【過去最高レベルの候補生たち】
大きな可能性を秘めた候補生たちによる集大成のトーナメント「卒業記念レース」が、3月4日(火)、5日(水)の2日間、静岡競輪場で開催された。出場したのは、日本競輪選手養成所で約10カ月間の訓練を積んだ第127回生の男子69名(1名欠場)と、第128回生の女子20名。将来の競輪界を担う逸材が出場するということもあって、競輪場には関係者のみならず、多くのファンが足を運んだ。
この候補生たちは男女ともに過去に例を見ないほどの好成績を収めてきた。
養成所では3回の記録会が実施されるが、男子は第3回目の記録会で、スピード・持久力が特に優れている者に与えられるゴールデンキャップの獲得者が24名にのぼった。これは過去最高だった第125回生の9名を大きく上回る結果となった。また第2回、第3回の記録会で200m、400m、1000m、3000mの全種目で期別平均最高タイムを更新するなどハイレベルな脚力を見せた。さらに市田龍生都(福井・127期)が、目覚ましい成績を残したことにより、2024年12月に早期卒業を果たしている。
ここでは卒業記念レースで目立った活躍を見せた将来有望な男子選手2名を紹介する。

【男子を制した三神遼矢】
時折冷たい雨が降るなかで開催された男子の卒業記念レースを制したのが、三神遼矢だ。
決勝では「早めに主導権を取って先行したい」と語っていた三神。狙いどおり打鐘とともに先頭に出るが、わずかにペースを落とした隙を突かれて2番手に。それでも「杉浦(颯太)君1車だけだったので、冷静に切り替えた」と慌てずピタリと後ろについた。そして第3コーナーからさらに加速して先頭に躍り出ると、そのまま1着でゴールラインを通過した。
養成所での2回のトーナメントも含め、初めて表彰台に上り優勝を手にした三神は「素直にすごくうれしいです」と笑顔を見せた。
三神は養成所で在所2位の成績を残し、記録会では2度ゴールデンキャップを獲得している。
中学3年のときにツール・ド・フランスを見てロードレースの選手に憧れた三神は、高校から自転車競技部に所属。主にロードレースの選手として活躍していたが、大学2年からトラック種目に専念するようになった。すると3年時に国体のスプリントで優勝。4年時にも同大会で勝ち、連覇を達成した。
そんな三神の強みは、小学5年から中学3年まで取り組んでいた体操で培った柔軟性。
「自転車は前傾姿勢を取りますが、体が硬いと前傾姿勢がうまく取れなくて、空気抵抗が大きくなってしまいます。体操は柔らかい動きのなかでも力をいれなくてはいけません。自転車では深い前傾姿勢を取ったうえで、強い力を出さなくてはいけないので、その部分は近いところがあります」
三神は180cmを超える身長だが、低く構えた前傾姿勢からスムーズに加速するスタイルは、流麗で優美に見える。
今後は競輪と自転車競技の両方での活躍を目指すという三神。武器は、「向上心を持って地道に練習できるところ」と謙虚に語る。この先どこまでの高みまで登り詰めるのか、今から楽しみな選手だ。

【野球の独立リーグから転身】
その三神と並んで存在感を見せたのが、決勝まで唯一1着で勝ち進んだ尾野翔一。決勝では4着となったが、完全優勝の期待を抱かせてくれるほどの圧倒的な爆発力を見せた。
尾野は野球から転向した異色の経歴を持つ。小学3年から野球を始め、中学、高校、スポーツ系専門学校を経て、独立リーグの高知ファイティングドッグス、北九州下関フェニックスに在籍していた。そこでは主に1番・センターとして活躍。もともと肩が強く、公式戦でピッチャーをやることもあった。
「そのときのバッターが元巨人のイスラエル・モタ。パワーヒッターとの勝負だったんですが、ストレートだけで三振を取りました。球速は149キロでした」
プロ野球の第一線で活躍できるほどの強肩ぶりだ。さらに「50mは5秒7でした」と陸上短距離選手並みのスピードも持っていた。それでも野球では限界を感じていた。
「一度始めたことだから中途半端は嫌だなと思って行けるところまで行こうと思っていました。
そこで興味を持ったのが競輪だった。現在は師匠である柳詰正宏(福岡・97期)と出会ったことがきっかけで「競輪選手なら自分の特性を生かせるのではないか」と考えるようになった。
そこから養成所に入るために気持ちを切り替え、「自分が一番乗り込んだと自信を持っていえるぐらい練習をやりました」というほど猛烈な特訓を行なった。約10カ月の練習で養成所に入所すると、持ち前の身体能力で一気に目立つ存在に。第2回、第3回の記録会ではゴールデンキャップを獲得した。
競輪をやり始めて約2年。目標にしていた在所成績1位も獲得した。今後は「GⅠ、グランプリも含めて、いろんな日本一を獲っていきたいです」と息巻く。「自分には向いている」という競輪で、今度も行けるところまで行くつもりだ。