1億2500万ユーロ(約212億円)に最大2500万ユーロ(約42億円)のボーナスだとぉ?

 日本円にすると総額約254億円だ。リバプールはレバークーゼンの天才MFフロリアン・ヴィルツを獲得するためにクラブ史上、プレミアリーグ史上ともに最高額となる補強費を投入した。

 昨シーズン、プレミアリーグを制したマージーサイドの強豪は、タイトル防衛とチャンピオンズリーグ奪還の切り札に、惜しげもなく大金を支払った。健全経営が評価される彼らにしては、ちょっと危険なギャンブルといって差し支えない。

【プレミアリーグ】1億ユーロ選手はハズレの確率高し リバプー...の画像はこちら >>
 まだ22歳のヴィルツにとって、「1億2500万ユーロの男」は過度なプレッシャーが伴うキャッチフレーズだ。メディアやサポーターの視線は厳しく、一挙手一投足が朝から晩まで注目される。ブンデスリーガでは未経験の感覚だ。移籍金が巨額だけに、プレミアリーグに慣れるまでの時間の猶予さえ許されないかもしれない。

 近年のプレミアリーグを見ても、20代前半で「移籍金1億ユーロ超プレーヤー」となって大きな期待をかけられた選手たちが数多くいる。

◎エンソ・フェルナンデス
 <ベンフィカ→チェルシー/アルゼンチン代表MF/当時22歳>
 →1億2100万ユーロ(2023年)=約205億円
◎ジャック・グリーリッシュ
 <アストン・ヴィラ→マンチェスター・シティ/イングランド代表MF/当時25歳>
 →1億1750万ユーロ(2021年)=199億円
◎デクラン・ライス
 <ウェストハム→アーセナル/イングランド代表MF/当時24歳>
 →1億1660万ユーロ(2023年)=約197億円
◎モイセス・カイセド
 <ブライトン→チェルシー/エクアドル代表MF/当時21歳>
 →1億1600万ユーロ(2023年)=約196億円
◎ポール・ポグバ
 <ユベントス→マンチェスター・ユナイテッド/フランス代表MF/当時23歳>
 →1億500万ユーロ(2016年)=約178億円

【178億円もの大金をドブに捨てた】

 残念ながら、グリーリッシュは失敗に終わった。キープ力は世界でも超一流の部類に入るとはいえ、相手ボールになった際のリアクションがマンチェスター・Cを率いるジョゼップ・グアルディオラ監督の求めるレベルに達していなかった。クラブワールドカップのメンバーからも外れている。

 ただ、グリーリッシュは人柄がよく、チームの輪を乱すタイプではない。僚友フィル・フォーデンが「最高の人格者」と絶賛したように、若手にも厚く支持されている。

「あえて名前は伏せるが、フットボールに対して不真面目だ。

若手も感化されはじめている。取り巻きも得体の知れない者ばかりだ」

 一方、誠実な性格でサポーターの人気を集めたフアン・マタが「ロッカールームのムードを壊す男」として示唆したのは、フランス代表MFのポグバだ。

 法外なサラリーを要求して一度は去ったマンチェスター・Uに帰還したのは、2016年の夏。当時の監督は規律にうるさいジョゼ・モウリーニョである。ポグバを欲していた、とは考えられない。九分九厘、グレイザー・ファミリーの悪政だ。彼らのプランは常に知名度が優先される。

 移籍の経緯が好ましくないうえに、ポグバは昔から気分屋だ。好不調の波があまりにも激しく、5年後にフリートランスファーでユベントスに戻っていった。

 サー・アレックス・ファーガソンがクラブから手を引いたあと、マンチェスター・Uは10年以上も苦しみ、もがいている。ブルーノ・フェルナンデスを除き、移籍の成功例はない。ポグバを獲得するために支払った金額はおよそ178億円......大金をドブに捨てたのも同然だ。

 誰もが認める才能を台無しにしたフランス人MFとは対照的に、チェルシーのフェルナンデスとカイセドは及第点と言える。

 フェルナンデスはようやくプレミアリーグのリズムに馴染んできた。入団3年目を迎えた昨シーズンは6ゴール・7アシスト。リース・ジェイムズ不在の場合はゲームキャプテンを務めるなど、エンツォ・マレスカ監督の期待に応えている。

【エムバペは成功例と言える?】

 ひざと足首の故障に悩んだカイセドも、コンディションが整うと攻守に貢献した。中盤センターとして、右サイドバックとして必要不可欠であることを、ハイパフォーマンスで証明している。この男のボール奪取能力はチェルシーの肝であり、紛れもなくワールドクラスだ。

 そして、彼らを上回る大成功がライスである。かねてから高く評価されていた守備センス、状況判断に加え、アーセナル加入後は攻撃力にも磨きがかかった。チャンピオンズリーグのレアル・マドリード戦で魅せた2発の直接FKは、昨シーズンで最も印象的なゴールだった。天性のリーダーシップも含め、約197億円は安い買い物だ。

 他リーグを見ても、「1億ユーロ超」の価値があったかどうか、疑問符のつく選手は多い。

◎ネイマール
 <バルセロナ→パリ・サンジェルマン/ブラジル代表FW/当時25歳>
 2億2200万ユーロ(2017年)=約376億円
◎キリアン・エムバペ
 <モナコ→パリ・サンジェルマン/フランス代表FW/当時25歳>
 1億8000万ユーロ(2024年)=約305億円
◎フィリペ・コウチーニョ
 <リバプール→バルセロナ/ブラジル代表MF/当時25歳>
 1億3500万ユーロ(2018年)=約228億円
◎エデン・アザール
 <チェルシー→レアル・マドリード/ベルギー代表MF/当時28歳>
 1億2080万ユーロ(2019年)=約204億円

 エムバペは一見、成功例に映る。

しかし、2023-24シーズン終了後にフリートランスファー。パリ・サンジェルマンに1ユーロも落とさずにレアル・マドリードに移籍している。経済的には失敗だ。

 エムバペ以外の3選手も期待を裏切っている。

 ネイマールは自己管理の甘さによりコンディションを崩してばかりいた。リオネル・メッシの後継者になれず、エムバペには瞬(またた)く間に追い越された。過信せず、天賦の才能に磨きをかけていたら、そのキャリアは充実していたに違いない。

【チェルシー所属時とは別人だった】

 また、コウチーニョはバルセロナのメッシ依存によりサイドに置かれ、コンディショニングのミスも小さくないダメージだった。対戦相手に恐怖を抱かせるようなプレーは披露できず、一部のメディアは約228億円の移籍金を「究極の無駄遣い」と酷評した。

 そしてアザールは大腿部やひざなどの負傷よりも、自らを過大評価する悪癖も失敗の要因だった。チームプレーを優先するカルロ・アンチェロッティ監督が、特別扱いするはずがない。レアル・マドリードに所属した4年間は公式戦76試合・6ゴール。

チェルシー所属時とは別人だった。

 1億ユーロの高値がつく選手は才能の塊(かたまり)だ。ただ、新チームのゲームプランに噛み合わない、本人や家族が環境に馴染めない、性格が内向的、もしくは好戦的......などなど、獲得するまでに多方面のチェックが必要になる。

 ポグバ、アザール、コウチーニョ、ネイマールは十分な実績を持ちながら、額面を大きく下まわるパフォーマンスに終始した。

 プロの世界は弱肉強食。1億ユーロ超の移籍金が、成功を約束するわけではない。

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