── いったい何人のスカウトが集まるんだ?
京都府京都市北区。神山(こうやま)の裾野に建つ京都産業大学野球場に、異変が起きていた。
バックネット裏にしつらえられた小さなスタンドに、プロ球団のスカウトがひとり、またひとりとやってくる。彼らのお目当ては、京都産業大のオープン戦の対戦相手だった、花園大のエース・藤原聡大である。
【4イニング9奪三振の衝撃】
甲子園球場では全国高校野球選手権の3回戦が繰り広げられていた。その同時刻、深い緑に覆われた野球場に、最終的に7球団10人のスカウトが集結した。異様な空間のなか、藤原が見せたパフォーマンスは「衝撃」と言ってよかった。
4イニングを投げ、被安打0、奪三振9、与四球0、失点0。失策による出塁を1つ許したのみで、ほぼ完璧な内容だった。
スカウトのスピードガンには、「155キロ」という数字が表示された。それは藤原が今年の6月に関西オールスター5リーグ対抗戦で計測した、自己最速に並ぶ球速だ。
遮二無二、ストレートで圧倒するわけでもなく、リーグ戦に向けて変化球をテストする余裕も見せていた。
あるスカウトは、こうつぶやいて球場を後にした。
「もう、上位(指名)じゃないと獲れないですよ」
筆者は、事前に藤原の記事(すでに11球団が視察! 花園大出身初のプロ野球選手誕生へ高まる期待 藤原聡大はいかにしてドラフト候補となったのか)を読み、藤原が今春に体調不良から苦しいシーズンを送ったことを把握していた。なお、記事は関西地区を中心に精力的に取材している、沢井史さんが執筆したものである。
そんな藤原が秋季リーグ戦前のオープン戦に、これほどスカウト陣を引き寄せたことに驚かされた。過去に藤原の投球を2回見たことがあり、十分にドラフト指名を狙える選手ということはわかっていた。だが、この日に藤原が見せたパフォーマンスは、今までの次元をはるかに超えていた。
【投球スタイルは右の金丸夢斗】
「春が終わってから、2カ月くらい積み重ねてきたものが、徐々に表われてきました。どうしてもプロの世界で野球をやりたいと腹を決めたんです。ここで妥協してしまったら、プロでやっていけるわけがないので」
試合後、藤原は涼しげな表情でそう語っている。6月に155キロを出した時の感覚と比べても、「絶対に今のほうがいい」と断言する。
藤原の投球スタイルは、「右の金丸夢斗(中日)」と言えるかもしれない。身長177センチ、体重75キロと、野球選手としては華奢な体格。力感がなく、バランスのいい投球フォーム。重力に逆らうかのように、捕手のミットを突き上げる好球質。とくにリリースの瞬間に全身のエネルギーを集約する能力は、金丸と共通している。
関西大時代の金丸は、「手のひらの中心から指先が始まっているイメージ」と語るなど、その投球感覚も独特だった。
「投げる時は、お腹のフロントが利くことを意識しています。腸腰筋(ちょうようきん)、膝の裏の神経をしっかりと感じながら、腹筋をズラした状態で腕を振るイメージです」
そう語った後、藤原は「言葉にするのって難しいですね」と苦笑した。こちらは藤原が何を言っているのか、半分も理解できなかった。
とはいえ、藤原が自分の身体と向き合い、コツコツと取り組んできたことは十分に伝わってきた。藤原は言う。
「小さなことを積み重ねる力は、一番自信があります」
藤原がこだわってきたのは、腸腰筋、小殿筋といった深層部の筋肉の使い方である。目に見えない、意識を向けにくい部分にフォーカスしてきた。
【50メートル6秒1の身体能力】
藤原の登板前に、こんなシーンが見られた。グラウンド整備中、藤原は三塁側ブルペンから左翼の人工芝に向かって、猛然と全力疾走をしたのだ。一歩目からトップスピードに乗るようなダッシュに、目を奪われた。
「50メートルくらいダッシュすると、お腹が乗った状態がつくれるんです。『お腹に力を入れる』という感覚でもなくて、勝手に入る感じ。

ちなみに、藤原の50メートル走のタイムは6秒1。ベテラン指揮官の奥本保昭監督は「もともと水口高校ではショートをやっていたので、身体能力が高く、バネがある」と称賛する。藤原は「高校時代にほかにエースがいたら、今もショートを続けていたと思います」と語るほど、遊撃への愛着も強かった。
なぜ、遊撃が好きだったのか。その理由もまた、独特だった。
「自分が一番好きなのは、配球を読んで『ここにくるやろう』と守備位置を変えて、その正面に打球が来た時ですね。あの瞬間がめっちゃ気持ちよくて、好きでした」
野球人として、人間として、藤原を象徴する思考なのかもしれない。常に先回りして考え、準備し、答え合わせをする。その積み重ねの末に、藤原はプロスカウトを惹きつけるだけの投手に成長した。
【往復3時間の通学で野球に集中】
これまで、花園大からNPBに進んだ選手はいない。藤原は滋賀県甲賀市にある自宅から、片道1時間半かけて電車通学している。
「通学に往復3時間かかる分、簡単に遊びには行けないですし、野球に集中できています。食事など家族に甘えさせてもらっていますし、自分の場合は寮生活より通いでよかったと感じます」
体調を崩した今春は、一時は体重が67キロまで落ち込んだ。今夏にかけてトレーニングを積むなかで、現在は73キロまで戻ってきた。藤原は「リーグ戦開幕までに75キロまで増やしたい」と意気込む。
体重が増えにくい体質で、フィジカル面は今後の課題になるだろう。その一方で、技術や身体操作に人一倍こだわってきたからこそ、今の藤原がある。
「体が大きくないからこそ、自分のなかで『体を使いこなす』ために体と向き合って、理解してきました。自分の感覚を研ぎ澄ますことができているから、今の球速が出ているのだと思います」
この日と同等のパフォーマンスを秋のリーグ戦でもできれば、ドラフト上位指名はおろか、1位指名すら視野に入ってくるだろう。現段階で大学日本代表メンバーと遜色ないボールを投げ込んでいるのだ。
最後に、藤原は自身がプレーする京滋大学リーグへの思いを吐露した。
「京滋リーグって、周りから弱いと思われているでしょうし、お客さんも少ないリーグなんです。
この秋、野球ファンは本当の藤原聡大の姿を知るはず。そんな予感がしてならない。