高木豊インタビュー 後編
(前編:隙がない阪神、高木豊がCSに向けての課題を分析 短期決戦で戦いたくないチームは?>>)
8月4日にセ・リーグの理事会が開かれ、2027年シーズンからセ・リーグで指名打者(DH)制が導入されることが発表された。さらに日本野球機構(NPB)は、最短で来シーズンからの「リプレーセンター(仮称)」(※)の導入を目標としていることを明かしている。
(※)球場ではなく、別の場所にリプレーセンターを設置。センターにいるサポートスタッフらが映像をチェックし、同じくセンターにいる審判が最終ジャッジを下す。全試合を1カ所で検証する。
そのふたつの変化について、かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏に見解を聞いた。
【DH制の導入に思うこと】
――まず、セ・リーグのDH制導入についていかがですか?
高木豊(以下:高木) 反対でした。ピッチャーが打席に立つからこそ、打線の巡りによる交代時期などいろいろな駆け引きがあり、ドラマが生まれきたわけですから。あと、DH制になると代打の起用が減りますよね。そう考えると、レギュラーはひとり増えても、起用される選手の数はちょっと少なくなるような気がします。
―― 一方でピッチャーはピッチングに専念でき、練習時間もピッチングに充てられます。いろいろな面で野球が少しずつ変わっていきそうですね。
高木 ただ、駆け引きもなくなるわけですから、野球は雑になりますよ。そうじゃなくても、ピッチャーの球速が上がってきてから、エンドランなどの戦術が少なくなったといった問題も出てきていますし、監督の仕事はますます少なくなるでしょう。
――駆け引きがセ・リーグの野球の醍醐味だった?
高木 それが特長だったのですが、消されてしまった。また、「WBCやプレミア12などの国際大会がファンの関心を集めているから、そこも考慮した」みたいな話もありますが、国際試合がどれだけ大切なものなのか、ということです。
僕としては、「なぜ国際基準に合わせなければいけないのか」と思います。それなら、先にボールを国際基準にするべきですよ。そもそも、DH制を導入しなくても、日本は世界一になっているわけじゃないですか。それで「世界基準にしなきゃいけない」とか、なぜ日本が一歩遅れてるみたいな感覚になるんだっていうことです。
それと、パ・リーグがDH制を採用しているから強い、とかも言われますよね。それならセ・リーグ勢が奮起すればいいだけで、別に強くていいじゃないかと。パ・リーグにはDH制があり、セ・リーグには駆け引きを楽しめる野球がある。同じ国でふたつ楽しみがあるのがよかったんですけどね。
――アマチュア野球でDH制の導入が加速していたことも、今回の決断に至った要因のひとつだったようです。
高木 アマチュアはいいと思うんです。レギュラーがひとり増えることもそうですし、ピッチャーの交代もそれほどないじゃないですか。「あの子は守備はうまくないけど、打つほうはすごい」という選手もいることによって、たくさんのお客さんが観るわけですし。
――懸念もあるなかで、セ・リーグの野球にもたらすプラスの効果はどう考えられるでしょうか。
高木 「大谷翔平ルール」(※)も同時に行なわれるとのことなので、二刀流の選手が増えていく楽しみや話題性は生まれるでしょうね。
(※)ひとりの選手が、先発投手とDHを兼任することができるルール。投手としてオーダーに入った場合、降板後は守備につかなければ打席に立てなかったが、同ルールでは守備につかなくても指名打者として出続けることが可能になった。
今まで二刀流を目指す選手は、大谷をはじめ日本ハムの矢澤宏太や柴田獅子らパ・リーグ限定でしたけど、そういった選手がセ・リーグでも出てくる夢もありますよね。ドラフトで指名する選手の質も変わっていくでしょう。
【「リプレーセンター」は条件付きで賛成】
――次に、来シーズンから導入される「リプレーセンター」についてはどう思われますか?
高木 賛成です。今年、川越誠司(中日)の幻のホームランがあったじゃないですか(5月27日、神宮球場でのヤクルト対中日戦。川越の放ったライトポール際への打球に対し、一塁塁審がファウルの判定)。
ただ、導入するのであれば、正確なジャッジができるように徹底してほしいです。
――正確なジャッジが下せるようにするために必要なことは?
高木 カメラの質を上げてほしいですし、球場によってカメラの台数や位置などに差が出ないようにしなければいけません。あと、透明性を確保するという意味では、判断材料となるものは全部表に出してほしいです。検証している間の、センターにいる審判やサポートスタッフの会話を場内アナウンスで流してもいいと思います。ともあれ、外部にセンターを設けて冷静な判断を下すというのは、すごくいいことだと思いますよ。
【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)
1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。