【壮行試合でのチームの出来を冷静に分析】
石川祐希(29歳/ペルージャ)は、厳しい目を持っている。自分を、チームを甘やかさない。
「自分があと1点を取れなかった」
パリ五輪の準々決勝で敗退し、彼が取材エリアで自責の念に身を焦がしていた姿は忘れられない。
もっとも、そうした勝負の積み重ねが糧になっているのだろう。世界最高峰セリエAでも長くプレーし、昨シーズンの欧州チャンピオンズリーグはチーム最多得点で優勝に導いた。彼に匹敵するバレーボール選手は、世界を見渡しても数えるほどしかいない。
「自分たちはまだ強くない」
バレーボール世界選手権(世界バレー)に向けた、世界ランキング2位のイタリアとの壮行試合に連敗したあと、男子バレーボール日本代表のキャプテンであり、エースでもある石川がそう洩らしたのには意味があるのだろう。
今年8月、都内。強化合宿では、石川が自らを鼓舞するようなひと幕があった。渾身で打ったサーブがネットにかかりながら、ぽとりと敵コートに落ちたときだ。彼は「しゃー」と雄叫びを上げ、こぶしを握り、両腕の力こぶを作った。試合ではない、練習の一環の何気ない1点だったが、彼は歓喜した。
それは自分のなかで納得のプレーだったのだろう。その感覚の積み重ねこそ、力に変換される。
9月2日、ブルガリアとの壮行試合を終えたあとの会見でも、石川は落ち着き払っていた。
「(ネーションズリーグの準々決勝敗退から約1カ月後の)久しぶりの試合でしたが、悪くなかったと思います。ネーションズリーグ後に、(鹿児島県の)薩摩川内での合宿からやってきたブロックディフェンスの成果も出ていました。サーブも効果的だったと思います。まだまだミスも多くありましたが、継続して戦いたいと思います」
口調は無骨だが、よどみなかった。
【ライバルのセッターからも「世界バレーでも活躍するだろう」】
「サーブのフィーリングは、60、70パーセントくらいかなと思っています。まだベストではないですね。でも、試合のなかでフィーリングも高めていきたいです」
9月6日、イタリアとの壮行試合第1戦はファイナルセットの末に敗れた。イタリアはパリ五輪の準々決勝で逆転負けした相手。今回も当時と同じく、強烈なサーブがブロック戦術を旋回させていた。ギリギリを狙ったサーブで、1セット目は7本もサーブミスが出たが、それが2セット目以降は決まるようになり、ブロックの強さも前面に出たのだが......。
「パリ五輪以来の再戦で、そのチームにまた負けたというのは全員が感じています。
石川は"テストマッチ"と割り切ったが、こうもつけ加えた。
「イタリアの高いブロックは、常に日本が苦手としているところで、みんなが意識しすぎてしまいましたね。そこは僕自身よりも、チームの戦いを見て感じました。自分のパフォーマンスは悪くなかったと思いますが、もっと上げられるところはありますし、スマートにミスなくプレーできるようにしたいです」
石川はその試合、4、5セットはコートに立っていないにもかかわらず、チーム最多の16得点を記録。ブロックの間をしたたかに打ち抜き、ブロックアウトを狙い、ブロックタッチも取って見せた。パイプを使ったバックアタックも強烈で、引き出しの多さは出色だった。
レセプションもやはり最多の25回で、サーブにも対応。自身のサーブは3本がミスになったが、攻める姿勢を貫いていた。
「今日も(石川)祐希はすばらしかった。世界バレーでも活躍するだろう」
イタリアのセッターで、ペルージャのチームメイトでもあるシモーネ・ジャネッリにそう言わしめた。
【世界バレーで目標の表彰台へ】
石川はじわじわと調子を上げている。
しかし、彼は己を知っている。徐々に出場時間を増やし、自分のテンポで調子を上げつつある。すべてを背負う、すべてを託される、という瞬間は否応なく訪れる。
9月7日のイタリアとの2戦目は、セットカウント1-3で敗れている。4セット目の32-34という激闘はスペクタクルだったが、一時は19-15とリードしながら最後は勝利を逃した。
「こういう試合を取り切らないと、目標とする表彰台は難しい」
試合後、20得点を記録した石川は再びチームを叱咤するように言った。欧州王者になった男の言葉は重く、厳しい。ただ、それはいつだって何かを勝ち取るための戒めだ。
9月12日、世界バレーはフィリピンのマニラで開幕する。13日、日本は世界ランキング15位のトルコと相まみえる。
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