【東京世界陸上・記者の推し選手】村竹ラシッドには8月に体現し...の画像はこちら >>

9月13日(土)から21日(日)まで開催される東京2025世界陸上。果たして、世界最高峰の舞台で日本人選手たちはどんなパフォーマンスを見せるのか。

大会を取材する記者たちに「推しの選手」を聞く本企画、今回はスポーツライター・酒井政人さん編です。

●村竹ラシッド(JAL)男子110mハードル

 超人たちによる大運動会が34年ぶりに東京で開催される「東京2025世界陸上」。ホスト国となる日本は先日、全80名(男子49名・女子31名)の代表選手を発表した。出場する全アスリートに注目していただきたいが、なかでも「個人的推し選手」を紹介したい。

 まずは男子選手でメダルに急接近した村竹ラシッド(JAL)だ。トーゴ出身の父を持ち、高校時代から男子110mハードルで活躍を続けてきた。順天堂大4年時に日本記録タイ(13秒04)をマークすると、昨年のパリ五輪同種目では日本人として初めて決勝に進出し5位に入っている。

 今季はダイヤモンドリーグ(DL)を中心に海外レースを転戦してきた。年間王者を決めるDLファイナルはまさかの最下位に沈んだが、1台目の"失敗"を受けて、無理をしなかったかたちだ。

 しかし、8月16日のAthlete Night Games in FUKUIで"近未来のレース"を見せている。

「決勝は中盤からのスピードが新感覚でした。際限なく、どんどんスピードが上がっていくような感じがあったんです。10台で終わりじゃなくて、あと2~3台ハードルがあっても同じぐらいの勢いで走れそうな感覚がありました」

 速報タイムは「12.90」が表示されて、現地で取材していた筆者は目を疑った。

正式記録は12秒92(+0.6)。現在23歳の村竹は日本人初の12秒台を実現しただけでなく、日本記録を大幅に短縮した。このタイムは今季世界リスト2位、世界歴代でも11位タイとなる。

 なおアジア記録は12秒88、世界記録は12秒80。昨年のパリ五輪の優勝記録は12秒99(-0.1)だ。

 世界陸上のトラック種目で日本はまだ金メダルを獲得していない。周囲の期待は高まっているが、「プレッシャーになっていないですし、むしろ、うれしく思っています」と村竹。前々から口にしている「12秒台」と「メダル」を貪欲に狙っていく。福井でのレースを"再現"できれば、待望の瞬間が見られるかもしれない。

●福部真子(日本建設工業)女子100mハードル

 日本のショートハードルは女子にも注目したい。なかでも福部真子(日本建設工業)は、ぜひ頑張っていただきたい選手だ。

 福部は女子100mハードルでインターハイを3連覇した逸材。昨年は7月に自身が保持していた日本記録を12秒69まで更新すると、パリ五輪では準決勝に進出した。

東京世界陸上での躍進が期待されていたが、12月に発熱やリンパ節の腫れを伴う菊池病の発症を公表。当初は「普通の生活が送れるのか」という状況から競技に復帰した。

 今季は37度台の熱が出ることが少なくないなかで、「できることを全力でやる」という日々を過ごしてきた。シーズンインが遅れたものの、7月上旬の日本選手権で3位を確保。8月の実業団・学生対抗競技大会では12秒74に終わったが、翌週のAthlete Night Games in FUKUIで世界陸上参加標準記録にピタリ到達する12秒73(+1.4)をマークした。

「自分史上一番難しい世界陸上になるのは覚悟しています。その日、その日でベストを尽くしてきたからこそ、予選、準決勝でも、その日のベストを尽くせば何かしらついてくる。そういう世界陸上も素敵だなと思っています」

 東京世界陸上では1ラウンドでも多くのレースに登場して、「日本記録(12秒69)の更新も狙いたい」という福部。彼女が活躍することで、菊池病の認知が広まり、同じ苦しみを抱える人たちの勇気になるはずだ。

●鵜澤飛羽(JAL) 男子200m

 群雄割拠の男子100mと異なり、日本の同200mは22歳の鵜澤飛羽(JAL)の時代に入っている。今年はアジア選手権を連覇して、日本選手権を3連覇。両大会は自己ベストと自己タイとなる20秒12をマークするも走りの内容には不満を抱いていた。

 しかし、Athlete Night Games in FUKUIで飯塚翔太(ミズノ)に並ぶ日本歴代3位タイの20秒11(+0.9)で完勝。

自己ベストを0.01秒更新すると、鵜澤はレース内容にようやく〝及第点〟を与えた。

「狙っていた走りにちょっとだけ近づけたかな。身体の条件さえ整えば、世陸では今年一番のパフォーマンスを出せると思います」

 大学1年時に左ハムストリングスを肉離れした影響で、その後は出力をコントロールしながらレースに臨んできた。本気になった鵜澤がどれだけの爆発力を発揮するのか。

 個人種目の200mでは日本記録(20秒03)の更新と19秒台突入を期待せずにはいられない。そしてメダルの期待がかかる4×100mリレーはアンカーでの出場が濃厚。「自分の走りでメダルの色が変わる。全力で走って、金メダルを獲得して、会場のみんなでワイワイしたい」と意気込んでいる。

●三浦龍司(SUBARU) 男子3000m障害

 中長距離種目は男子3000m障害の三浦龍司(SUBARU)が非常にホットだ。4年前の東京五輪で7位、2023年ブダペスト世界陸上で6位、昨年のパリ五輪で8位と世界大会で入賞を重ねてきた。そして今季は7月11日のDLモナコ大会で爆走を見せている。

 前半は後方で落ち着いてレースを進めると、徐々に順位を上げていく。

そしてラスト1周でギアチェンジ。オリンピック連覇中のスフィアン・エルバカリ(モロッコ)と大接戦を演じて、2位に食い込んだのだ。自身が持つ日本記録を6秒以上更新する8分03秒43をマーク。このタイムは今季世界リスト3位となる。

「世界陸上の目標は表彰台、メダル獲得を掲げていますし、プラスして記録も更新していきたい。将来的にはトップを極めていくような目標を持っています」

 23歳の三浦の持ち味は障害と水濠のクリアランスのうまさにある。そして昨季からポイント練習(実戦に近いスピードで行なう練習)のあとに障害を置いた状態で、400mや600mをほぼ全力で走るという独自メニューを取り入れて、終盤のキック力と障害スキルを磨いてきた。国立競技場の大声援が三浦のラストスパートに力を与えるはず。特に水濠からフィニッシュラインまでの約150mが"熱い時間"になりそうだ。

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