イングランド・プレミアリーグでリバプールの5季ぶりの優勝に貢献した日本代表の遠藤航(32歳)によるトークショーが6月13日、横浜市内の映画館で開かれた。遠藤に加えて、同じく日本代表でアーセナル所属の冨安健洋(26歳)もスペシャルゲストとして登壇。
今回のトークショーは、遠藤航による配信コンテンツ『月刊・遠藤航』(日本ビジネスプレス運営)の特別企画「The REAL PICK UP MATCH」として開催され、サッカーファンおよそ250人が詰めかけた。この企画は、遠藤が自身の試合を振り返る解説動画コンテンツのリアル版という位置づけで2021年から毎年開かれている。
【リバプール残留か移籍か】
冒頭、遠藤はまず2024−2025シーズンについて、「リバプールでは出場機会はそんなに多くなかったですが、結果的にプレミアリーグで優勝できた。日本代表のほうもワールドカップ出場を決められたので、来季につながっていくいいシーズンだったと思います」と振り返った。
今季の遠藤は、リバプールでの先発出場の機会こそ少なかったが、リードする試合の終盤に投入され、ゲームを締める「クローザー」として勝利に貢献した。そんな自身の立ち位置をこのように話す。
「サッカーだけじゃなくて、普通の仕事でもそうだと思いますが、自分の与えられた環境のなかで何ができるかを一番考えていくべきじゃないですか。自分の居場所を探さないと、プロの世界で自分の存在意義を示せない。与えられた役割をまっとうした結果、クローザーというポジションを勝ちとった。
ただ、それで満足しているわけではなくて、スタメンで出てもやれるということを来シーズンから示していきたい。今の(アルネ・スロット)監督であれば、今後もいろいろなポジションをやっていく可能性は高くなると思うので、次につなげられるようにしたいです」
来季へ向け、リバプール残留か移籍かと、これまでにさまざまな報道が出ているが、司会者からの去就について質問されると、遠藤は「残る」ときっぱり。「出てけって言われたら......残る。
また、日本代表についてはワールドカップアジア最終予選の最終節、インドネシア戦を6月10日に終えたばかり。その最後の1戦を6--0の大勝で締めくくった。2023年から代表キャプテンを務める遠藤だが、この試合では久保建英(レアル・ソシエダ)がキャプテンマークをつけていた。
「(森保一)監督の意向です。久保選手にキャプテンをまかせてみたいと、僕のところにわざわざ来て伝えてくれた。僕も自分がスタメンで出るのにキャプテンじゃないのはどうなんだろうと思いつつも、監督が久保選手の成長に期待しているんだと感じているし、僕自身のことを監督は信頼をしてくれて、僕なら理解すると考えたうえで言ってくれているのかなと。だから自分も理解して託しました。
年齢的にも立場は上のほうになってきてキャプテンをやってますけど、ひとりで何でもできるとは思ってないので、いろんな選手がキャプテンをやって、みんなが自立して、代表でプレーする責任感とかそういうものを感じてもらえればいいのかなと思っています。いろんな選手が『俺が引っ張っていく』という気持ちを持ったチームは間違いなく強くなる」
そう明かした遠藤は、「これから登壇する人もキャプテンのポテンシャルを秘めていると思います」と前置きして、同じくプレミアリーグのアーセナルでプレーする冨安健洋を壇上へ招いた。遠藤と冨安はともに日本代表であり、ベルギー1部リーグのシント=トロイデン所属時はチームメイトだったつながりもある。
まず冨安はケガで長期離脱となった今季について、「出場は(第7節の)サウサンプトン戦の5分だけで、まさかこんなシーズンになるとはイメージしてなかったです。
苦境のなか、冨安はシーズン中に遠藤のもとへ2度会いに行ったという。遠藤は「ついに来てくれたんです。でも、連絡が急に来て、『明日、家行っていいですか?』みたいな。日本の女子選手と仲がいいからそのついでに俺の家に来る、みたいな」と、文句を言いながらもうれしそうに話した。冨安は、「(遠藤)航くんのついでのなでしこです。もちろん」と、冗談まじりに返した。
【マルチポジションの極意】
そんなふうに、終始和やかに進んだふたりの対談を少し抜粋しよう。
── ふだんはふたりでどんな会話をするんですか?(司会者)
遠藤 大した会話はしてないですよ。冨安は真面目なんで、僕がふざける感じですかね。特にシント=トロイデンの時は鎌田(大地)選手と一緒に冨安をいじっていて。
冨安 本当、そうですよ。航くんと大地くんにシュートドリルの時にほぐしてもらってました。いい意味で先輩にも軽くコミュニケーションが取れるようになりました。
── ふたりは、ボランチやセンターバック、サイドバックとマルチなポジションをこなしています。マルチにこなすうえで重要なポイントは?
遠藤 僕の場合は経験がすべてという感じですね。国内でセンターバックをやったり、海外へ行ってからボランチをかなり勉強してきて、今はポジションが変わることに抵抗なく感覚的に対応できる。もちろん最初は大変で、特にセンターバックからボランチになるのは運動量も相手からのプレッシャーの感じも違う。手倉森(誠・リオ五輪代表)監督から「ボランチで使いたい」と言われた当初は、かなりきつかったですね。
冨安 僕も監督から言われたポジションで全力を尽くすことを考えていて、それはどのポジションでも変わりません。アーセナルでは左右は変わりますけどサイドバックをやって、代表ではセンターバックなので、僕の場合はチームによってポジションが変わる感じですね。
── 遠藤さんは冨安さんのプレーをどう見る?
遠藤 センターバックとサイドバックも全然違いますが、右サイドと左サイドも全然違うから両方できるのはやっぱりすごい。
冨安 むしろロングボールは左足のほうが感覚的にハマっていて、左サイドの時はできる限り左足でプレーする意識はありますね。リバプールの(左センターバックの)ファン・ダイクは右利きだし左足を使っている印象もないので、まあ選手による違いだけでどっちでもいいんだと思うんですが、僕は一応左足を使っています。
── 冨安さんは、遠藤さんの今季のプレーをどう見ましたか?
冨安 試合の最後に監督から必要とされて出てきて、しっかり締めている印象。それは簡単なことではないです。僕は試合に出たり、出なかったり、調子が落ちる時もあるなかで、航くんはつねに安定して高いレベルのパフォーマンスを出し続けている。そういうところに関して、リスペクトしかないですね。
── ふたりが理想とする選手はいますか?
冨安 これっていう人はいないですけど、アーセナルの2センターバックはやっぱりいい選手だと思います。個人的には(ウィリアム・)サリバよりもガブリエウ(・マガリャンイス)のほうですかね。ボールを持った際の時間のつくり方がうまいし、彼がいるかいないかでビルドアップが変わってしまう。
遠藤 当たり前ですけど守備はいいし、攻撃の賢さがある。アーセナルの選手たちは、どういうふうなプレッシャーの向け方をしたら、相手がどうプレーするかというのをわかっている。
── クローザーとして。
遠藤 クローザーは、交代のルールが3人から5人になったのが大きいと思います。今後、そこに時間とお金をかけるチームが出てきても、おかしくない。残り10分とか15分で失点が多いチームは、しっかりクローザー的役割ができる選手を補強しようとするかもしれないです。まあたぶん、「残り15分で絶対出すからおまえはクローザーでいてほしい。しかも勝っている時だけ」というのを理解して移籍する選手がなかなかいない。
── 遠藤さんみたいな選手がいたら、監督目線でうれしいものですかね?
冨安 うれしいでしょう。もちろんスタートからでもパフォーマンスを出すし、最後の仕事としてのパフォーマンスも出すって、ほしい選手だと思います。
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そしてイベントでは、リバプールのリーグ優勝決定の瞬間や遠藤のディフェンスシーンなど、10本ほどの試合の映像を映画館の大スクリーンで上映。遠藤が一つひとつのプレーについて当時を振り返りながら解説し、冨安も自身の経験も交えながら意見を述べていた。
最後に冨安は「今まで代表のチーム内でしゃべることはあっても表の場でサッカーについて細かく話すことはなかったけど、とても楽しかったです」とあいさつ。遠藤は、試合の映像にも出てきたブライトンの三笘薫に触れて、「薫もめちゃくちゃ考えている選手なので来年のイベントに来てくれるかな」とファンの期待を高めたが、三笘が出演OKしてくれるかについて、冨安が「いやあ、微妙じゃない?」と言って、会場に大きいな笑い声が上がっていた。