第3回(全4回):2025-26シーズン プレミアリーグ展望
プレミアリーグの新シーズンが、現地時間8月15日にいよいよ開幕する。英国の高級紙『ガーディアン』で長年にわたって執筆し、同メディアのポッドキャスト『フットボール・ウィークリー』にも頻繁に出演するジョン・ブルーウィン記者が注目選手を挙げ、日本人選手の期待値を示す(全4編)。
フロリアン・ヴィルツ/リバプール
かつてドイツでもっとも注目された若手は、バイエルン・ミュンヘンに行きたがったものだが、現在は違う。2023-24シーズンのブンデスリーガで無敗優勝を遂げたレバークーゼンの若きスター選手、フロリアン・ヴィルツは国内の盟主ではなく、イングランド王者を新天地に選んだ。推定移籍金は総額1億1600万ポンド(約231億円)で、リバプール史上はもちろん、英国史上最高額となった。
「リバプールを選んだのは、このチームならすぐにフィットできると思えたからだ。ここの仲間とプレーするのは楽しくて仕方がない」と今夏のツアー中に現在22歳のドイツ代表は話した。実際、横浜F・マリノスとのプレシーズン初戦で先制点を挙げ、幸先良いスタートを切っている。アルネ・スロット監督は主にトップ下で起用するつもりのようだが、両ウイングからもスピードと創造性を駆使して敵陣を打開するだろう。
ヴィクトル・ギョケレス/アーセナル
スポルティングCPでの2シーズンで公式戦102試合に出場し、97得点を決め、守田英将らと共にリーガを連覇したゴールマシンだ。なんとしても今季のプレミアリーグで優勝したいアーセナルは、推定総額6400万ポンド(約127億円)を投じて現在27歳のスウェーデン代表FWを引き抜いた。
やや遅咲きのストライカー、ヴィクトル・ギョケレスはポルトガルに渡る前にチャンピオンシップのコベントリーでプレーし、2018年から2021年まではブライトン&ホーブ・アルビオンに所属していたが、プレミアリーグで出番は一度もなかった。つまり新シーズンがプレミアリーグでのデビューとなるわけだが、ここ3年ほどで急成長した彼なら、この舞台でも本領を発揮できそうだ。本人も「あの頃と比べて、自分は大きく改善された。今の実力を証明したい」と意気込んでいる。
エステバン/チェルシー
「僕と家族にとって、欧州のビッグクラブで自分がプレーすることが夢だったんだ」とチェルシーへの入団会見で語ったエステバンは、ブラジルでもっとも注目されていた超逸材だ。4月に18歳になったウイングは、この年齢にして前所属先のパルメイラスで公式戦83試合に出場、ブラジル代表でも5キャップを刻んでいる。
ロンドンの新天地にはすでに多くのアタッカーが彼と同じポジションにおり、出場機会を得られるかどうかは、適応次第となるか。とはいえ、潜在能力はそのなかでもトップクラスに違いない。推定移籍金総額5140万ポンド(約102億円)がその証拠だ。スピーディーかつ変幻自在のドリブルで、プレミアリーグの屈強な守備者たちに尻もちをつかせる日も遠くないだろう。注目したい。
マテウス・クーニャ/マンチェスター・ユナイテッド
イングランド随一の名門クラブは異端の英雄を好んできた。エリック・カントナやロイ・キーンを筆頭に、アレックス・ファーガソン後の低迷期にも、ポール・ポグバやズラタン・イブラヒモビッチらに再生を託した。今夏に推定移籍金6250万ポンド(約125億円)でウォルバーハンプトン・ワンダラーズから加わったマテウス・クーニャも、似た資質を備えている。
現在26歳のブラジル代表ストライカーは、巧みなドリブルで敵陣を崩し、パワフルかつ精緻なシュートで得点を量産し、昨季のウルブスの残留に大きく寄与した。ただし、過去の異端児たちと同様に激しやすく、昨シーズンはイプスウィッチ・タウンのセキュリティースタッフと揉め、さらにボーンマス戦でレッドカードも受けて、計6試合の出場停止処分を受けている。現在のユナイテッドはかつてのように真のトップクラスのストライカーを惹きつけられなくなってしまったが、逆にクーニャのようなポテンシャルの持ち主が爆発すれば面白い。
フィル・フォデン/マンチェスター・シティ
1年前、プレミアリーグの選手たちも、フットボールライター協会も、リーグ機構も、シーズン最優秀選手にフィル・フォデンを選んだ。2023-24シーズンは全公式戦で53試合に出場し、27得点をマーク。
その勢いに乗って臨んだはずのEURO2024で、落とし穴が待っていた。決勝までの7試合のすべてに先発しながら、得点もアシストも記録することなく、最後はスペインに1-2と惜敗。このスランプを次のシーズンも引きずり、ゴール数は半分以下に減った。プライベートの問題でメンタルに不安を抱えていたことを明かした25歳は、新シーズンに復活を誓う。ケビン・デ・ブライネが去った今、フォデンは真のリーダーとして期待されている。
エベレチ・エゼ/クリスタル・パレス
サウスロンドンのタフな地域で生まれ育ったナイジェリアの血を引くアタッカーは、クリスタル・パレスでの5シーズン目の昨季、自身とクラブの双方にとって初のメジャータイトルを手にした。マンチェスター・シティとのFAカップ決勝では、試合唯一のゴールを決めて英雄に。その1年と少し前に就任したオリバー・グラスナー監督の指導により、継続性を身につけ、頻繁に決定機に関与するようになった。
相手を食ったような勝負の挑み方は、ロンドン郊外のケージフットボール仕込みだ──恵まれなかった少年時代、金網に囲まれた小さなピッチしか居場所はなかったと明かす。新シーズンのコミュニティーシールドも制した今、かつてエゼに三行半を突きつけたアーセナルやトッテナムらが熱心に彼を勧誘している。9月1日までに所属先が変わっている可能性も捨て切れないが、パレスのサポーターはふてぶてしい背番号10の残留を祈っている。
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