来年の北中米ワールドカップに向けてアメリカ遠征を行なったサッカー日本代表。DF陣にケガ人が多く、ベストメンバーを組めない難しさがあったとはいえ、メキシコ、アメリカ相手に1分け1敗、しかも無得点と、期待外れな結果に終わった。
【最大の収穫は、選手層の薄さがわかったこと】
カタールワールドカップからの3年間、いったい何をしてきたのか、というのが率直な感想だ。アジアでは勝てても、相手のレベルが上がると勝ちきれないね。
初戦のメキシコ戦(△0-0)の前半、日本は前線からのハイプレスでペースをつかんだ。ボールをしっかりつなごうとしていたメキシコは明らかに戸惑っていた。狙いは悪くなかったと思う。でも、結果的には、その元気な時間帯に得点を奪えなかったのが痛かった。
後半に入り、だんだん運動量が落ちてプレスがきかなくなると、逆にメキシコペースになり、何度か危ない場面をつくられた。当たり前だけど、プレスを90分間かけ続けるのは無理。ペース配分、流れを変える選手交代などもう少し工夫がほしかった。
続くアメリカ戦(●0-2)は、メンバー11人全員を入れ替えて臨んだからか、前からのプレスがメキシコ戦のようにハマらず、ロングボールとドリブルで勝負する相手にいいようにやられてしまった。実際、2失点とも日本の右サイドをドリブルで崩された形だった。GK大迫敬介の活躍がなければ、5、6点取られてもおかしくなった。
一方で攻撃は横パス、バックパスばかりで形をつくれず、後半の3バックから4バックへのシステム変更も功を奏さなかった。
この2試合での最大の収穫は、選手層の薄さがわかったこと。誰が出ても主導権を握る試合ができたアジア予選で、先発メンバーを固定して戦ってきた弊害とも言える。
まず、ケガ人が続出している最終ライン。どんな相手でも日本の守備はある程度の計算が立つ。僕は今までずっとそう言ってきた。でも、今回は冨安健洋、伊藤洋輝、町田浩樹、高井幸大をケガで招集できず、さらにメキシコ戦で板倉滉が負傷。さすがにアメリカ戦はバタバタしていたね。
ただ、森保一監督が苦しいのはわかるけど、本職がサイドバックの関根大輝、長友佑都を3バックのセンターバックとして起用したり、本職がセンターバックの瀬古歩夢を4バックの左サイドバックとして起用したり、その采配は意味がわからなかった。来年のワールドカップ本番までまだ時間があるとはいえ、心配な状況だ。
ボランチも遠藤航頼みが露呈した。彼が出場しなかったアメリカ戦では、前線でのプレスをはがされると、簡単にペナルティエリア近くまでボールを運ばれていた。遠藤がいないと中盤の守りがあまり機能しなくなる。
2試合で無得点に終わった攻撃陣も、アジア予選時より個々の状況がよくない。なかでも気になったのは、日本の武器の両ウイング。三笘薫は持ち味とするドリブルで仕掛ける機会が減った。プレースタイルを変えようとしているのか、ベンチからの指示なのかはわからないけど、相手からすれば怖さがないし、見ていてワクワク感がなかった。
また、伊東純也は32歳という年齢からくる衰えなのか、以前のようなタテの突破を見せられなかった。前田大然に関しては、そもそもウイング起用に無理があった。彼のスピードを生かすなら、もっとスペースのあるポジションで使うべきだ。サイドで窮屈そうにしていて、気の毒だった。
ウイングは攻守の役割が多く、運動量の求められるポジションだけに、計算できる選手が複数いないと困る。今回招集されなかった中村敬斗が戻ってこないと、今後も苦しい状況が続くかもしれない。
【アメリカ、メキシコもベストの状態ではなかった】
一方、鈴木彩艶と大迫のふたりがすばらしいプレーを見せたGKに関しては、唯一、心配がなさそうだ。特に、昨年のアジアカップで不安定だった鈴木は、パルマでの1シーズンを経て大きく成長した。つねに落ち着いていて、頼もしかった。まだ23歳と若く、今後が楽しみだ。
アジア予選では日本が完全に主導権を握る試合ばかりで、ピンチ自体が少なかった。今回、相手のレベルが上がったことで、初めて彼らの実力を確認できたというのは、なんとも皮肉だね。
ヨーロッパや南米はネーションズリーグや長いワールドカップ予選を通じて、レベルの高い環境でもまれている。一方、日本はずっとアジアで戦い、予選を終えてから、ようやくワールドカップ出場国との強化試合を組める。嘆いても仕方ないけど、この差は大きい。
森保監督と選手たちは、今回も「ワールドカップで優勝する」と口にしていた。でも、メキシコもアメリカも決してワールドカップで優勝を狙うようなチームではない。
そういう相手に1分け1敗。しかも、2試合で無得点。そもそも日本は昨年のアジアカップでもベスト8で負けているし、アジア予選でもオーストラリアやサウジアラビアには差を見せられなかった。それなのに、ワールドカップで優勝を目指すというのは根拠がなさすぎる。
公言したことで引っこみがつかなくなっているのかもしれないけど、日本はまだチャレンジャーであって、まずは謙虚にベスト8を目指すべき。僕はそう思う。
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