タイで行なわれている2025バレーボール女子世界選手権(世界バレー)で、女子日本代表が快進撃を続けている。
1次リーグのカメルーン戦は出足こそ鈍かったが、しり上がりに調子を上げ、結局はセットカウント3-0で勝利。
8月29日には、決勝トーナメント1回戦で日本は地元タイと戦い、ストレートで下している。守りの堅い相手との果てしないラリーを制し、ベスト8が決定。準々決勝では、セルビアを下したオランダと戦うことになった。
好調なチームの先頭に立つのが、キャプテンでエースでもある石川真佑(25歳、ノヴァーラ)である。今シーズンは世界最高峰のイタリア・セリエAで4位、欧州カップ戦で優勝という結果を残し、著しい進化を遂げつつある。世界バレーでも、大一番のセルビア戦は最多29得点を記録する一方、レセプション(サーブレシーブ)もダントツで最多の12回を成功させるなど、攻守ともに流れを変えるプレーは卓抜だ。
石川が、世界で輝きを放つ―――。
8月13日、都内。バレー女子代表は、世界バレーに向けた合宿を行なっていた。言うまでもないが、石川のところには大勢の記者が集まっていた。自分より目線の高いところにいる記者に対し、彼女は礼儀正しく、何度か視線を送りながら、質問に答えていた。18歳の秋本美空が天真爛漫にマイペースで話しているのと比べると、彼女は自らを強く律して話しているように見えた。
石川自身、東京五輪、パリ五輪に出場しているが、キャプテン、エースには古賀紗理那が君臨していた。古賀がパリオリンピック後に引退し、石川は新たにキャプテンになって、エースの座も継承したわけだ。
そこで、聞いてみたいことがあった。
【トスが上がったら叩き込む】
――キャプテンになって、見える景色は変化したのか?
彼女はほんの一瞬、考えてから淀みなく答えた。
「キャプテンとしてやらせてもらうようになったので、チームに対してどう接していくのか、はいつも考えていますね。紗理那さんも、"チームを引っ張っていく"ということをやってくれていたので、学ぶべきものはたくさんありました。ただ、"紗理那さんみたいに"というよりも、自分らしくチームを引っ張っていけたら、と思います。誰かと比べるよりも、自分のなかでしっかり整理をして、キャプテン像というか、キャプテンのあり方を考えながら、これからもやっていければなって思っています」
ネーションズリーグでは4位と健闘したが、そのチームで彼女はキャプテンとして異彩を放っていた。
大会前のインタビューで、日本女子バレー史上最高のスパイカーのひとりである木村沙織は、石川についてこう評していた。
「石川選手は、イタリアでのプレー経験(昨季はノヴァーラで欧州カップ戦に優勝)も自信になっていると思います。そしてオリンピックを2度経験して、自分がどういう選手にならないといけないのかがわかっているはず。新代表チームのキャプテンを託されたこともひとつの転機になっているのでしょうね。彼女は下北沢成徳高時代にもキャプテンをやっているし、上手に言葉で伝えるようなタイプじゃないかもしれないけど、プレーで引っ張っていると思います。何より明るい笑顔がみんなを引き寄せているし、アクバシュ監督のキャラクターともマッチして、"女子バレーを応援したい"というムードをつくり出しています」
一方、コートに立つ石川は、"託される"存在である。どんなボールであろうとも、トスが上がったら叩き込む。エースの気概がはっきりと見える。
とりわけ、石川はハイセット(セッターの定位置から大きく離れた場所から、高く、時間に余裕を持たせて上げる高いトス)のボールを打ちきれる強さを持っている。少々パスが崩れても、それをねじ込める。
下北沢成徳時代からハイセットを鍛えられた賜物だろう。イタリアで、世界の高さやパワーと戦いを重ねた経験で、アップデートさせた。コースを狙い、フェイントをかけ、ブロックアウト、あるいはブロックタッチへ持ち込む。多彩な攻撃で得点を決められる。
今大会、スパイクを決めて喜び合う様子は、無垢な少女のように映る。心底、バレーを楽しんでいるのだろう。
「プレーをしていて、楽しさはひとつ大事なことだと思っています。"自分が楽しくない、うまくいかないときは成長しない"って思っているので。勝負ですが、バレーを楽しみながらやっていきたいと思います」
石川は言うが、バレーを楽しむ彼女は無敵だ。
9月3日、日本は準々決勝オランダ戦に挑む。