【スター選手たちが函館で競演】
「悔しいけど、めちゃめちゃうれしかった」
8月12日(火)~17日(日)に開催された「第68回オールスター競輪」でGⅠ初タイトルを手にした寺崎浩平(福井・117期)の優勝について、昨年のKEIRINグランプリ覇者・古性優作(大阪・100期)は、そう感情を表現した。
決勝で2着となった古性の真意は、"優勝を目指して戦ったので個人としては悔しいが、同じ近畿勢の選手として、ここまで自分を含め、仲間たちを引っ張ってくれた寺崎が優勝したことに関してはうれしく思う"ということだ。
個人戦でありながらも、同地域などで連係してレースを行なう競輪。
GⅠ開催として位置づけられているオールスター競輪に出場できる選手は、実力上位のS級に所属し、ファン投票で得票数上位50名に入った選手、最上位のS級S班(9選手)、パリオリンピック自転車競技トラック種目の代表選手など、総勢135名。今の競輪界を代表するスター選手たちの争いとなった。
舞台となったのは、函館競輪場。ナイター競輪発祥の地ということもあり、6日間を通して午後3時15分から第1レースがスタートし、最終11レースの発走は夜8時30分。最終日の決勝時は、真夏の時期でありながらも、バンクには優しく頬を撫でるような涼やかな風が吹き抜けていた。
【寺崎に初Vのチャンス到来】
決勝に進出した9選手のなかで、寺崎、古性をはじめ、計4選手が近畿勢となった。そのひとり、脇本雄太(福井・94期)はKEIRINグランプリとすべてのGⅠタイトルを獲得する「グランプリスラム」という偉業を達成した現競輪界のトップオブトップで、今年もすでにGⅠを2度制している。もうひとりの南修二(大阪・88期)は43歳のベテランで、過去に何度もグレードレースで決勝に進出している実力者だ。
寺崎はこれまで脇本や古性らを引っ張る形で先頭を走ってきた。競輪は風を正面から受ける先頭選手の負荷が大きい。その役目を寺崎が買って出ており、過去に脇本や古性の勝利に貢献してきた。
今年2月のGⅠ「全日本選抜競輪」では脇本の前を走って優勝を見届け、6月のGⅠ「高松宮記念杯競輪」でも脇本、古性の前を走ってそのふたりのワンツーフィニッシュをサポートした。
準決勝直後に、そのふたりから「今回はハコを回れ」と告げられた。つまり脇本が先頭を走り、その後ろに寺崎が入るという意味だ。さらに近畿勢が4車連結することになり、強力なラインを形成。なかでも寺崎が最も優勝に近いと目されていた。
寺崎は「このチャンスをものにしたい。追走してゴール前で勝負をしたい」と意気込んで大一番に臨んだ。

【見事な連係で近畿勢が上位独占】
近畿勢にとって気がかりだったのが、太田海也(岡山・121期)と岩津裕介(岡山・87期)の岡山コンビと、吉田拓矢(茨城・107期)と佐藤礼文(茨城・115期)の関東勢の動き。とくに爆発的なスピードを持つ太田と、5月のGⅠ「日本選手権競輪」を制した吉田は要注意選手だった。そのため何としても先手を打つ必要があった。
まず号砲とともに古性が動く。ケガの影響で「右肩に力が入らず人形みたいにグラグラ」の状態ながら、「全力で取りにいった」と先頭に立つ。そこに他の近畿勢が追いつき、脇本、寺崎、古性、南の順で前団を占拠。
残り2周となったところで、先頭を走る脇本が一気にスピードアップ。その動きに「あれだけ脇本さんがふかした(ペースを上げた)ので、かなり脚力を使ってしまった」と古性。寺崎も「体感したことのないペースだった」と面喰ったが、「脇本さんから離されないように後輪だけに集中した」とピタリと追走。後ろから迫る太田、吉田らを古性、南がけん制することで、同じ並びのままラスト1周に入る。

結果的に近畿勢は一度も先頭を譲ることなく、2着に古性、3着に南と確定板に3選手の名前が表示された。見事な連係での勝利だった。

【競輪の深淵】
近畿勢を引っ張り9着となった脇本は「(古性が)前を取ってくれたのでやりやすかった。(太田)海也の動きがわからなかったので、ペースを落とすわけにはいかなかった」と振り返るとともに、「できる限りのことはやった」と安堵の表情を見せた。
ケガを抱えていた古性は、本来であれば欠場していたところ。しかしファン投票1位での選出に気持ちを奮い立たせ、その期待に応えるべく出場を決断。それゆえ、この好結果には仲間の存在を改めて感じた様子で、「本当に(近畿勢の)ラインのおかげ」と何度も口にした。
寺崎の優勝についても「一番タイトルを獲ってほしい選手。コツコツと頑張ってきた選手だし、優勝したのが寺崎なら、みんな文句はないと思う」と語った。最後に「(この優勝に)感じるものがあった。清々しい」と言葉を残し、寺崎の胴上げに向かった。

初戴冠となった寺崎は「素直にうれしい」と話すとともに、「しっかりと近畿の先頭でやってきたことが実を結んだ」と喜びをにじませた。そして今回、とくに優勝への道を整えてくれた脇本について「脇本さんは自力でタイトルを何度も獲っていますので、僕もそれに続きたいですし、脇本さんの前を走れるような脚力をつけたいです」と大先輩への尊敬と目標を語った。
競輪はスピードを競う競技だが、純粋にタイムを目指して順位を争う陸上のトラック競技や中長距離種目、競泳とは趣が違う。負けたレース直後に「悔しいけどうれしい」という一見矛盾するようなコメントは、なかなか聞かれないのではないだろうか。
競輪は長年同じ地域で切磋琢磨してきた仲間がいて、幾度となく競い合ってきた選手がいる。
今回の決勝はその独特の深みと面白みが色濃く反映されたレースだったのではないだろうか。