【現地番記者コラム】
 昨季は自身の出場機会が激減したものの、チームは5シーズンぶりのプレミアリーグ優勝を遂げた。日本代表で主将を務める遠藤航は、騒がしい移籍の噂をよそに、今季もリバプールに残留し、7年ぶりのチャンピオンズリーグ制覇を狙うチームへの貢献を誓う。

世界的なスポーツメディア『ジ・アスレティック』のリバプール番、ジェームス・ピアース記者がその背景を綴る。

【仲間やスタッフ、ファンとの繋がりを大事にしている】

 出番を求めて移籍を志願する選手はたくさんいる。

 リバプールでも今夏、ダルウィン・ヌニェス(アル・ヒラルへ)やハービー・エリオット(アストン・ビラへローン)、ジャレル・クアンサー(バイヤー・レバークーゼンへ)らが、出場機会がありそうな新天地に移っていった。彼らはアルネ・スロット監督の起用法に不満を抱えていたのだ。

リバプール遠藤航はチャンピオンズリーグで貴重な役割を担うか ...の画像はこちら >>

 だが遠藤航は違う。彼は昨季、プレミアリーグで20試合に出場しているが、先発は優勝が決まった後の1試合のみ。チャンピオンズリーグでも6試合でプレーしたものの、先発したのは突破が決まった後のグループフェーズ1試合だけだった。

 にもかかわらず、現在32歳の日本代表キャプテンは今夏、プレミアリーグ王者から真剣に離れようとはしなかった。またスロット監督も、彼を進んで手放そうとは考えていないようだった。

 世界最大のクラブのひとつを離れることになれば、大きなステップダウンになる──遠藤はそう捉えていたはずだ。契約もあと2年残っている。それに彼はチームメイトやファン、指導陣、スタッフから愛されており、そうした繋がりを大事にしているに違いない。

 2年前の夏にユルゲン・クロップ前監督から引き抜かれた遠藤は一昨季、全公式戦で43試合に出場し、うち先発は34試合。

だが昨季はスロット監督のもと、全公式戦で32試合に出場し、うち先発は7試合のみ──そのほとんどは国内カップ戦だった。プレミアリーグの出場時間で比較すると、一昨季が1720分だったのに対し、昨季はたったの260分だった。

 しかし彼の役割は、チームにとって実に重要なものだった。多くの場合、チームがリードしている終盤に投入され、失点を防ぐために献身した。本拠地アンフィールドのサポーターは、そんな遠藤に"フィニッシャー"のニックネームをつけた。彼が入れば、勝利はほぼ確約され、チームはそのままフィニッシュラインを超える──終了の笛を聞く──からだ。マウスピースをつけ、戦いに挑むボクサーのような勇ましい姿も、ファンに愛される所以のひとつだ。

【「若手の格好のロールモデルだ」】

「ワタは最高のチームメイトだよ。文字どおり毎日、彼は完全にチームにコミットするんだ。常に自分よりチームのことを考え、チームのためにハードワークする。若手にとって、格好のロールモデルだ」とチームの主将フィルジル・ファンダイクは語る。

 昨季から、遠藤の本職である6番のポジション(守備的MF)は、ライアン・フラーフェンベルフが務めるようになった。この位置にテクニカルなMFを望むオランダ出身のスロット監督は、同胞のフラーフェンベルフの狭いスペースでの技術や巧みなターン、底なしのスタミナを高く評価している。

 ただし、今シーズンは遠藤の出番が増えてもおかしくない。なにより、スロット監督は選手のローテーションを導入することを明言している。なぜなら指揮官は、昨季のリバプールはチャンピオンズリーグの16強でパリ・サンジェルマンに敗れ、リーグカップ決勝でニューカッスルに敗れた理由は、選手たちの疲労にあったと考えているからだ。実際、昨季はほとんど先発メンバーを変えなかったため、終盤の重要な時期に全体が息切れしたことは否めない。

 加えて、過密スケジュールにうまく対応していくには、遠藤のような計算の立つ選手の存在は心強い。9月の代表ウィーク後、リバプールは17日間で6試合(3つの大会)を戦うことになる。昨季のように先発を固定するのは賢明ではない。

 また遠藤は複数のポジションを高度にこなすことができる。守備的MFだけでなく、最終ラインの中央や右にも対応する選手は、シーズンに60試合以上を消化するチームにとって、非常に価値がある。

 スロット監督が就任した昨夏、遠藤は新指揮官との最初の会話でこう言ったという。

「あなたが望むなら、自分はどんなポジションでもプレーし、100%出し尽くします」

 その言葉どおりの選手だということは、指揮官も理解しているはずだ。

 本稿執筆時点で、遠藤はプレミアリーグ第3節までの全試合に途中出場している。

欧州制覇を見据えるプレミアリーグ王者は今夏、4億ポンド(約794億円)以上を費やして多くの新戦力を獲得したというのに。

【ファンダイクとは子どもの演劇会を共に鑑賞】

 ホームでのボーンマスとの開幕戦ではモハメド・サラーの得点をアシストし、次のニューカッスル戦では全体を落ち着かせ、第3節の大一番、アーセナル戦でも期待通りに"フィニッシャー"として試合を終わらせた。アーセナル戦では、後半追加タイムにヴィクトル・ギョケレスをファウルで止めて警告を受けているが、このシーンは遠藤の守備者としてのプロフェッショナリズムの高さを表している。トップ中のトップレベルでは、常にナイスガイではいられないのだ。

 プライベートでは、遠藤はチェシャーの住宅地──チームの練習場までクルマで40分ほど──に家族と静かに暮らしている。子どもが同じ学校に通っているファンダイクとは、頻繁に会っているようだ。昨シーズンのある夜、ファンダイクの娘と遠藤の息子が共演した学校の演劇会では、ふたりの父親が観客席にいた。

 さて、ここ6年で2度目のプレミアリーグを制したリバプールは今季、2018-19シーズン以来のチャンピオンズリーグ優勝を最大の目標に掲げている。レアル・マドリーとは昨季も対戦したが、インテル・ミラノやアトレティコ・マドリーも同居している今季のグループフェーズは、昨季よりも困難な印象だ。

 それでもアレクサンダー・イサクやフロリアン・ヴィルツ、ウーゴ・エキティケら豪華な新戦力を迎えたリバプールは、ほぼ間違いなく決勝トーナメントへ勝ち進むだろう。ドミニク・ソボスライのライトバック起用に目処がついた今、遠藤には本職のセントラルMFかセンターバックでのプレーが予想される。

 たとえ出場時間は限定的でも、遠藤がチームに与える安心感と堅実なパフォーマンスは、欧州の頂点を目指す道中にも必要とされるはずだ。

(了)

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