中井卓大がスペイン5部リーグ、レガネスBで新たな一歩を踏み出した。

 世界に冠たるレアル・マドリードの下部組織で9歳から育ち、着実にカテゴリーを上がってきた中井だが、セカンドチームに当たるカスティージャではほとんど出場機会を得られなかった。

そこで2023-24シーズンは3部マハダオンダに移籍するが鳴かず飛ばず。2024-25シーズンは同じ3部のアモレビエタに移籍するも低調で、後半戦は4部カンタブリア(2部ラシン・サンタンデールのBチーム)に新天地を求めたが、期待に応えられずに終わっている。

 結局、中井は11年間を過ごしたレアル・マドリードから"旅立つ"ことになった。いや、契約解除というべきだろう。かつてマドリードが認めた技術が絶賛された天才MFは、再挑戦の場に5部を選んだ。

「5部でやるくらいなら、J3やJFLでも日本に戻ってくるべきではないか」

 神童の凋落に対する失望感からか、そんな声も少なくない。だが......スペインで挑戦し続ける理由はある。

中井卓大がデビューした「スペイン5部」とは? その環境と一発...の画像はこちら >>
 まず、スペインと日本ではリーグの構造、厚みがまるで違う。

 スペインにはまず華やかな1部がある。J1とは、何から何まで比べ物にならない。レアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコ・マドリードは別格としても、誰もが目指す舞台だ。

 次に2部は、その檜舞台が手の届くところにある。

世界中から一獲千金を狙う猛者が集まる。3部も玉石混淆とはいえ、レベルは低くはない。1部リーグのセカンドチームは多くがこのカテゴリーにいるだけに、若い選手にとってはむしろ登竜門だ。

 そして3部以下に、スペインサッカーの強さの神髄がある。

 3部は2リーグに分けられるが、J3がふたつあると考えればわかりやすいだろうか。とにかく裾野が広く、大きなふるいにかけられるなかで1部への可能性が見えてくる。4部はさらに5つのリーグに分けられ、やはりトップを目指す。日本の4部相当のJFLとは規模が違う。そしてスペイン5部は各地域になんと18ものリーグがあるのだ(その下に、さらに各地域のリーグがある)。

【レガネスBからレガネスへの道】

 いわゆるプロとアマチュアの境は曖昧だろう。たとえば4部リーグは一般的に月給約20万円程度と言われるが、クラブ差、個人差が激しい。昇格を目指すようなチームの主力は、その5倍ほどをもらうこともあるし、トップチームが1部にいる場合、2部リーグの控え選手と同じ給料をもらう若い選手もいる。

当然、5部もクラブ別、個人別で差があり、月給3万円の選手も30万円の選手もいるはずだ。

 ひとつだけ言えるのは、「5部の選手が1部でプレーすることがある」という可能性だろう。逆説すれば、1部の選手が3部、4部に転落することもざらにあり、その競争環境こそ、スペインサッカーの源泉と言える。つまり、中井の月給が3万円であろうと、30万円であろうと、夢は見られるし、実質的な選手の行き来は多く、あとは実力次第の世界だ。

 しかも中井が入団したのは、昨シーズンまで1部にいたレガネスのセカンドチームであるレガネスBである。もし目立った活躍を見せたら、レガネスでのプレーもないことではない。昨シーズン後半も、彼はそれを目論んで4部に挑戦していたはずで、それが実現できなかったように、簡単なことではないが、チャンスは転がっているのだ。

 実際、レガネスにはレガネスBでのプレー経験のある選手が少なくない。

 たとえばギニア代表の攻撃的MFのセイドゥバ・シセもそのひとりだろう。10代で入った時はレガネスCで2シーズンに渡ってプレー。20歳からレガネスBでプレーし、21歳でトップデビューを飾っている。そして昨シーズンは1部の舞台に立った。

バルセロナやアトレティコ・マドリードも撃破したチームで主力としてプレーし、結果的に最終節で降格したものの、今シーズンは再び昇格を目指す。

 中井は21歳で、プロサッカー選手として岐路に立っている。夢をつかみ取ろうとする決断はひとつの道理と言える。

 レガネスはマドリード郊外のクラブである。キュウリがチームのマスコットで、ブタルケ(スタジアム)は観客の後押しが感じられる。柴崎岳が2020年から3シーズン、2部でプレーしていたように、日本人に対する極端な差別もない。野心的な選手にとっては、悪くない環境だろう。

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