9月15日、マニラ。バレーボール男子世界選手権(世界バレー)、日本は前々日のトルコ戦に続いて、カナダ戦も同じくセットカウント0-3でストレート負けを喫した。

これで予選ラウンド敗退が決定。控えめに言って、失望の結果だ。

 東京オリンピック前後から、日本男子バレーはじわじわと実力と人気を同時に高めてきた。石川祐希、髙橋藍、西田有志のようなスターも登場し、それぞれの選手の個性も際立った。国際大会では予選ラウンド敗退はなくなり、ベスト8以上に勝ち進むのが通例となって、ネーションズリーグでは2年連続メダルも獲得していた。

 フィリップ・ブラン監督が退任したチームは、新たにロラン・ティリ監督が率いるようになった。だが......。

 なぜ、彼らはマニラで沈んだのか?

【男子バレー】世界バレー予選敗退でティリ監督を直撃 西田有志...の画像はこちら >>
 実は世界バレー開幕前から、不安感は漂っていた。

「このチームはまだ強くない」

 大会の壮行試合としてブルガリア戦、イタリア戦の合計4試合を終えたあと、キャプテンである石川祐希は苦言を呈していた。コンディション面でかなり優位だった状況にもかかわらず、ブルガリアにも2試合目は苦しみ、強豪イタリアにはことごとく競り負けた。やや大味な攻守は"らしさ"が感じられなかった。すでにアラームは鳴っていたのだ。

 世界バレーでも、ひとりひとりが技術的に劣っていたわけではない。むしろ技術や戦術は洗練されたもので、メカニズムを稼働させるだけの力も持っていた。しかし、トルコ、カナダと2試合を通して「あとひと息」の連続だった。そして、いつの間にか相手に流れを奪われていた。トルコにはサーブで分断され、お株を奪われるような地上戦を演じられ、カナダには単純な高さに苦しめられた。

 会場が日本の応援一色だったことで、皮肉にもトルコ、カナダも覇気を漲らせたようにも映った。ランキングが日本より下位なだけにチャレンジャー精神で挑んできた。その点、彼らのほうが殺気立っていた。

 それに対して、日本は受けて立っていなかったか?

【「解決策を探していかなければならない」】

 カナダ戦の髙橋藍は勝負にかける気持ちを見せ、捨て身に近かった。結局、それがプレーを好転させていた。彼の本来の力を引き出していたのである。

 しかし、チームとしては沸き立つような戦いができなかった。

――全体的に切迫感が足りなかったのでしょうか?

 髙橋に訊くと、彼は一瞬、逡巡して答えていた。

「経験が少ない選手は多かったと思います。自分もまだ24歳で、正直、その経験は足りていないし、完璧にやれているわけではない。ただ、『ロス(五輪)で勝つ』と言うからには、今日のような試合で勝てるようにならないと」

 乾坤一擲の勝負を挑めるか。その差が出たかもしれない。

「今日のカナダ戦はトルコ戦よりよかったと思いますが、カナダもいいプレーをしてきて。我々もこうした経験から学ばないといけません」

 東京五輪でフランス代表を優勝させた名将ティリ監督は柔らかい表情を作って説明し、こう続けている。

「我々は負けたわけで、解決策は探していかなければなりません。おそらく、もっとタフな試合を戦わないといけないでしょう。フィジカル的なタフさというか、テクニックレベルはもう高いので。ただ、忘れてほしくないのは、私たちは今チームビルディングの真っ最中ということ。ロサンゼルス五輪という長いゴールに向かっているところなのですよ」

 日本国内では、批判するポイントを見つけ、ネガティブな感情が渦巻いているという。

「あの選手が足りなかった」「あの選手がよくなかった」「監督の問題ではないか」「もともと強かったの?」......。結果だけを見た人まで、ここぞとばかり御意見番になる。

 現場で戦いを取材していると、入り込んでしまい、敗因の整理は難しい。どれも一理あるが、どれも的外れに思える。それはシンプルで、複雑なものだ。

そこで、あえてティリ監督に訊いた。

――単刀直入に訊きますが、西田有志選手、関田誠大選手の不在は響きましたか?

「そうは思わないよ。彼らは確かにここにいないけど、我々にはここでプレーしている選手たちがいるからね。それは言い訳にもならない」

 ティリ監督は笑みを失わずに答えた。彼の言うとおりだろう。男子バレーは強くなって新しい扉を開いたからこそ、批判も浴びる荒波に躍り出たのだ。

 ここ数年、男子バレーが人々を魅了してきたことは間違いない。

 たとえば、今年5月に発売した髙橋藍が表紙のスポルティーバのバレーボール特集号は、東南アジアで飛ぶように売れたという。大人気バレー漫画『ハイキュー??』とのコラボだった影響は大きいが、まさに漫画から飛び出したような日本人選手たちが人気を博している。たとえ小柄でも創意工夫やチームワークで「ボールを落とさない」という絆に、海の向こうの人々が共感しているのだ。

 日本人選手の注目度の高さは、フィリピンの会場でも強く感じられた。

「YUKI!」「RAN!」「TAISHI!」「KENTO!」......サーブのたび、ファンは選手の名前を呼び、決まると大歓声が起こった。それは同じ日本人として肌が粟立つ光景だったが......。

「この負けた気持ちを絶対に忘れてはいけない」

 髙橋は憤然と語っていた。

 世界バレー、最後のリビア戦がリスタートとなる。

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