【構築中のチームのエース】
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9月12日にフィリピンで開幕するバレーボール世界選手権(以下、世界バレー)に向け、男子バレー日本代表(世界ランキング5位)は、9月2、3日にブルガリア代表(同15位)との壮行試合を行なった。
世界バレーの1次リーグ同組のカナダ(同11位)、トルコ(同16位)も想定したゲームだろう。1試合目はセットカウント4-0とストレートでの完勝だった(本来は3セット先取で勝利だが、強化試合のため特別に1セット多く戦った)。
「We are building team」
チームを率いるロラン・ティリ監督は、「我々はチームを構築している」という言葉で、現状を端的に表している。8月までネーションズリーグを戦い、惜しくもベスト8で敗退したが、すべては2028年ロサンゼルス五輪までのプロセスだろう。チームビルディングの真っ最中で多くの選手を使い、コンビネーションを確認し、チームが最大値を出す準備段階だ。
そして、世界バレーはロスへ向かう途上の大事な試金石になる。
「今日の試合は、ネーションズリーグが終わってから久しぶり(約1カ月)だったので、難しくなる予想もしていましたが、勝ち切れてよかったです。合宿でやってきたプレーを見せられるようになってきたし、お互いがもっとよくなるための課題も出ました」
9月2日の試合後、宮浦健人は朴訥な口調でそう語った。大風呂敷は広げないが、堂々とした空気を纏(まと)う。古きよき剣豪のような佇まいだ。
新時代に舵を切った日本男子バレーで、宮浦から目が離せない――。
宮浦は、熊本出身の左利きオポジットである。獲物を狙う猛獣のように高く跳び、全身をしならせて、左腕を振ってボールを叩きつける。
【西田有志に対する思い】
本人は無駄口を叩かないし、自分を律したところがある。むしろ、寡黙なほうだろう。それゆえ、スパイクを決めたあと、咆哮(ほうこう)を上げる姿が剛胆さを映し出す。
昨年の代表合宿だった。チームのジムトレーニングを密着取材をした時、リラックスした様子で冗談を交わしながら鍛える選手も少なくないなか、宮浦は黙々と取り組んでいた。その孤高さは、近寄りがたいほどだった。
「自分にとって、ウエイトトレーニングはとても大事。コンディション維持だけでなく、パフォーマンスを上げていくためにも欠かせないから、できるだけ自分のリズムで出し切る、限界を超える意識でやっています。だから周りに対する余裕がないし、必死になっちゃうんですよ」
宮浦はそう言って、純然として笑った。その様子には"てらい"がなく、人懐こい。それも、周囲から好かれる要素だろう。
新たに発足したティリ監督の体制では、石川祐希や髙橋藍などが合流する前のネーションズリーグで、エースとしてコートに立っている。ベストスコアラーランキングは5位で、チームの決勝ラウンド進出に貢献した。ロサンゼルス五輪に向け、前回のパリ五輪では西田有志をバックアップするオポジットだっただけに、期するところはあるはずだ。
昨年のインタビューで、あえて質問したことがあった。
――パリ五輪では、同じポジションの西田選手が絶好調でしたね。
宮浦は彼らしく、実直に答えた。
「同じポジションは比較されますし、競争していかないと、とは思っています。でも、代表は試合が始まったら、チームが勝つか負けるかしかない。僕はどういう立場でも、勝つためだけに最善を尽くします。
同じポジションで出られる枠はひとつですが、パリ五輪は西田選手が本当によかったし、僕は力不足を感じました。西田選手は自分よりも身長が低くて、世界のオポジットのなかではかなり低いほうですが、(そんな西田の活躍する姿は)刺激になるし、学べることがたくさんあります。ただ、競争もしていかないといけないですね。
今は世界のトップ選手がSVリーグに集まり、特にオポジットというポジションは外国人が占めている。そのなかでチームの優勝を目指し、個人としてもポジションで一番になれたらと思っています。もっともっと強くなりたいです」
彼は最強の自分と向き合い続ける。己に厳しいからこそ、自らを鍛え上げられる。彼は言葉よりも、人生そのものが詩文になるタイプだ。
ブルガリアとの1試合目は、サービスエースを5本を決めている。レシーブを潰すような威力があった。唸りを上げたボールが、相手の手元で急激に変化するだけに制御できない。そのサーブには、練り上げた太刀筋のようなものを感じる。
「今日は結果的にエースを数本取ることができました。でも、まだまだスピードも足りていないし、体が乗り切れていない、球に勢いがないというか。もっとサーブのトスに集中して、腕を振っていきたいです」
彼はブルガリア戦を振り返ったが、そうして"最強の宮浦"を作り上げていくのだろう。
「自分は"攻める"っていう気持ちで、攻めます」
その愚直な信条が、宮浦をたどり着くべき場所に導くはずだ。
9月6、7日に、日本はパリオリンピック準々決勝で敗れたイタリアとの強化試合を行なったあと、世界バレーに向かう。