男子バレーボール日本代表
宮浦健人インタビュー
収穫や成果よりもまず課題を口にする。それが宮浦健人(26歳/ウルフドッグス名古屋)という選手だ。
高さで上回る世界の壁にもひるまず、屈さず。ブロックに当ててはるか遠くまで飛ばしたり、通過点を下げずにコート後方へ叩き込む。
サーブ順が巡ってくれば、自らのポジションへつく最中、高くトスを上げるルーティンで感覚を確かめ、高く、強くヒットしたボールは大きく変化して相手コートへ。ネーションズリーグやブルガリア、イタリアとの壮行試合でも宮浦のサービスエースで会場を何度も沸かせたが、それでもやはり、彼の口からは「まだまだ」と満足にはほど遠い言葉が出てくる。
誰より自分に厳しい宮浦が、勝負のシーズン、と位置づけた2025年。これまでの戦いを振り返るとともに、バレーボール世界選手権(世界バレー)に向けた覚悟を語った。
【いかなる時も準備をしっかりして臨む】
――ネーションズリーグが終わり、世界選手権へ向けて合宿を重ねてきました。宮浦選手ご自身のコンディション、チーム状態は?
宮浦 チームの雰囲気は特別変わりなく、いい状態でできています。大会が近づくなかでもかなり練習はやっているし、身体も追い込んでいます。ボール練習はもちろん、ウエイトトレーニングの時間もしっかり組まれていて、オフも少ないので、正直な気持ちを言えば、なかなかきついです(笑)。

――ネーションズリーグから、オポジットとしてほぼすべての試合に出場し続けてきました。ここまでの戦いぶり、ご自身のパフォーマンスをどのように受け止めていますか?
宮浦 いかなる時も準備をしっかりして臨む。そこはどんな時も変わらないです。
――ウエイトトレーニングの時間もかなりある、とのことですが、傍目で見てもひと回り身体が大きくなった印象があります。
宮浦 デカくなりましたか?(笑)。自分ではわからないし、あんまりデカくはしたくないんですけど、変わらずウエイトトレーニングは高い強度でやるようにしています。もともとしっかりトレーニングしたいという気持ちがあるのはもちろんですが、ウエイトトレーニングは数字で結果が出るので、そこでもひとつずつ成長したい。デカくなりすぎないように(笑)、でも、しっかり負荷はかけていきたいです。
【宮浦が考える試合中の「隙」】
――試合に出場し続けるなかで、ご自身のパフォーマンスはもちろんですが、チームの中心選手として「この1点は獲る」という意識や、周りをけん引する覚悟も宮浦選手から伝わってきました。
宮浦 そう思っていただけるとうれしいです。まずは自分のパフォーマンスを高いレベルで出すことだと思っているので、自分に向けてフォーカスしていますが、チームとしてどう戦うかということも考えないといけない。
日本代表の選手はそれぞれ経験豊富な選手なので、個の力はあるし、まとまると本当に強い。でもそのなかで、もっともっと自分も引っ張っていかないといけないと思うので、点を取った時や、チームが落ちている時に雰囲気を変えられるような選手にならないといけないと思っています。
――そのために今、プレー面で特に意識するのはどんなことですか?
宮浦 不用意なミスを減らしたいと思っているんです。振り返ると、試合のなかでどこか相手に隙を見せてしまう瞬間がある。どんな点差、状況であっても相手に隙を見せてはいけないと思うし、不用意なミスが隙につながってしまうので、そこはなくしたい、と集中して取り組んでいます。
――宮浦選手が思う「隙」とは、どういう時に見えるものですか?
宮浦 たとえばオポジットの自分や、ミドルブロッカーの選手がショートサーブで狙われた時に、反応が遅れて一歩出なかったり、周りに任せてしまったり。直接失点するようなプレーではないかもしれないですけど、自分のなかでは「今、隙を見せたな」と思うことがあります。
攻撃の面も同じで、たとえば1本ブロックされた時にも、「もっと助走の段階から集中して『この1点を取るんだ』という気持ちで入っていたら、ブロックも見えて失点を防げたかもしれない」と思うこともある。そういう瞬間が、自分では隙だと思うので、少しでもなくせるように集中する。サーブを打つ時も、ただ強く打つ1本と、「この1球、1本を絶対に無駄にしない」とより集中した強い気持ちを持って打つ1本は全然違うので、そこは極めていきたいです。
【一番大事なのはチームが勝つこと】
――ネーションズリーグの日本ラウンドを終えた時、永露元稀選手が「宮浦が自分のどんなトスも文句ひとつ言わずに打ち続けて、決めてくれたことに助けられた」とおっしゃっていました。点を取るのが役割でもあるオポジットとして出場を重ねるなか、ご自身の果たすべき役割はどう捉えていますか?
宮浦 スパイクを打つ時にはいろんな状況があって、自分の入り方やジャンプのタイミング、トス自体と合わないこともあります。でも、そこで「合わない」で終わってしまったら、結局「合わなかった」というだけで終わってしまう。
セッターはどうやって全体をコントロールするか、選手それぞれの調子や状況を考えながら組み立てています。それは自分には想像できないぐらい大変なことだと思うので、コントロールできない状況があったとしても何とか点につなげるように。
――「コンビが合わなかったから負けた」「サーブが入らないで負けました」では、それだけで終わってしまうということですね。
宮浦 自分のパフォーマンスを発揮することももちろんですけど、一番大事なのはチームが勝つこと。「自分の調子が悪かったから負けました」というのは言い訳にしかならないし、そうならないようにまずは自分がいかに結果を出せるか。スパイクを決められるかということにフォーカスして、周りの選手とお互いの役割を果たして、カバーし合って、助け合いながら高め合う。言葉にする以上にすごく難しいことなんですけど(笑)、そこに尽きると思います。
――宮浦選手ご自身は、目指す理想に近づけている手ごたえはありますか?
宮浦 そもそも、自分の理想自体がぼんやりしている部分があるんですけどね(笑)。去年よりはできることも多くなったと感じているので、成長したと実感しているところでもあります。でも、まだまだもっとこうしたいなとか、こうしておけばよかった、と思うことはあるので、自分と向き合いながら日々考えながらやっていくしかないですね。
【世界トップの選手を目指したい】
――前回、2022年の世界バレーも出場しました。今回と心持ちは違いますか?
宮浦 前回はベンチでしたが、正直にいえば世界バレーの重みもまだわかっていなかった。オリンピックはやっぱり特別な思いがありましたけど、世界バレーに対してそれほど特別な感情はなかったんです。
――近年の成績で国内の人気、注目度だけでなく、世界からの見方も変わった実感はありますか?
宮浦 日本のチーム自体が注目されているのは間違いなくあります。自分もその選手のひとりとして注目してもらえているとは思っていますけど、個人としてはまだまだ。日本代表の注目度にちょっと乗っかっているだけだと思っているし、世界のオポジットと並ぶとまだまだな部分が多いので、実力で世界から「すごい」と言われるような選手になりたいです。
世界を見れば若い選手もどんどん出てくるし、すごい選手はたくさんいますけど、自分自身、やっぱり上のレベル、世界トップの選手を目指したい。もっともっと高いところを見て、突き上げていかないといけないと思っています。
――世界選手権では日本代表としてどんな結果を求め、宮浦選手ご自身としてどういうプレーがしたいか。ここを見せたい、見てほしい、というところは?
宮浦 日本代表としても、個人としても世界バレーで目指すのは表彰台です。そのために結果を残したい、という思いは強いですが、そのためにもまずはベストを尽くすこと。ここからも成長していきたいので、チームが盛り上がるような1点を取りたいし、会場も盛り上げられるように。個人的には終盤のサービスエースが一番燃えるので、大事なところの1点、チームが勝利をつかむための1点を取りたいです。
(【男子バレー】甲斐優斗が払拭したい「サーブだけ」というイメージ 世界バレーに向けてさらに強化したいポイントを語る>>)
【プロフィール】
◆宮浦健人(みやうら・けんと)
1999年2月22日生まれ。