福澤達哉インタビュー 前編
9月12日から始まる男子バレーボール世界選手権(世界バレー)に向けて、元日本代表でアウトサイドヒッターとして活躍した福澤達哉さんに、ロラン・ティリ新監督体制で初陣となったネーションズリーグでの戦いぶりをあらためて振り返ってもらった。そこから見えてきた日本の強みと課題とは――。
【新生ジャパンの印象】
――2028年ロサンゼルス五輪へ向けた男子バレー日本代表が迎えた最初の公式戦、ネーションズリーグは準々決勝でポーランドに敗れ、最終成績を6位で終えました。まず振り返って、どのような点が印象的でしたか?
福澤達哉(以下、福澤) 日本代表だけでなく、オリンピック翌年はどの国も監督が代わったり、新戦力を発掘するタイミング。戦術理解や顔ぶれ、チーム自体がガラッと変わる時期です。日本代表に関して言えば、千葉ラウンド(7月16~20日)から合流した選手も少なくないなか、新しく入った選手も含め、非常に高いパフォーマンスを発揮できているな、というのが正直な印象でした。「メンバーが代わっても日本が世界と戦うために何をしなければならないか」という要素が全体に浸透していたので、監督、チームが代わってもベースは変わらない。これは非常に大きいことだと感じました。
――具体的に、確立されている日本のバレーの共通点とはどのようなところですか?
福澤 ひとつはレシーブですよね。組織として動けるのは日本の強みでもありますし、誰が出てもスキルや意識のレベルも非常に高い。もうひとつがサーブです。レシーブと同様に誰が出てもサーブ力は引けを取らないパフォーマンスが発揮されていました。もともと日本には石川(祐希)選手や髙橋(藍)選手、宮浦(健人)選手、サーブのいい選手が揃っていましたが、今回のネーションズリーグでは彼らだけでなく、それぞれの選手のサーブが機能していました。
選手のなかには「レシーブとサーブがよくなければ日本代表には入れない」という危機感も芽生えていると思いますし、競争意識にもつながっている。
――「サーブがよくなければ勝てない」と言っても過言ではない?
福澤 サーブが勝敗のカギになるのは確かです。だからこそ大切なのは、どの選手もいいサーブをただ打つだけでなく、どれだけクオリティを上げていけるか。上位争いになればなるほど、どのタイミングでベストなサーブを打てるか。繊細かつ大胆に攻めることは日本に限らず、世界のトレンドでもある。実際に(ネーションズリーグの)ポーランド対イタリアの決勝も、勝敗を分けた最も大きな要素はサーブの差でした。試合の局面ごとにいかに戦術的なサーブを打てるか。単発ではなく、チームとしてどれだけサーブ力、サーブ戦術を高め、それを発揮できるかというのが重要なポイントです。
――変わらないベースがあるなか、今季から指揮を取るロラン・ティリ監督がどんなバレーボールをしようとしているか、求めているかというのは見えてきましたか?
福澤 ネーションズリーグだけで言えば、正直、まだはっきりとは見えていません。繰り返すようですが、チームがスタートして間もない段階で、いろいろな選手を試す時期でもあるので、もう少しチームを固めていく段階になれば、オフェンス面では具体的にやりたいバレーの形が見えてくるかもしれません。選手を試すことを優先する時期は、目指すバレー、やりたいバレーと現状のパフォーマンスにズレもあるので、明確に示しづらい。ただ、イメージは伝わっているのも事実です。
私もティリさんとはよく話をするのですが、事あるごとに聞くのは「スマート」というワードです。ネーションズリーグではブロックのいいチーム、高さを武器とするチームに対して苦しい戦いを強いられたり、被ブロックの本数も多かった。なぜそうなったのか、ひとつひとつのシチュエーションにいかにスマートに対応するかはコンセプトとして持ち続けなければならないと、ティリさんもかなり口酸っぱく言い続けている印象です。試合を重ねて、メンバーも固まっていくなかでもっとより具体的に、どんなバレーボールを目指しているか、おのずと見えてくるはずです。
――実際にネーションズリーグでも中国、ブルガリアラウンドと千葉ラウンド、最終ラウンドはメンバーも大きく異なりました。
福澤 ベースのスタイルは変わらないですし、パリ五輪までの戦いぶりから残していきたい事例もあるので、そこは継続する。プラスして、ティリさんの戦術を取り入れていく。ネーションズリーグはまさにそういう戦いでした。千葉ラウンドから合流した選手も多かったことに加えて、プレーのクオリティがまだ上がりきっていない選手も多かった。個々のパフォーマンスやコンディションが上がってくれば、戦い方も変わるはずです。
フィジカルで劣る日本が世界との差を埋め、勝つために何を徹底して勝負してきたかといえば、細かなつなぎや、数字に表れないプレーの精度です。ファンの方々も私たちもパリ五輪のパフォーマンスと比較して見てしまう部分もありますが、長い年月をかけてつくりあげてきた集大成と比べれば、確かにまだ現段階では雑だと感じるところもあります。
新しいメンバー、新しい組み合わせで戦うなか、いくら器用な選手が揃っていてもひとつひとつのつながりは時間をかけて構築されていくものです。(前監督のフィリップ・)ブランさんは8年かけてパリ五輪までのチームをつくりあげてきた背景があり、だからこそ「このパターンはこうだ」と阿吽の呼吸でプレーできるのが日本の強みでした。
もちろんこれからも目指すところは変わらないですし、選手たちも「もう少し細かい連係部分を詰めていかないといけない」「プレーの質を上げていかないといけない」と発言しています。全員が共通意識を持っているなか、チームが固まっていくのはこれから。伸びしろしかないはずです。
つづく
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profile
福澤達哉(ふくざわ・たつや) 1986年7月1日生まれ、京都府出身。2005年、中央大学1年時に日本代表に初選出され、大学4年生の2008年北京五輪では清水邦広とともにチーム最年少で出場を果たした。翌年のワールドグランドチャンピオンズカップでは、32年ぶりの銅メダル獲得に貢献し、ベストスパイカー賞受賞。大学卒業後はパナソニックパンサーズ(現・大阪ブルテオン)に入団し、2009‐2010年シーズンと2011年‐2012年シーズンのVプレミアリーグ優勝に貢献。ブラジルやフランスでも経験を積み、現在はパナソニックグループに勤務するかたわら、解説者として活躍している。