世界の頂点に君臨する"卓球大国"中国が今、最も警戒する日本人選手のひとりが張本美和(木下グループ)だ。

 8月5日に更新されたITTF(国際卓球連盟)の世界ランキングでは、女子シングルスのトップ5を中国が独占するも、張本はそれを6位で追う。

8月7日から11日まで開催されるWTTチャンピオンズ横浜2025でも対決があるだろうが、6月に行なわれたその記者会見でも「いいパフォーマンスを見せたい」と意気込みを述べた。

【女子卓球】張本美和が追う中国ナンバー2の背中 ここまで全敗...の画像はこちら >>

 女子日本のエースといえば、パリ五輪で利き腕を故障しながらシングルス銅メダルを勝ち取った早田ひな(日本生命)だが、今や日本の女子は早田と張本の"ツインエース体制"と言っていいだろう。6月16日に17歳になった張本。彼女が2028年ロサンゼルス五輪を目指す上で"中国超え"は避けて通れない課題だが、そのバロメーターのひとつが、張本が「勝てる手応えがある」と語る中国ナンバー2の王曼昱(ワン・マンユ)の存在である。

 張本はまだ一度も王曼昱に勝てていないが、その距離感をどう捉えているのか。また、兄・智和との混合ダブルスについても語ってくれた。

【近づいてきた中国女子のナンバー2の背中】

「"華のセブンティーン"でしたっけ? 1年が過ぎるのは本当に早いなと思います」

 張本美和の時間は密度が濃い。

 昨夏のパリ五輪では女子団体で銀メダルを獲得。続く10月のアジア選手権では世界ランク1位の孫穎莎(スン・インシャ/中国)を破り、団体金メダルの立役者となった。中国が出場したアジア選手権で日本勢が金メダルを獲得したのは、実に50年ぶりという快挙だった。

 その張本の勢いは2025年になっても衰えず、国際ツアーWTTでシングルス、ダブルスともに優勝を重ね、さらに5月の世界選手権ドーハ大会では木原美悠(トップおとめピンポンズ名古屋)とのペアでダブルス銅メダルを手にした。

 10代にして数々の実績を積み重ねてきた脅威の高校生。ところが、世界選手権ドーハ大会は張本が密かにターゲットに据えていた王曼昱とのシングルス準々決勝でストレート負け。

厳しい現実を突きつけられた。

「引き出しの多さをすごく感じましたね。最後まで打開策を見つけられず、とにかく強かったというのが一番の印象です」

 ふたりのプレースタイルはよく似ている。身長166cmの張本に対し、王曼昱は176cm。10cmの差があるとはいえ、長い手足を生かした両ハンドのパワードライブが持ち味で、台から下がっても打ち合える男子並みのラリーが他の女子選手を圧倒する。

 とりわけ、お互いの最大の武器は球威と精度の高いバックハンド。張本は「小さい頃から王曼昱選手のバックハンドをお手本にしていた」と言う。

 そんな特別な存在に、少しずつ近づいてきた実感もある。

 今年4月のワールドカップでは女子シングルス1回戦で王曼昱と対戦。先に2ゲームを奪った張本はゲームオールデュース(ゲームカウント3-4の最終ゲーム10-12)で惜敗したものの、初勝利まであと一歩のところまで王曼昱を追い詰めた。

 実は昨年末、張本はパリ五輪団体で戦った中国の孫穎莎、陳夢(チェン・ムン)、王曼昱のなかで「勝てる手応えがあるとすれば王曼昱選手」と話していた。

 それだけに、世界選手権ドーハでの完敗は堪えた。

「ワールドカップで競った分、相手の準備や考え方がまるで違っていたと感じました。何かすごい戦術を取ってきたというよりも、サーブ・レシーブやサーブからの3球目でコースを突くシンプルなプレー。でも、打球スピードが速くなっていてボールの回転量も多く、自分はリスクを冒さないと点が取れない。最後まで対応しきれませんでした」

 張本の得点源であるバックハンドのストレート攻撃も、王曼昱の球威に押されて思うように決まらず、「技術も戦術もすべてにおいて足りなかった」と悔しそうに語った。

 ふたりの対戦成績は2023年アジア競技大会の初対戦から数えて王曼昱の6戦全勝。ただ、結果以上に競り合った試合もあり、その差は確実に縮まっていると感じる。

 中国の背中はいつだって追いつきそうになると遠ざかる。しかし、伸び代のある17歳の挑戦はまだ始まったばかりだ。

【兄とのダブルスでのある誤解】

 2028年ロサンゼルス五輪を見据えた取り組みとしては、6月のWTT欧州2連戦で兄・智和と約2年ぶりに混合ダブルスのペアを再結成した。2022年8月のWTTコンテンダー チュニスでは、初ペアでいきなり優勝。今回はWTTスターコンテンダー リュブリャナでベスト8、WTTコンテンダー ザグレブでベスト4とまずまずの結果だった。

 兄は妹とのペア再結成の経緯をこう語っている。

「パリ五輪がひと区切りで、自由にペアを組めるこのタイミングで一度(美和と)組んでみたいなと。いい結果が出れば継続する可能性もありますし、そうでなければ変わる可能性もある。混合ダブルスは吉村真晴(SCOグループ)/大藤沙月(ミキハウス)ペアも強いですし、早田ひな(日本生命)選手と戸上隼輔(井村屋グループ)選手もまたペアを組むみたいなので、ライバルたちと平等に競っていけたらなと思います」

 一方、美和は兄とのペアをどう感じているのか。2年前、初めてペアを組んだ時には、ポイントを決めた兄の声が大きすぎて驚く美和の映像が話題になった。

「あれは違うんです! 私がすぐ後ろにいるのに、兄が思いきりラケットを振ったので、『当たらなくてよかったー』ってホッとしたのと『ボール、入ったんだ!』という驚きでびっくりしたんです。メディアでは、兄の『チョレイ!』の声がうるさくてびっくりしたって報じられちゃったんですけど、大きな声を出してくれると自分も一緒に声を出せて気持ちが乗っていくので、逆にありがたいです」

 そう笑顔で話す美和は7月3日に開幕したWTT USスマッシュでは、世界選手権ドーハ大会までペアを組んでいた1歳上で左利きの松島輝空(木下グループ)との「そらみわ」ペアが復活。初優勝を飾った今年1月のWTTスターコンテンダー ドーハ以来、今季2度目のタイトルを狙ったが、ベスト8だった。しかし、WTTコンテンダー ブエノスアイレス(7月22~27日)から2週連続でシングルス、ダブルスともに優勝。WTTチャンピオンズ横浜2025で3週連続2冠に挑む。

【プロフィール】

張本美和(はりもと・みわ)

2008年6月16日生まれ、宮城県出身。両親ともに卓球選手で、父は男子ジュニア日本代表の元コーチ、母は世界卓球選手権の元代表選手。5歳上の兄は東京2020大会卓球男子団体銅メダリストである張本智和。

2歳から本格的に卓球を始め、10歳でU15日本代表に選出。翌11歳でU18日本代表、13歳でナショナルチームの候補選手になる。2021年12月に世界ユース卓球選手権で史上初の4冠を達成。2024年2月に開催された世界卓球選手権団体で銀メダル獲得。同年のパリ五輪では団体銀メダルを獲得した。世界ランキング7位(2025年7月15日時点)。

◆WTTチャンピオンズ横浜2025
期間:2025年8月7日~11日
場所:「横浜BUNTAI」神奈川県横浜市中区不老町2丁目7番1
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