求められるのは、「Xファクター」の出現である。

 6月5日にアウェーでオーストラリアと、10日にホームでインドネシアと対戦する日本代表には、7人の初招集選手が含まれている。

 招集された経験はあるが、試合出場の少ない選手も多い。24人のフィールドプレーヤーのうち10人は、国際Aマッチ出場数がひとケタだ。3月の段階で北中米ワールドカップ出場を決めたため、森保一監督は新戦力のテストに軸足を置いたのだった。

サッカー日本代表初招集のJリーガー4人は「Xファクター」とな...の画像はこちら >>
 現在の日本代表は、重厚な選手層を誇る。最終予選のベースとなっている3-4-2-1でも、4-2-3-1でも、すべてのポジションにふたり以上の選手を当てはめることができる。3人目以降の競争が激しいポジションもある。レベルの変わらないチームを、少なくともふたつは作ることができる。

 新戦力の発掘は、急務ではない。

 しかし、だからと言って、現有戦力で戦い続けるのはもったいない。選手層の厚みに、リミットを設ける必要もない。Xファクターと成り得る選手を、発掘していく作業は進めていくべきだ。

 7人の初招集のうち、Jリーグからセレクトされたのは4人だ。

DF鈴木淳之介(湘南ベルマーレ)、MF熊坂光希(柏レイソル)、MF佐藤龍之介(ファジアーノ岡山)、MF俵積田晃太(FC東京)である。

 鈴木はプロ4年目の21歳で、湘南にはMFとして加入している。転機となったのは昨シーズン途中のコンバートだ。3バックの左サイドに指名されると、ビルドアップで存在感を発揮していく。

 ライン間に立つ味方選手に縦パスを刺し込む、相手のブロックをひとつ飛び越える中距離のフィードといったプレーで攻撃の組み立てに関わっていくのだ。パスだけでなく、自ら持ち出すこともできる。

 相手がプレスをかけてきても、慌てることはない。プレスの網にかかりそうになっても、逃げることなくボールを受け、目前の相手を剥がし、前進することができる。

【左CBの新たな選択肢となる可能性】

 日本代表の3バックの左サイドでは、伊藤洋輝(バイエルン)や町田浩樹(ユニオン・サンジロワーズ)が起用されてきた。伊藤は188cm、町田は190cmだ。それに対して、鈴木は180cmである。

 ただ、サイズではコアメンバーのふたりに劣るものの、ビルドアップ能力は遜色ない。ドリブルで持ち出してDFラインの背後へスルーパスを通す、内側のレーンに立ってボランチのように振る舞うといったプレーは、左CBの新たな選択肢となる可能性を秘めている。

 ディフェンスの局面でも、力強さを発揮している。J1の戦いでは、デュエルで優勢に立つことができている。サイズのあるオーストラリアのアタッカーや、オランダにルーツを持つインドネシア代表の攻撃陣に、どこまで対抗できるのかは興味深い。

 鈴木が昨シーズン途中からクローズアップされたのに対して、熊坂と佐藤は今シーズンからスポットライトを浴びている。

 熊坂は大卒1年目の昨シーズンにリーグ戦デビューを果たしたものの、スタメンはわずか1試合だった。プレータイムはほぼ2試合相当の197分に過ぎなかったが、リカルド・ロドリゲス監督が就任した今シーズンは開幕からスタメンに名を連ねてきた。代表活動直前は累積警告で出場停止だったが、スペイン人指揮官のもとで好調を維持するチームのセンターラインを担っている。

 柏では2枚のセントラルMFの一角がスタートポジションとなっており、日本代表の3-4-2-1に問題なくフィットできる。試合の流れに応じてアンカーの立ち位置を取るので、4-3-3のアンカーも対応可能だろう。森保監督の戦術には、スムーズに適応するはずだ。

 攻撃時はDFラインやサイドバックと連動しながら、ビルドアップの出口となる。そのうえで、攻撃にスイッチを入れる縦パスも刺し込む。

パス総数がリーグトップのチームで、敵陣で数多くのパスを出し入れしている。

【セントラルMFのクローザー候補】

 日本代表のセントラルMFは、キャプテンの遠藤航(リバプール)を軸に守田英正(スポルティング)か田中碧(リーズ)がパートナーを務める。4番手以降も藤田譲瑠チマ(シント・トロイデン)や複数ポジションに対応する鎌田大地(クリスタル・パレス)、旗手怜央(セルティック)など、さまざまなタイプの選手がスタメンを争っている。

 彼らコアメンバーになくて、熊坂にあるものとは?

 185cmのサイズは、この24歳の強みになるはずだ。ビルドアップや崩しに関わりながら、攻守両面でハードワーカーぶりを示す。そのうえで、オーストラリア、インドネシアを相手に対人プレーやエアバトルで強さを見せることができれば、クローザー候補として代表定着の足がかりをつかめるかもしれない。

 FC東京アカデミー出身の佐藤も、プロ3年目の今シーズンにブレイクした。J1昇格のファジアーノ岡山へ期限付き移籍すると、ここまで4ゴール1・アシストをマークしている。代表合流前の湘南戦では、カットインから左足を振り抜いてゴールネットを揺らした。

 岡山は3-4-2-1を基本システムとしており、佐藤は右ウイングバックを担う。U-20日本代表では2トップの一角で起用されるなど、攻撃のポジションを柔軟にこなせるが、日本代表では右ウイングバックの競争に加わることになるだろうか。

 となると、ライバルは堂安律(フライブルク)と伊東純也(スタッド・ランス)だ。18歳には大きすぎる壁である。

パリ五輪代表の関根大輝(スタッド・ランス)も、3バックなら右ウイングバックの候補となる。佐藤が今回の招集を継続的な招集につなげるのは、率直に言って難しい。

 とはいえ、アタッキングサードで見せる迷いのない仕掛けは、国際舞台でも対戦相手の脅威となるはずだ。ボールを握られる時間の長い岡山でプレーしていることで、ディフェンスでハードワークをしながらチャンスを逃さずに飛び出す「眼」も磨かれているだろう。岡山でのプレーをそのまま表現することで、その未来は切り開かれていく。

【三笘や中村の高い壁に挑む21歳】

 俵積田は代表招集こそ初めてだが、FC東京で着実にプレータイムを伸ばしている選手だ。ドリブル突破で違いを生み出せるアタッカーで、左サイドからの縦突破と高速のカットインを使い分けながら、決定的な仕事に絡んでいく。

 日本代表の左サイドには、三笘薫(ブライトン)と中村敬斗(スタッド・ランス)がいる。伊東が右サイドからスライドすることもある。ライバルは多く、その壁は高いが、21歳の伸びしろは無限大だ。今回の代表招集をきっかけに、成長スピードを一気に上げることもできるだろう。

 現在の日本代表は、保有戦力に物足りなさを感じさせない。

選手層の厚みは、過去最高と言って差し支えない。

 だからといって、来年6月開幕の北中米ワールドカップに現状維持のメンバーで臨むことがベストではないだろう。新陳代謝を繰り返すことで、チーム力は高まる。未知なる戦力としてのXファクターの出現は、ワールドカップでの成功を導く前提条件と言ってもいいのである。

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