9月17日、マニラ。バレーボール男子世界選手権(世界バレー)で日本代表のキャプテンを務める石川祐希は、試合後の取材エリアでひとつひとつの質問に丁寧に答えていた。

早く来て遅くまで残り、第一人者として「発信が使命」と捉えているようだった。予選ラウンド敗退を突きつけられ、苦い塊を飲み込むような戦いのあとのプロフェッショナル精神は感服に値した。

 図らずも最終戦となったリビアとのゲームは、セットカウント3-0とストレート勝ちだったが、石川は自らに厳しかった。

「僕個人に関しては、スパイクの決定率を上げられなかったのは反省点で、来シーズン、どんな球でも得点できる、もしくはリバウンドの判断力も磨いて、チームに戻って来られるように......」

 反省の言葉が口をついて出た。しかし、ひと筋の光明が見える"ひとつの終わりが次の始まり"の試合でもあった――。

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 リビア戦の石川は、試合前の練習から笑顔を浮かべていた。その明るさは多分に演じているようなところもあったのかもしれない。しかし、彼だけでなく多くの選手が明るさを表に出したことは相互作用し、それぞれに伝播していた。1セット目の半ばまでは連敗を引きずる気配もあったが、髙橋藍、エバデダン・ラリー、佐藤駿一郎という若さが爆発し、ブロックも振れるようになった。

 そして石川が偉大な選手の片鱗を見せた。ブロックが1枚半程度なら、たとえトスのコンビが調整段階でも、少々不調であっても、「託された」ものを打ちきれる。16-15からパイプ攻撃で視界が開けたところから打ったバックアタックは彼らしい無敵感で、容赦なく敵の心を砕いた。

25-20でセットを奪うまで相手を寄せつけず、その流れは25-17、25-12と、完勝につながった。

 特に3セット目は、髙橋藍が神がかったディグを見せ、石川が決めるシーンが複数あり、"これぞ日本バレー"のスペクタクルだった。

「ああいう展開が、今大会は少なかったと感じていますね。ああいうのがあったとしても、次のプレーで連続失点してしまって、流れを消されてしまう状況も多かったです。今日(リビア戦)は相手の心がもう折れていたので、こちらが乗れたのもあると思うので、そこは相手が強豪だったときにも乗りきれるのか。乗りきれなくても乗り返せるか。そこはこれから課題になってくると思います」

【「日本は強いと見られているのを感じた」】

 大会を通じ、選手ひとりではどうしようもない流れのなか、石川がリーダーとして打開策を見つけようと必死だったのは間違いない。ペルージャで最多得点を挙げて欧州王者になった猛者であり、それだけの実力と経験がある。しかし"チームのために"という献身と同時に、スパイカーとしてエゴを見せて決定率を上げるという作業には、相反するところもあって、簡単ではない。

 それが今大会、流れに飲み込まれた理由のひとつではないか。

「確かに"流れ"は大きいなって思いますね。トルコもイタリアでやっている選手が増えていたし......」

 石川はそう言って、整然と続けた。

「今大会でいうと、ランキングが下位のチームが上位のチームに勝つケースが多かったです。フィンランド、ベルギー、ポルトガル、ブルガリアもそうで、イタリアやポーランドの強いリーグで結果を残した選手たちが代表に戻って活躍し、強くなっている傾向を個人的に感じたので。そうした選手が自信を持ってプレーしたとき、日本が勢いで負けてしまったり、逆に勢いが通用しなかったり......僕たちの試合だけでなく、いろんな試合を見て感じました。試合のなかでの"流れ"(をものにするのに)は、レベルの高いクラブで選手が戦うことも大事だと個人的に思ったシーズンですね」

 石川は世界最高峰のセリエAで長くプレーし、傑出した実力者である。率直に言って、彼のような逸材はプレーに集中させるべきではないかという気もするが、彼が日本でキャプテンとして重圧を力に変えてきたのも事実である。だからこそ、代表チームは全体として石川をひとりにするべきではないだろう。キャプテンであり、エースである彼が燃え立つことで、ようやく日本は日本らしくなるからだ。

「ここ数年、日本が成長してきたチームであることは間違いないし、僕たちが"強いチーム"と見られているのを感じました。追う立場から、追われる立場になって初めて臨む1年目で、監督が変わり、新しい選手も来て、その変化があって......その意味で準備の段階で、もう少し固められたかなという反省点も出てきますね。最後、しっかりと勝ちきれたのが唯一よかったです」

 石川はそう言って、少し表情を緩めた。"ひとつの終わりが次の始まり"を繰り返し、彼は頂まで登ってきた。そこに広がる景色は限られた者しか拝めない。

「この経験は14人しかしていない。みんながそれぞれ、今後にプラスになる取り組みを」

 リーダーの決意表明だ。

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