男子バレーボール日本代表

甲斐優斗インタビュー

 終盤のヒリヒリした局面でリリーフサーバーとしてコートに立つ。緊張やプレッシャーがついて回るシーンでも、甲斐優斗(21歳/専修大学4年・大阪ブルテオン)はいつも変わらない。

淡々と、笑みすら浮かべ、いつもどおりにトスを上げ、ベストサーブで点を取る。

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 身長2mの高さに加え、強心臓という武器を持つ21歳の成長は留まることなく伸び続けるばかりだが、甲斐自身は「もっとチャンスがほしい」と飢えている。

「甲斐のサーブは武器」と言われるたび、内心では「サーブだけじゃない」と情熱を燃やす。これまでも巡ってきたチャンスを着実につかみ、パリ五輪も経験した。自身初のバレーボール世界選手権(世界バレー)も同様に、甲斐にとってはさらに上、高みを目指すためのチャンスを得る貴重な機会。

 笑顔の陰に、秘めた闘志。世界バレーへ向け、甲斐が語った。

【パリ・バレーで磨いた武器】

――ネーションズリーグでは多くの出場機会がありました。満足、課題、収穫、さまざまなポイントがあるなか、甲斐選手はどのようにとらえていますか?

甲斐 日本代表に選出された時は、評価されているのがサーブだけだったと思うので、そこからは少しずつ評価も上がってきたのかな、とは思います。でも個人的には、今も「サーブだけ」というイメージがついている気がするので、そこは払拭したいです。

――サーブはもちろん、サーブ以外のプレーに関して、ネーションズリーグでの手ごたえは?

甲斐 攻撃の面で言えば、(大学の試合がない期間にプレーしていた)パリ・バレーでは練習から常に高さのあるブロックに対してやってきたので、そこに対する怖さはない。自信を持って打てています。サーブレシーブも、今までより不安はないし、徐々に自信もついてきました。

ショートサーブで狙われた時も自然に足を一歩出せるようになったし、崩されるケースは減ってきたと思うので、もっとよくなるように上達したいです。

――日本代表のアウトサイドヒッターのポジションは層が厚い。ご自身も含めたそれぞれの選手の持ち味や強みを、甲斐選手はどのように見ていますか?

甲斐 石川(祐希)選手と大塚(達宣)選手は攻撃も守備もどちらもこなすけれど、どちらかといえば攻撃型で、髙橋(藍)選手と富田(将馬)選手は守備型だけど攻撃ではブロックを利用した打ち方がうまい。自分は、高さが武器だと思っています。

 それぞれタイプが違うので、ライバル意識というよりも足りない部分を別の誰かが補って、支え合ってできていると思います。そこで自分が出るためには、髙橋選手や富田選手と同じぐらいのディフェンス力をつけられれば評価も変わると思いますし、高さという武器を活かしながら、ディフェンス面をもっと頑張りたいです。

【サーブの調子が悪くなった時の打開策】

――「サーブだけ」のイメージを払拭したいとのことですが、勝負所や終盤の甲斐選手のサーブの印象が強いのも事実です。実際にネーションズリーグの日本ラウンドでは、宮浦健人選手が「何も考えていないから、あそこであんなすごいサーブが打てる」とおっしゃっていました。

甲斐 そうなんですか(笑)。でも、ネーションズリーグのブルガリアラウンドではまったく入らなかったんです。日本ラウンドで少しずつ打てるようになって、ドイツ戦でサービスエースを取って「いける」と手ごたえをつかみました。

【男子バレー】甲斐優斗が払拭したい「サーブだけ」というイメージ 世界バレーに向けてさらに強化したいポイントを語る
練習後に右肩をアイシングしながらインタビューに答えた甲斐 photo by 立松尚積

――アルゼンチン戦でも同様にサービスエースがありました。

甲斐 あの時は、サーブを入れにいったらエースになった感じで(笑)。

軌道を見ればわかると思うんですけど、ふわっとしたボールなのにエースが取れた。自分では、高い打点で打って、相手の足元に落ちるようなサーブが打てるのがベストだと思っています。

――サーブがなかなか入らなかった時、打開するためにどんなことをしていたのですか?

甲斐 あまり映像を見るほうではないのですが、その時は映像を見返して、どうしたら修正できるか、イメージをしっかり作るために頭で考えました。(サーブが)入っていた時の映像を見ると、トスを低く上げている時のほうが入る確率が高かったので、まず低いトスから始めて、だんだん高くする。失敗を恐れず練習でいろいろなことを試していくうちに、いつもどおりの感覚を取り戻しました。

――攻撃面ではどんなことに取り組んできましたか?

甲斐 全体的に攻撃を速くしているので、そこに合わせるのが大変ですけど、回数とコミュニケーションを重ねながら詰めてきました。

――コミュニケーションを取るうえで、工夫していることや重視していることは?

甲斐 基本的に自分からいくタイプではないですね(笑)。もともと父の教えとして、「ネットより上に上がったボールはスパイカーの責任だ」と言われてきたので。相手のブロックにシャットされたり、打ち切れなくてミスした時、リバウンドが取れなかった時も自分に矢印を向けるし、どんな状況、どんなトスでも自分が対処するしかない、と考えるタイプです。

――なかなか厳しいですね。

甲斐 そうですかね(笑)。ずっとこの考え方なので、これが普通だと思ってここまできました。

【学生らしい生活はほとんどしていない】

――パリ・バレーでお話を聞かせていただいた時は、「ブロックされるよりもレシーブに拾われるほうが嫌」とおっしゃっていました。昨季、大阪ブルテオンの特別指定選手としてSVリーグで経験を重ねたなかで、ディフェンスに対する攻撃の仕方や意識、考え方に変化はありましたか?

甲斐 自分の場合はブロックの上から打つことのほうが多いのですが、海外相手だと決まっていたボールが、日本だと拾われることのほうが多い。より際どいコースを狙っていかないといけないし、ブロックの上からだけでなく、ブロックの脇や間を狙って打つ技術はもっと身につけていかないといけない、と今まで以上に思うようになりました。

――2025年、甲斐選手にとっては初めての世界バレーがあり、学生としてもラストイヤー。日本代表が終わったら専修大学で、秋季リーグや全日本インカレにキャプテンとして臨みます。例年同様、忙しいシーズンになりますね。

甲斐 オフはほとんどないですね。休めるなら休みたいですけど、無理だと思っています(笑)。そもそも入学した時はコロナ禍でしたし、日本代表やパリ・バレー、いろいろな経験をさせてもらった分、学生らしい生活はほとんどしていないです。たとえば飲み会とかあったとしても、今さらそういう場所に行けないよな、と思うし。大学での楽しい思い出は全カレ(全日本インカレ)で優勝できたことですね(笑)。

――ロサンゼルス五輪に向けたスタートとなる世界バレー。

オリンピックまで見据えた時、甲斐選手ご自身、日本代表としてどんなステップを踏んでいきたいですか?

甲斐 もちろん表彰台は目指しています。そのなかでも、自分自身は失敗を恐れず思い切ってやっていこうと思っているので、いろんなことにチャレンジしていきたいです。見てくださる方々は勝っているところが見たいと思うので、勝ちにこだわってやりたい。バレーボール人気が高まっているなかで結果を出せれば、さらに人気も上がると思うので、上位進出、表彰台を目指して、自分自身ももっとアピールして代表に残り続けられるように頑張りたいです。

――世界バレーでは、順当にいけば世界ランキング1位のポーランドとの対戦も予想されます。どんな戦いがしたいですか?

甲斐 ポーランドにはなかなか勝てていなくて、悪いイメージがついているのでまずは払拭したい。どういう展開であっても勝ち切れれば、その先、勝ち方がわかってくると思います。その先のロス五輪にもつながると思うので、早い段階でポーランドに勝ちたい。世界バレーで勝てるように頑張ります。

【プロフィール】

◆甲斐優斗(かい・まさと)

2003年9月25日生まれ。宮崎県出身。200cm。

アウトサイドヒッター。専修大学(4年)所属。小学2年生からバレーボールを始め、日南振徳高校(宮崎)時代には春高バレーで活躍。2022年に専修大学に進学すると同年に日本代表に初選出される。翌23年以降も継続して国際大会代表メンバーに名を連ね、2024年パリ五輪には日本代表最年少で出場を果たした。今年7月、大阪ブルテオンへの入団が発表された。

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