現在、サッカー欧州組の主流はクラブユース出身者となっている。久保建英(レアル・ソシエダ)、三笘薫(ブライトン)、堂安律(フランクフルト)、南野拓実(モナコ)、遠藤航(リバプール)、田中碧(リーズ)、藤田譲瑠チマ(ザンクトパウリ)、菅原由勢(ブレーメン)、町田浩樹(ホッフェンハイム)、瀬古歩夢(ル・アーヴル)、高井幸大(トッテナム)、伊藤洋輝(バイエルン)、板倉滉(アヤックス)、鈴木彩艶(パルマ)......と、枚挙にいとまがない。

必然的に、日本代表の主力もクラブユース出身者が大半である。森保ジャパンはこれで先発を組めるほどだ。

 一方、未だに"部活"が強いポジションがひとつだけある。それがFW、ストライカーで、高体連出身者が大勢を占める。

 今回、森保一監督が発表したアメリカ遠征の代表でも、上田綺世(フェイエノールト)を筆頭に、町野修斗(ボルシアMG)、小川航基(NEC)、前田大然(セルティック)は"部活出身FW"で、クラブユース出身者は細谷真大(柏レイソル)のみだった。控えの人材も古橋亨梧(バーミンガム)、浅野拓磨(マジョルカ)、大橋祐紀(ブラックバーン)、ジャーメイン良(サンフレッチェ広島)など高体連出身者が占める。過去20年の歴代日本代表FWを見ても、高原直泰、柳沢敦、大久保嘉人岡崎慎司大迫勇也ヴィッセル神戸)は部活育ちだし、次代を担う若手も福田師王(カールスルーエ)など、部活出身者が少なくない。

 この興味深い現象により、ひとつの仮説が浮上する。

「点取り屋、ゴールゲッター、ストライカーとも言われるFWは、クラブユースで洗練された指導を受けることが必ずしも有効ではない?」

 なぜ、部活FWが大成するのか―――。

 

サッカー日本代表の主流はクラブユース育ち でもストライカーに...の画像はこちら >>
FWは、ゴール前での仕事を託されている。相手が死に物狂いで守るゾーンで、ボールをゴールに叩き込む仕事は骨が折れるもので、一種の狂気さえ求められる。理不尽、不条理をぶっ飛ばし、結果を残せるふてぶてしさと言うのか。
それを技術的なものが助けることはあるが、最後にものを言うのは理屈を超えた"決めきる力"だ。

【全員がうまいと欠落するものがある?】

 その力が育まれるのは、"自分が決める"とならざるを得ないチームだろう。お世辞にもうまい選手が集まらず、"お山の大将"になると言うのか。そうしたFWは往々にして体力面で優れ、屈強でスピードもあり、"頼れるのは自分しかない"と腹を括った試合を重ねて、ストライカーの矜持を身につける。技術や戦術はあとから追いついてくる格好だ。

 興味深いのは、世界的な下部組織を誇るバルセロナが、ストライカーの輩出だけは苦しんでいる点だろう。

 バルサはテクニック重視の戦術を浸透させ、MFを中心に世界的な選手を次々に生み出してきた。プレーメイカーでは、ジョゼップ・グアルディオラ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケッツなどの系譜は圧倒的。現在もフェルミン・ロペス、マルク・カサドなどを輩出している。センターバックも、カルレス・プジョル、ジェラール・ピケ、パウ・クバルシなど脈々と精神が受け継がれる。また、左サイドバックも、アレハンドロ・グリマウド、マルク・ククレジャのようにビッグクラブでプレーする逸材も出す一方、アレハンドロ・バルデ、ジョフレ・トレントなどテクニシャンを続々と出している。とどめとしてリオネル・メッシを筆頭にしたサイドアタッカーは彼らの強みで、ラミン・ヤマルは今や世界最高のアタッカーだ。

 ところが、ストライカーの人材は乏しい。

ボージャン・クルキッチやアンス・ファティのように有望な若手は出ているが、伸び悩んで鳴かず飛ばずに。目立った活躍はできていない。

「うまいが怖さがない」

 そう本質を突かれて、脱落を余儀なくされる。

 そうなる理由を考えると、全員がうまいチームでは、お互いにが技術を軸に高め合うわけだが、そこでストライカーに必要とされる"欲"がそぎ落とされるのかもしれない。その欲はエゴイズム、ナルシズムとも言い換えられ、一般的には「悪」と捉われがちである。しかし、その危うい独りよがりこそが萎えない不屈さに変化し、勝利をもたらすのではないか。

【ゴールゲッターの素養とは】

 かつて、インタビューで上田が明かしていた話がある。

「小学校のころ、クリスティアーノ・ロナウドのドキュメントをテレビで見たことがあって。ロナウドに『クリスティアーノ・ロナウドをどう思うか』という質問があるんです。それに彼が『大好きだよ』と答えて。普通の小学生だと『変なの』って恥ずかしがるかもしれない。でも、僕は素直に『格好いいな』って共感しました。

自分が好きだからこそ、もっと高めたいって思えるんだよなって」

 上田は、自分自身を革新できる異能を持っていた。だからこそ、鹿島アントラーズユースに昇格できなくても、自らをあきらめていない。むしろ高校の部活で自分と対峙し、反骨を育み、思考を重ねている。その行動規範こそ、ゴールゲッターの素養だろう。

 部活FWは、クラブユースより指導や環境が整っていないチームで、自ら考えて判断する。その過程で、思考展開をインストールできるのかもしれない。それが強敵には通用しないこともしばしばだが、戦いのなかで適応してシステムをアップデートすることができる。周りの選手との連係を選択肢にしながらも、決して依存はせず、したたかに乗り越えられるのだ。

 クラブユース出身の現役ストライカーでは、鹿島アントラーズの鈴木優磨が最高傑作かもしれない。荒々しくギラギラしながら、技術的にはエレガントで、ポストプレーなどは美しい。キックも得意で、リズムがあり、景色も見えている。しばしば不必要な軋轢を生むし、厄介なところもあるが、仲間想いで勝利への執着は正しく、実にストライカー然とした男だ。

 日本が世界有数のサッカー大国になるには、このあたりにひとつヒントがあるかもしれない。

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