木村和久の「新・お気楽ゴルフ」
連載◆第53回

 日本は現在、空前の"インバウンド景気"に沸いています。

 そうしたなか、今流行っているのは目的別の旅行です。

たとえば、日本の食文化に触れて堪能するガストロツーリズム、冬のリゾート地でスキーやスノーボードを楽しむスノースポーツツーリズム、農業や工芸、お祭りなど日本ならではの文化を体験するエクスペリエンスツーリズムといったものがあります。

 そんな数ある目的別旅行のなかで、"ゴルフツーリズム"はどんな感じなのでしょうか?

 平成の時代、我々もよくゴルフをしに海外へ行ったものです。南の島のリゾートなどへ行ったら、朝からホテルに隣接しているコースでラウンドし、午後からはプールサイドでのんびり。あとは、食事を楽しみ、お酒を飲んで、また翌日はゴルフをして......と、現地の名所とかを観光することはさほどありませんでした。

 日本でも、沖縄や北海道は人気のゴルフリゾート地。自分も過去に20回以上は行っています。その際は、沖縄のビーチで遊んだり、北海道の名所を観光したり、といった経験はごくわずか。ひたすらゴルフに専念し、まさしくゴルフツーリズムを満喫していました。

 であれば、今なら多くの外国人がゴルフ目的で日本に来てもおかしくない気がするんですよね......。

 ですが、日本のゴルフ場はビジターの予約はできますが、ルール&マナーは日本仕様。したがって、外国人からしたら理想と現実のギャップがあり、多少の軋轢が生じます。

 つまり、日本のゴルフ場はインバウンド用のサービスを構築していないのです。

 そういった状況を踏まえ、今回は日本のゴルフツーリズムについて、過去を振り返るとともに、未来のことまで考えてみたいと思います。

(1)日本のインバウンドゴルフの歴史

 日本で最初の"インバウンドゴルフ"の火付け役になったのは、韓国でした。韓国では今から30年ほど前にゴルフブームに沸いて、特に女子プロの選手たちが米女子ツアー(LPGA)でも大活躍していました。

 その韓国からの日本へのゴルフ客のピークは、20年ぐらい前でしょうか。プレー代の安い地方のゴルフ場が人気となって、韓国から地方への直行便が続々と就航しました。

 福島でも韓国からの直行便が就航し、福島の4コースが韓国企業に買収されたことが当時ニュースになりました。要は、韓国系企業がコースを運営するなら、韓国のお客さんもより来やすくなる、ということです。

 韓国はもともと山や丘陵が多く、平らなゴルフ場を作るスペースがあまりありません。ですから、ゴルフ人口に対して、コースの数が圧倒的に足りない。それゆえ、日本までプレーしに来る人が増えたんですね。

 そもそもシミュレーションゴルフの開発も、日本より韓国のほうが早かったでしょ。それこそ、ゴルフ場が少なかったからです。

 そうして、韓国からのゴルフ客が増えて以降、中国や台湾の方々もこぞって日本にやって来るようになりました。多少の軋轢はあったものの、一時インバウンドゴルフが盛り上がりました。

 それらアジア系のゴルファーたちによく見受けられるのが、バンカーの砂をレーキでならさないこと。おそらく本人的にはやっているつもりなのでしょうが、几帳面な性格の日本人からすると、雑に見えてしまいます。

 そのあたりの問題を解消するためにも、インバウンドゴルファーが多いコースでは、ローカルルールを設けてはいかがでしょう。たとえば、バンカー内で他人の靴跡にボールが落ちた時はリプレースできるようにする。それで、問題は解決できますよ。

 そのほか、インバウンドゴルファーで気になったのは、中国系の方々とクラブバスで一緒になると、自分のバッグを座席の横に置いて席を譲りたがらないこと。これも、譲り合いの精神が強い日本では、顰蹙(ひんしゅく)ものです。混んでいる時はなおさらです。

 あと、面白かったのは、ラウンド後にゴルフ場の大浴場にパンツを履いて入ってきたことです。それを目にしたのは、千葉の某ゴルフ場に中国系の人々が団体で来場していた時でした。

一部の人は白いブリーフを脱がずに湯船に向かってきたので、そのまま湯船に浸かるのかと思いきや、さすがにそれはせず、シャワーを浴びていました。

 何でこういうことが起こるのかというと、中国の都会には裸で入る公衆浴場や温浴施設がほとんどないからです。日頃は、マンションや自宅でシャワーを浴びる生活を送っているそうです。

 実は、中国の都会は地価が高く、湯船のあるお風呂がある家庭というのは、かなりのお金持ちだとか。ですから、湯船に入ったり、他人に裸を見せる習慣がないのです。

 しかも「一人っ子政策」時代の子どもは、団体行動や共同生活が苦手。結果、こういったことが起きるんですね。

 今後、もしゴルフ場がインバウンドゴルフを積極的に推し進めていくなら、仕切りのあるシャワールームを増やすとか、そういう取り組みが必要になるかもしれませんね。

(2)欧米系のインバウンドゴルファーが少ない理由

 アジア系に比べて、欧米系のインバウンドゴルファーは、今も昔もほとんど見かけません。

 というのも、アメリカやカナダ、オーストラリアなどの人からすれば、日本のゴルフ場は都心などの宿泊先からかなり遠いところにあって、料金が高いからです。ジャケット着用といったマナーも面倒くさいんですな。

 そのうえ、いざプレーをするや、ルールがしっかりしすぎていたり、プレーファーストとか言われたり、いちいち煩わしい。

それで敬遠されて、人気がないんですね。

 以前、日本の米軍基地のなかにあるコース、座間や多摩のコースにお邪魔したことがあります。そこでは、仰々しいフロントなどなくて、スタート時間を教えてもらうのも売店でした。

 なんかこう、日本のゴルフ場とは解放感がちょっと違うんですよね。プレーしている人たちもせっかちじゃなくて、ホットドックを売りに来るカートが巡回していたりして、ここらでひと休み、みたいな感じですか。こういうゴルフ文化もありなのかな、と思いました。

(3)外国のゴルフ文化の受け入れを考える

 日本独自のゴルフ文化はすばらしいものだと思っていますが、国によってルールやマナー風習が違うのも確か。欧米からのインバウンドゴルファーを見込むことを考えるなら、お互いのゴルフ文化を学んで、欧米の文化も多少は受け入れていく方向に持っていけないものでしょうか。

 たとえば、アメリカでは朝イチのティーショットをマジで2回打ちます。俗に言う、マリガンです。

 日本のコースの場合、お客さんを詰め込んでいることが多いので、2回打たせるのは微妙かもしれません。でも、ミスショットしたら、暫定球として打たせてもいいかも。

あるいは、アメリカ人が含まれるパーティーだけは、朝イチのマリガンを認めるとかでもいいでしょう。

【木村和久連載】インバウンド景気に沸く日本 ゴルフツーリズム...の画像はこちら >>

 ほか、アメリカンスタイルとしては、さほどボールを探したがらないとか、細かいことを気にしません。そこは、お互いの異文化同士の交流として、認め合ってプレーするのもアリでしょう。

 日本のゴルフ人口は、団塊の世代が引退するので激減する、と言われてはや10年。しかし、そんなことはなかったです。

 コロナ禍があって、新しくゴルフをやる人が増えたのもありますし、昔よりも予約を取りやすくなって、プレー代も安くなり、ラウンド回数を増やしたゴルファーがたくさんいます。

 そのため、人気コースはものすごくお客さんが入っています。ただ、問題は20年ぐらい先のこと。日本の総人口が1億人を割った時、インバウンドゴルフに舵をきっていくのかどうか、考えなければなりません。

 そちらの方向に向かっていけば、将来は外国人ゲストが半分ぐらいのゴルフ場が現われるかも、ですね。ちょっと想像しにくいですが、そこは次の世代に任せるとしますか。

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