9月17日、マニラ。バレーボール男子世界選手権(世界バレー)予選ラウンド最後のリビア戦ウォーミングアップで、リベロの山本智大は努めて陽気に振る舞っていた。

サッカーの鬼回しは、ダイレクトパスをつないでそれを鬼が追う。ボールを蹴っているだけだが、大はしゃぎだった。

「僕は歳も一番上になっているので、チームを支えていければと思っていました」

 山本はそう言って、少し元気が乏しいチームに活力が不可欠なことを肌で感じていたという。

「チームがトルコ、カナダに負けてしまって......その前の壮行試合からですが、自分としては"チームを明るくする"じゃないですけど、積極的に周りに声をかけていました。プレーだけでなく(存在感を)見せたいって思っていて......結果は目標とはほど遠い予選ラウンド敗退で悔しいですけど、この経験でチームが成長していけるように......」

 山本はそう言って、明朗な笑みを浮かべた。守護神のご利益がありそうな柔らかさだった。ブロックとの連係で守備がはまったとき、彼のディグ(スパイクレシーブ)は神がかっており、チームを救うのだが――。

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 山本はフィリピンで、守備専門選手としては意外なほど熱烈な人気を集めていた。取材エリアでは、一歩進むたびにフィリピン人関係者に捕まった。スマホを使って音楽を聞かされたり、どうも取材とも思えなかったが、人気者であることは確かだろう。どうやら人気バレーボール漫画『ハイキュー!!』の影響で、リベロのキャラに準(なぞら)えられているとか、いないとか。

「曲を流されて、『知っているか?』と聞かれて......たぶん『ハイキュー!!』や『NARUTO』の主題歌だと思うんですが、取材かどうかはわかんないです」

 山本はそう言って快活に笑った。

「フィリピンには毎年(試合で)来て思うんですけど、日本に負けないくらいのバレーの熱がありますね。勝敗に関係なく、純粋にいいプレーに拍手を送ってくれる。声援は非常にありがたいですし、今回の大会も日本とはまた違った声援であと押ししてくれました。この環境で試合ができるのは感謝です」

【「他国もディフェンス力が上がっている」】

 世界で実力が認められているリベロだからこそ、予選ラウンド敗退には忸怩(じくじ)たる思いがあったはずだ。

「理想と現実のギャップはありました。ここ2、3年は、代表がとてもいい流れで来ていました。VNL(ネーションズリーグ)でメダルを連続で獲って、オリンピックでもメダルには届かなかったけど、日本バレーが確立がされていく手応えがあっただけに......」

 山本はそう振り返ったが、「ボールを落とさない」という最後の砦になってきたリベロの言葉には重みがあった。

「僕も2019年に代表に入って、うまくいかない時期も経験してきました。だからロス(五輪)に向けての1年目としては悪くなかったと思います。世界バレーも勝って表彰台が目標でしたけど、簡単にいくとも思っていなかったです。監督が変わって、新しいメンバーも入って、噛み合わない部分もありましたから。今は『この体験も貴重だった』と言えるように......」

 日本の強さはサーブ、ブロック、レシーブ、トス、スパイクという一連のプレーの"回路の精巧さ"にあるだろう。

逆説すれば、そのどこで歪みが出ても劣勢となる。高さとパワーで相手を圧倒するスタイルではないだけに、精密な回路を維持できなかったら出力は下がるのだ。

――今大会、リベロから見た景色はどうでしたか? 難しい展開だったと思いますが......。

 そう訊ねると、山本は明るい声で答えた。

「難しいというか、できている時もあったんですけどね。日本だけじゃなく、他の国もディフェンス力全体が上がってきていると思います。今回はサーブの強さをトルコ、カナダで感じて、やっぱりサーブは大事だなとも思いました。日本もしっかりサーブを打てるようにしないと」

 サーブで崩し、ディフェンス力で粘って勝つのが日本バレーの信条だ。

「リビアは力が落ちる相手でしたが、サーブで崩すことで楽な展開に持っていけました。逆に、後手に回ると相手も狙ってきたはずで、ハードヒッターが少なかったから、サイドアウトは取れましたけど。強い相手にもそうやってサーブで優位に戦えるようにならないと」

 山本は冷静に試合を分析した。まずはサーブが生命線だ。

「トルコ、カナダに負けて、自分たちも完成度は高くなかったですけど、どちらも強いチームだと感じました。日本だけでなく、イタリアも負けて(予選リーグのベルギー戦に敗戦)、世界選手権はVNLとは違う独特さも感じましたね。僕らが世界から注目されるチームなっているなか、これからは研究してきた相手を跳ね返すメンタリティも必要になるかなって思いますね」

 山本は大会をそう総括した。帰国後は1週間ほど休んで、SVリーグ開幕に備えるという。バレー漬けの日々だ。

「(フランス代表のセッターで大阪ブルテオンに入団が決まっているアントワーヌ・)ブリザールは同い歳で、個人的に一緒にできるのは楽しみです! 世界屈指のセッターで、世界観が変わるかなって。長身セッターでレセプションのボールもいろいろと出せて、高いところも届くはずなので」

 山本はそう言って目尻を下げ、口角を上げた。人を安心させる輪郭だった。それがリベロの肖像かもしれない。

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