欧州サッカー主要リーグの移籍市場が、9月1日に閉じられた。最終日に超大型契約がまとまったり、名門クラブが巨額の補強費を投じたりと、今夏も欧州のオフシーズンは熱かった。

イングランドのプレミアリーグ、スペインのラ・リーガ、ドイツのブンデスリーガの今夏の移籍市場の動きと傾向について、世界最大の移籍情報サイト『トランスファーマルクト』で欧州主要市場を長年観察するスタッフのマリウス・ゾイケ氏に語ってもらった。

【デッドラインデーに大型契約が成立】

 9月1日、欧州サッカー主要リーグの夏の移籍市場が終わった。「デッドラインデー」と呼ばれるこの日には毎年、驚きの"駆け込み移籍"が起きたり、決まったはずの移籍が書類の不備などによって成立しなかったりと、何が起こるかわからない。

【欧州サッカー】史上最高の総額1兆4000億円超! イサクを...の画像はこちら >>

 今回のデッドラインデーには、日本語版を含むトランスファーマルクトの27のドメインに、合計で1260万を超えるアクセスがあった。6月に創設25周年を迎えたトランスファーマルクトにとって史上最高の数値であり、欧州主要リーグの移籍への注目の大きさを物語っている。

 今夏の移籍市場では、驚きをもって報じられた移籍もかなりあった。特に、欧州主要リーグの移籍マーケット最終日の盛り上がりには驚かされた。ここ数年、デッドラインデーに中堅どころの移籍が緊急に決まることが多かったが、今年は人気銘柄が動いた。

 英国史上最高額の移籍金1億4400万ユーロ(約250億円)でニューカッスル・ユナイテッドからリバプールへ移ったアレクサンデル・イサクを筆頭に、ランダル・コロ・ムアニ(パリ・サンンジェルマンからトッテナムへローン)、ビクター・ボニフェイス(レバークーゼンからブレーメンへローン)、ファビオ・ヴィエイラ(アーセナルからハンブルガーSVへローン)、ピエロ・インカピエ(レバークーゼンからアーセナルへローン)、ニコラス・ジャクソン(チェルシーからバイエルンへローン)ら、トッププレーヤーたちが続々と移籍。特にボニフェイスの移籍は予想外で、ブンデスリーガの今年のデッドラインデーを大いに盛り上げた。

【主役はやはりイングランド勢、賢い動きを見せたのは...】

 今回のマーケットでも、やはり主役はイングランド勢で、その20クラブは総額35億ユーロ(約6062億円)超を費やした。出費額のダントツ1位は総額4億8000万ユーロ(約832億円)以上もの大金を投じて、イサク、フロリアン・ヴィルツ、ウーゴ・エキティケ、ジェレミー・フリンポンらを獲得した王者リバプールだ(次点はチェルシーの3億3000万ユーロ)。ルイス・ディアス(バイエルンへ)、ダルウィン・ヌニェス(アル・ヒラルへ)、トレント・アレクサンダー=アーノルド(レアル・マドリーへ)を放出しているが、間違いなく戦力は上がっており、チャンピオンズリーグ制覇が至上命題となるだろう。

 逆に、ヴィルツとフリンポンを放出したレバークーゼンの状態は、気になるところだ。

マリク・ティルマン(PSVから)やジャレル・クアンザー(リバプールから)ら、好タレントを獲得してはいるが、大刷新中のチームというのは、いったん歯車が合わなくなると、不振に陥るケースも少なからずある。レアル・マドリーへ移ったシャビ・アロンソ監督の後を引き継ぐアンドリース・ウルデリンク監督の手腕にも注目したい。

 賢い補強をしたと思うのは、レアル・マドリーだ。一昨年はジュード・ベリンガム、昨年はキリアン・エムバペとビッグ中のビッグネームを獲得したが、今年は主に将来性のある若手を補強した(むろん、エムバペもベリンガムもまだ若いが......)。リーベルプレートに4500万ユーロ(約78億円)を払って2031年までの契約を結んだ18歳のアルゼンチン人、フランコ・マスタントゥオーノは世界最高の10代のひとりと評され、ボーンマスから6250万ユーロ(約108億円)で獲得した20歳のディーン・ハイセンも同様だ。

 そして移籍金なし(クラブW杯で起用できるよう、1000万ユーロの違約金をリバプールに支払った)で獲得できたトレント・アレクサンダー=アーノルドは、右サイドバックのレギュラーとして期待され、左サイドバックのアルバロ・カラーレスと同様に、長年このポジションを任されることになりそうだ。そして新監督はシャビ・アロンソ。次なるペップ・グアルディオラになれる資質を備えている指導者だと、個人的に見ている。

【ローン移籍に関する規則の影響】

 全体の傾向としては、なにより移籍金の高騰が顕著になっている。コロナとインフレーションにより移籍市場でも慎重な動きを見せていた時代は、ついに終わったようだ。世界中で計83億ユーロ(約1兆4379億円)超もの移籍金が支払われるのは、今夏が史上初のことだった。

 またFIFAのローン移籍に関する規則も、効力を発揮してきている。

2024-25シーズンから、自前で育成していない21歳以上の選手は、6人までしかローンに出せなくなったのだ。これにより、以前のチェルシーのように、数多の選手をいっきに獲得して、すぐに貸し出すことができなくなった。だから、ジョアン・フェリックス(アル・ナスルへ)やクリストファー・エンクンク(ACミランへ)は、ローンではなく完全契約という形で移籍したと見られている。

 プレミアリーグが依然として最大の資金力を有している一方で、ラ・リーガは引き続き遅れをとっている。移籍支出額はリーグ・アンを少し上回る程度で、レアルとアトレティコ・マドリー、そして例外的にCL出場のビジャレアルだけが、大金を費やすことができた。ファイナンシャルフェアプレーのルールが厳しく適用されているから、いずれバルセロナの経営が健全化し、今後の移籍市場で再び主役を演じられるようになるかもしれない。

 ブンデスリーガでは、盟主バイエルンが気になるところだ。今夏の移籍市場では、ルイス・ディアスの獲得のために推定7000万ユーロ(約121億円)を投じているが、基本的にこのクラブは常に理にかなった動きを心がけている。収支をプラスに保つために、最終日にはチェルシーからニコラス・ジャクソンを迎えたものの、正式契約ではなく出資の少ないローン契約に留めている。

 ただいずれにせよ、近年のブンデスリーガは、プレミアリーグへ選手を供給する側となっており、それが変わる気配は今のところない。今夏のプレミアリーグのクラブがまとめた移籍の高額トップ5のうち4つは、前述したヴィルツとエキティケのほか、ニック・ヴォルテマーデ(シュツットガルトからニューカッスルへ)、ベンジャミン・シェシュコ(ライプツィヒからマンチェスター・ユナイテッドへ)と、ブンデスリーガのクラブから獲得した選手だった。

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