要なのは目に見えるゴール】

 チームメイトの決定力が大幅に低下している状況にもかかわらず、アシストが少ないと久保を責めることに何の意味があるだろうか。どちらかと言えば、彼の果たすべき責務はゴールを決めることだろう。

 イマノル・アルグアシル監督は彼に常々それを要求してきた。個人的なスタッツを向上させることで、チーム全体のスタッツを改善できるという事実を伝え、彼のモチベーションを高めてきたのだ。

 結局のところ、久保のようなスターと見なされる選手は、数字によって評価され、それが多かれ少なかれ注目されることになる。だから彼が今季をすばらしいものにするため、特に必要なのは目に見えるゴール、そしてアシストの数字を伸ばすことだ。もしそれができればオファーが殺到し、クラブは引き止めるのが困難になるだろう。

 私の主張を最もよく反映している試合は、ラ・レアルが1-2で敗れたパンプローナでのラ・リーガ第22節オサスナ戦だ。久保は積極的にボールを要求し、決定機を作り、ゴールチャンスもあった。

 最終的に数字はつかなかったが、それはトライしなかったからではない。再び攻撃の主軸となっていた。しかし、久保はプレーの判断を下さなければならない場面で明晰さを欠き、フィニッシュワークを務める選手たちもその役目を果たせなかった。

 久保にはまだ戦う場として、ラ・リーガも国王杯もヨーロッパリーグも残されている。チームメイトを鼓舞し、チームとともに向上することこそが、久保自身が輝くための近道となる。

(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)

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